私は見た!
「ひぃ〜……な、なに?」
葵が目を恐る恐る開くと、そこは先ほどまでいた自然あふれる山の中ではなく、震えるほど寒い闇の中だった。
「えっえっ何も見えない……? す、スマホ……」
スマホを取りだすと画面から光が発せられ、眩しさに目が眩んだと同時に安心が得られた。
スマホの灯りを頼りに周りを観察すると、岩肌で辺りを囲まれており、ここは洞窟であると理解できた。
「寒……な、なんでこんなところ…どこ? ……おひぃ⁉︎」
後ろを振り向くと、一人の女性が照らされ、葵は多いにビビった。
女性は灯りも持たず壁にもたれかかっており、下を向いて俯いているため、眠っているように見えた。
狭い空間、二人きり、人見知りの葵にとって緊張しない筈もなかったが、今の暗闇の中では唯一の頼りである。
勇気を出して話しかけてみる。
「……へ、へへ……あ、あのっすいません…私、さっき変なことが起こって、あっ私日比谷葵って言いまして……」
「…………」
「ここ、どこですか、というか……あのぉ……?」
「……」
「……なんでも、ないです、すいません……」
葵なりに頑張って話しかけたが反応が貰えなかったため、萎縮して思わず声が小さくなった。
そのまましばらく気まずい空気が流れ、葵がどうすれば良いのか分からず寒さに腕を組んだ頃、ふとある事に気づく。
座っている彼女から、一切音が発せられない。
寝言や動く音、呼吸音が聞こえてこない。
「……あのぉ?」
灯りを近づけるも反応が無い。
こわごわと近づいてみると、彼女の足元に赤黒い液体、恐らく血が広がっていた。
ケガ、と認識した葵は隣にしゃがみ込む。
「あっあ、え……だ、大丈夫ですか⁉︎ ……っ⁉︎」
近くで顔を覗き込んだ葵は血の気が引いた。
その女性の顔は唇まで青ざめており目は虚で、おおよそ生気というものが感じられず、死んでいるようだった。
しかし葵が青ざめた理由はその女性死んでいたからではなく、その顔が見知った顔であったためだった。
「なっ何で……これが、私……?」
その顔は毎日鏡で見る自分自身、日比谷葵そのものであった。