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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第二部 スケアクロウズと冷たい伯爵

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第24話「目立たない場所が良い」

 寂しさを抑えながら大事に抱えたぬいぐるみにリズベットを想い、城へ戻ってアニエスたちに報告を済ませたあとは部屋に戻って眠る前に作戦会議だ。今回はリズベットを取り戻すことはできなかったが、まだやるべきことがあると伝えて──エイリン殺害の可能性は隠したまま──もう数日は王城に滞在するのを選んだ。


 クレイグやアニエスと別れてシトリンとふたりきりで部屋に残り、イレーナが話していたことを纏めてみる。


「……というわけなんだけれど、どうにかイレーナと会えないかしら?」

「そうですね、できれば王城のそとで会えればいちばんなのですが」


 アニエスやクレイグたちには話さず──犯人も分からないうちから各方面に協力を得るのは難しいと判断した──少数でエイリンの死について調べたいシトリンは、イレーナと会うのならコールドマン邸から離れていることも重要だと考えた。


「まんがいち適当な店を選んで話をしたら妙なうわさが立ったりするかもしれませんし、コールドマン邸の近くだとアゼル様に見つかる可能性もあります。できるだけ見つからない安全な場所で話を進めたいんですけど……」


 うーんと腕を組んで頭を悩ませる。王都ラルティエの広い土地は慣れ親しんでこそいるが、よく歩くような場所に限っての話でしかない。観光にもあまり興味のないシトリンも大して土地勘がなく、記憶にあるのは味かあるいは景色の良いレストランばかりだ。


「たしかソフィア様はラルティエには……」

「今回が初めてよ、残念だけれど」

「……ですよねえ。貧民区も治安が悪いですし」


 襲撃を受けたような場所ならひと目にも付きにくいが、そのぶん身なりが良いというだけで襲われる可能性もある。ゆっくりと話ができるわけがない。ソフィアもまだあちこちを歩くには道を覚えていないし、困ったものだと頭を抱えたくなった。


「ごめんなさい、たいした力になれなくて」

「構いません。お互い様ですから、私も知りませんしね」


 今から探しに出るのは難しい。明日に改めて考え直そうとシトリンが提案したが、ソフィアはそれではイレーナが先に行動してしまう可能性があると指摘して、話はなかなか進まない。しばらくの沈黙がふたりのあいだを通り過ぎた。


「……あ。もしかしたらあるかもしれないわ、良い場所」


 ふと思い出す。最初にラルティエを訪れたとき、偶然に出会った男。オズモンド・バーナムであれば力になってくれるかもしれない、と。


「シトリンさんは嫌かもしれないけれど、事情を話してオズモンドに協力してもらえないかしら。リズのことも気に掛けてくれていたし悪いひとではないはずよ」


 どうやらシトリンも知っていて「ああ、あの方ですか」と手を叩く。


「ローズ様のご友人ですね。ずいぶん昔にお会いしたきりで、近々手土産を持って久しぶりに訪ねたいと仰っていたのを覚えています。なにしろ自分の代理を見つけたものですから、あちこちへ顔を出そうとしているみたいでして」


 オズモンドは自分がレディ・ローズから信頼を受けていないと考えているようだが、億劫な仕事を頼んだりもせず彼女をもてなしたこともあってか、実際のところはそれなりに評価はされていた。シトリンも彼ならば問題ないだろうと納得する。


「手土産……そうね、それが良いわシトリンさん。ただで協力を得るのは申し訳ないかなと思っていたところだったけれど、手土産があれば話は聞いてくれそう」


 地図はリズベットが持ったままになっていて、シトリンが所有する地図を借りてベッドに広げる。まっさらできれいな地図を見て「記憶力だけは自慢できるのよ」と鼻を高くする。指さしたのは『イエローメノウ』と書かれた小さい店だ。


「えーとこれは……文具店、でしょうか?」


 シトリンが目を細めて首を傾げる。


「そうよ。普通は貴族にお土産といったら高価な食器とか装飾品とかなんでしょうけれど、オズモンドはあまりそういうのに興味がないみたいなの。それで話をしたときリズが言ってたわ。『ペンだけは高いものを集めてる』って」


 オズモンドへの手土産を探すにはちょうどいいかもしれない。なにかひとつでも彼が喜びそうなものを持っていけば、きっと良い方向に進んでくれるはずだと期待する。


「でしたら明日は私がイレーナ様に声をお掛けしますので、そのあいだにソフィア様はオズモンド様へのわい……こほん。手土産を用意して頂いてよろしいですね?」


「ちょっと何を言いかけたのか気になるけど、それでいいわ」


 ゆっくり話す時間が取れると分かれば、あとはそのときを待つだけだ。「では今日のところはこれで私も失礼いたします。明日またお会いしましょう」そう言ってシトリンもすがたを消す。部屋にはひとりソフィアだけが残された。


「……ふう。ひとりで寝るの嫌だなあ……」


 ベッドに潜り込んで、ぬいぐるみをぎゅっと抱く。


 リズベットと別れてから初めてひとりで夜を過ごすのがすこしだけ怖かったが、彼女の疲労はそれを塗りつぶすように彼女を眠りへいざなった。

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