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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物

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第55話「策謀の裏側」

 ソフィアは推察する。すべての始まりはローズが見つけたオルゴールをマーキンから手に入れようとしたときからに違いない、と。


 彼にはもともと返済しなければならない借金があり、頭を悩ませていたところでローズが彼の持っていたオルゴールに目をつけた。なんとかすぐに回収したいのもあったが、なんらかの事情──おそらくは他の仕事もあって──に、手放すのを渋ったマーキンに『改めて話がしたい』とでも伝えたのだろう。


 そこへちょうど都合よく話を聞いたのがガリーニ・ウォレス。マーキンの取り立て屋だ。魔女がどうしても欲しがる代物ならば大金を踏んだくれると考え、彼らは内々にシナリオを創り上げた。金に目がくらんでオルゴールを売った臆病者のマーキンを演じ、彼に〝いくらか良心的な方法で返済をさせた取り立て屋〟としてガリーニを紹介させる。面通しが済めば、大金を吹っ掛けて応じさせる。もちろん不自然なほどの額ではるあが、魔女ならば払えると考えた。


 もしも出し渋ったのなら宿に火を放ち罪をなすりつけることで、宿の修繕費として不足分を回収する手はずになっていたのだろう。マーキンと共謀して証人をあらかじめ作っておき、リズベットやソフィアが否定の言葉を差し向けたところで味方を呼び出そうとしたはずだ。だが計画はずさんだったとソフィアは鼻を鳴らす。


「むしろ焼け死んだらラッキーだとでも思ったんじゃないかしら。死人に口なし、なんて言うくらいだもの。そうでしょ、マーキン?」


 ソフィアたちが火災に巻き込まれても、ガリーニがいれば魔女にいくらでも言い訳ができると信じていたマーキンは、良い当てられてドキリとし、慌てて言い返す。


「そんなのはただの想像だ! 俺が自分の宿に火を放つなんてばかなことをするかよ、ここは死んだ兄貴から引き継いだ大切な宿なんだぞ! なにも知らないくせに──」


「でもあなたならやるわ。詭弁でもなんでもなく」


 焼け落ちた建物のなかを何かが動いた。銀で出来た太くしっかりした荊が、なにかを大切に守るかのように蠢いて球状をとっていて、火が落ち着くとゆっくり退(しりぞ)く。


「建物の外は燃えていたでしょう? 壁にも触れられないし、だからせめていくらか出火原因(・・・・)になりそうな場所は全部、あらかじめ守っておいたの。建物が崩れても無傷で済むようにね。暖炉とか、キッチンとか。私たちが犯人ではないと言うためにね」


 彼女の言ったとおり荊で守られた場所はなにひとつ燃えないまま残っている。煤だらけの暖炉や周囲の絨毯などから燃えた痕跡もなく、キッチンは綺麗に片付いたままのすがたを保っていた。


「それにあなた、今言ったわよね。薪を取りに行ったけど誰もいなかったって。ということはいったい誰が火をつけた(・・・・・・・)のかしら? もしかして──」


「ち、違う! 違う違う違う! 俺じゃない、あんたたちが……」


 ぽん、とマーキンの肩を誰かが叩く。さきほどソフィアに声を掛けた老人だ。


「マーキン、こんな田舎だ。もう分かっていることだろう? 人数も少ないしみんなが集まって来たとき、ここにはあんたしかいなかった。火をつけるとしたら誰かは限られてる。スケアクロウズさんが引っ張ってきたゴロツキ共か、あんたのどっちかだ」


 村人たちは互いに誰がいつやってきたかを知っている。少なくとも火の手があがる前に宿の近くにいたのは、マーキンただひとりだけだった。膝から崩れたマーキンは、もう反抗的な言葉を流さない。


「あなたが正直に話してくれたら良かったのだけれど……残念だわ、マーキン。借金をつくったのもガリーニの口車に乗ったりしたんでしょう? あなたに然るべき天罰が下っただけの話よ。ああそれと、そっちのあなたたち」


 ソフィアが睨みつけたのは捕らえたガリーニの部下たちだ。


「あの男はまだ森にいるのかしら、それとも逃げちゃった?──正直に言わなかったらどうなるかなんて、みなまで言う必要もないでしょう?」


 ギリギリと荊が彼らをゆっくり締め上げていく。


「ま、まだいるはずですッ! す、すみません俺らも従うしかなくて!」

「そんな下衆じみた言い訳を聞くと思う? 子供のわがままよりひどいわ」


 腕輪から荊がぷつりと切り離され、村人たちに近くの町にいる憲兵につきだしてやるよう言ってから彼女はリズベットの手を握って「行きましょ」と微笑む。


「すごいね、ソフィア。よくあそこまで……っていうか、いちばん驚いたのは魔女の道具のおかげってことにしたところだよ! あんなごまかし方があるなんて!」


 歩きながらリズベットがべた褒めするが、彼女は首を横に振った。


「残念、私の案じゃないわ。魔女様がそうしろって言ったのよ」

「そうなんだ? でも咄嗟に言えるのはソフィアが冷静だったからだよね」

「……あなたって底なしに褒めるのね。照れるからやめてちょうだい」


 かあっと顔を赤くしてそっぽを向き、深呼吸をする。


「ふう、落ち着いた……。次はガリーニの顔を真っ赤にしてあげなくちゃ」

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