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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物
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第2話「計画を立てながら」

 自由で何にもとらわれないリズベットの考え方には、ソフィアも正直に言えば憧れていた。檻の中に閉じ込められ続けた人生は彼女の抵抗を『無意味だ』と告げて来た。何をしてもスケアクロウズの呪縛からは逃れられない、と。


 だが何百年も待ち続けた彼女の自由への渇望はついに満たされ、今やどこへ行こうが何をしようが自由なのだ。まだ新しい環境に慣れていないだけでゆくゆくはリズベットのように、と胸に新たな願いを抱いていた。


「ねえ、それならモンストンにはアクセサリーの店はあるかしら?」

「もちろんあるよ。ちょっと高いけど、いいものが揃ってる」

「……あー、そうね。別に高くなくてもいいの」


 スケアクロウズ家は貴族ではあったし、ソフィアが着ているものもそれなりに高級だが彼女は『誰かが与えた価値』よりも『自分が見定めた価値』のあるものを身に着けていたいので、高いものは確かに美しいが、かといって気に入るものではない。


 宝石や見目麗しい装飾が施されているものよりも、どちらかといえば伝統工芸品や目立たない銀細工のものを好んでいると伝えると、リズベットはそれならと手を叩く。


「エリス商会によく銀細工が持ち込まれてるんだ。職人さんが気難しいのか恥ずかしいのかは知らないけど表に出たがらないらしくて、代理で販売してるんだって」


「それは楽しみね。銀細工のアクセサリーは好きなの」


 自分の手首に巻いている荊の腕輪を指さして言う。自衛のためにも使われる銀製の腕輪は彼女のお気に入りだ。


「じゃあとりあえず教会に寄って神父様に挨拶したら、そのまま商会に向かおうか。そのあとは……そうだね。適当にふらついて、できれば暗くなる前に宿を取ろう!」


 一日の計画を立てているところへいい香りが漂ってくる。モーリスがプレートに山盛りの料理をのせてやってきた。


「お待ちどう。リズベットの連れならサービスだ、たっぷり食べな。そのかわり今後とも贔屓にしてくれ、メシの上手さには自信があるからよ」


「ありがとう、モーリスおじさま。とても嬉しいわ」


 微笑まれるとモーリスも照れて頬を掻く。ただ当たり前だと思ってしていることに感謝されるのがあまり慣れていないらしい。


「もし足りなければ言えよ、急ぎで作ってやる」

「ねえおじさん、アタシにはないの?」

「お前はいつも多めに食ってるだろうが。欲しけりゃ払え」

「ちぇっ、ケチだなあ。こんなに可愛い奴が頼んでるのに!」

「鏡を見てから言え、鏡を。平凡な顔が映ると思うぜ」


 がははと笑われてリズベットは頬をぷうっと膨らませた。だが、それは互いに交わす普段からの冗談だ。決して不機嫌になったわけではなく気に留めてもいない。


「あー、もう意地悪だね。それよりおじさん、実はお願いがあるんだけど」

「ン? 言っとくがツケはきかねーぞ、ウチは」

「そーじゃなくてさ。この子、実は旅行が初めてでね」


 もともとはリズベットと同じ旅人だったモーリスに、モンストン以外のオススメの国や町を尋ねてみる。彼は腕を組んで唸りながら各地の思い出を掘り起こす。


「ケトゥスっつう港町なんかどうだ? 新鮮な魚が美味い。貴族様御用達の小さい島なんかもあるそうだが、今は結構安く泊まれるらしいぞ」


「へえ、それはいいね。ありがとう、参考にするよ。ここから遠くないし」


 旅の目的地を決めるために地図を眺めながら食事をするリズベットは、淑やかに食べ進めるソフィアを見て少しだけ恥ずかしそうに、地図を折りたたむ。モーリスはそんな彼女をみてくっくっと笑いを堪えながらキッチンへ戻っていった。


「どう、ソフィア。美味しい?」

「とても。とくにこのスープが好きだわ」


 しずかにひと口飲んで、ホッとした表情を浮かべる。


「程よい酸味が豆の素朴さも引き立てていて……それにハニージュースも甘いのに酸っぱくて不思議な感じよ。私の好みにぴったり合っているから、モンストンを出る前にもういちど立ち寄りたいわ。いいかしら、リズ?」


 童心にでも帰ったように目をきらきら輝かせるソフィア。連れ出したのは正解だった、と自分のベーグルを彼女に皿ごと差し出す。


「これも食べな、おじさんの手作りはパン屋にだって負けないくらい美味しいよ。アタシはいつもここでベーグルとハムエッグを頼むんだ。次来るときはオススメしちゃうよ!……あ、あとりんごジュースもいいね。ひと口飲んでみる?」


 差し出されたグラスを満たす薄く鮮やかに色づいた飲み物に興味津々のソフィアは、小さく頷いておそるおそる口をつけてみる。そしてすぐにぱあっと目を見開いて感動したようにリズベットとりんごジュースを視線が行き来する。


「はは、気に入ってくれたみたいで嬉しいな」


 もうすでにソフィアは大盛りだった料理をぺろりと平らげており、自分のジュースも飲み干している。リズベットはにっこりして「それを飲んだら出発しようか」と折りたたんだ地図を手に、彼女が飲み終えるのをゆっくりと待った。

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