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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第二部 スケアクロウズと冷たい伯爵

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第27話「困ったときは」

 品を受け取り礼を言ってから店をあとにして、まっすぐその足でバーナム邸へ向かう。ひとりで訪ねるのは不安で、シトリンがいっしょにいてくれれば交渉もスムーズに進むだろうなと思いつつも「オズモンド卿にお会いしたいのだけれど」と見覚えのある庭師に声を掛ける。彼は顔をあげて「少しお待ちを」屋敷のほうへ駆けていく。


 しばらくして執事らしい品のある男性が庭師といっしょにやってきて、胸に手を当てながら深々とお辞儀をする。


「初めまして、お嬢さん。私はディルウェン・バーナムと申します。オズモンドは用があって家を出ているのですが、代わりに私ではお力になれることはございませんか」


「ディルウェン……ああ、もしかしてオズモンドの」


 彼は深く頷き、優しい笑みを浮かべた。


「息子です。あなたはソフィア様ですよね? 父から聞いています」


 リズベットの元婚約者で、彼女の旅を後押しした人物。それがディルウェンであり、凛とした顔立ちながらも物腰柔らかな雰囲気は父親のオズモンドにそっくりだった。


 しかし頼りにしていいかどうかは分からない。オズモンドであれば助力になってくれると思うのは彼が当主だからで、いくらディルウェンも信用に足る人物だったとしても当主の判断なくして勝手なことは出来ないのでは、と頭を悩ませる。


「うーん。実を言うとあまり話せない事情があって、友人と会うのに応接室をお借りしたかったのだけれど……彼がいないのに頼むのも申し訳ないわ」


「ハハ、そういうことでしたらお気になさらず」


 引き上げてシトリンに場所の変更を相談しようとするソフィアを呼び留め、彼は邸宅を手で指して「父がいないときは私にすべての決定権があります。お使いになりたいのでしたらどうぞ」と誇らしそうにする。


「困りごとがあれば助け合う、それがバーナムの方針です。私たちの誇りのためにも、どうかあなたのお力として使ってはいただけませんか、レディ」


 彼がリズベットに対して親身になってくれるのは、話を聞いていたことから間違いないと確信はあった。オズモンドもいつ戻るか分からないのなら賭けてみるのも悪くないかもしれないと思い、持っていた包みを渡す。


「じゃあ、これを受け取ってくださる? ただ借りるだけなのも申し訳なくって、お土産を用意してきたの。喜んでもらえるかは分からないけれど」


「……? 開けてみてもよろしいですか?」

「ええ。ぜひそうして頂けると嬉しいわ」


 包装がイエローメノウのものだと分かってディルウェンの瞳は期待を宿して中身を確かめる。薔薇の紋様が入った万年筆に彼はひと「おお」と唸った。


「これはまた見事な……あ、いや、薔薇の紋様……?」

魔女様の恋人(・・・・・・)が旅の途中に作った非売品だそうです」


 合点がいったのか、彼は「ああ、そういえば」と思い出す。


「何年か前に魔女がラルティエに滞在されていた話は聞き及んでいます。残念ながら直接会う機会はなかったのですが、そのときイエローメノエの主人が自慢げに話していた記憶がありますね。ここまで貴重なものを彼が譲ったのですか?」


 ソフィアが「お店をたたまれるそうです」と寂し気に返すとディルウェンはひどく残念そうにした。気さくでよく働く、落ち着きも感じられる老紳士。それがイエローメノウの主人だった。幼いころから世話になったと彼は万年筆を見つめる。


「こんな貴重なものをいただけるとは思いもしませんでした。実を言いますと、父だけでなく私もこうした品を集めるのは好きでして……。ありがたく受け取らせていただきます、レディ。さあ、ひとまず中へ入ってください」


 彼女をすぐに邸宅へ招き入れ、応接室に案内する。


「紅茶かコーヒーか、どちらがよろしいですか」

「そうね、コーヒーがいいわ」

「わかりました、用意させますのでしばらくお待ちを」


 万年筆の入った箱を大事そうに抱えてディルウェンは部屋を出る。心なしか彼が嬉しさを隠し切れず、にやついているように見えた。


 部屋にひとり残ってから、指輪に向かって話しかけてみる。


「シトリンさん、聞こえてるかしら。こっちは上手く行ったわ、いつでもバーナム邸に来て。オズモンドはいなかったけれど、ディルウェンが通してくれたから」


 指輪にとくに反応があるわけでもなく、輝いたりするものかと期待したぶん少しだけ残念そうに口先を尖らせた。これでは余計不安になってしまう、と。


「……大丈夫よね。シトリンさん、嘘はつかない主義って言ってたし」

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