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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物

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第52話「銀細工の行方」

 ひとまず村を歩いて目的の宿へ足を運ぶ。いささか小ぢんまりとした外見の古ぼけた宿はすぐに見つかり、主人である中年の男がぼんやりと外で煙草をふかしながら暇そうにしている。椅子にのんびり腰掛けて遠く景色を眺めながら。


「すみません、レディ・ローズの紹介でやってきましたコールドマンとスケアクロウズという者ですが、こちらが〝ふくろう亭〟で間違いないですか?」


 男はすぐに煙草を地面に捨てて火を踏み消す。


「これはわざわざ遠くまでご足労ありがとうございます、手紙で伺っておりますよ! 部屋はもう準備できていますから、どうぞこちらへ!」


 ふたりを案内し、カウンターに準備しておいた鍵を渡す。


「こちら二階の鍵です。部屋はひとつだけなので、少々狭いかもしれませんが。……あ、自己紹介が遅れましたね。私はマーキン・セイドリックと申します」


「アタシはリズベット、こっちがソフィアって言います」


 軽い握手を済ませて話は本題へ移る。


「実はこちらの村で薔薇の刻印がある銀細工をローズ様から回収してくるよう言われているのですが、ご存知ありませんか?」


「……あ、はは……実はそのことで言わなくてはならないことが……」


 マーキンは苦笑いを浮かべて小さく頭を下げた。


「借金がありましてね。銀細工を高く買い取ってくれるというものですから、つい、その、目がくらんでしまって。……売ってしまいました、すみません」


 もともとは魔女が買い取る予定だったものを先にやってきた借金取りの男が『きれいなモンがある、これは高く売れるに違いない』と、仕入れとして買い叩いたらしい。それでもわりと高額な提案だったので、マーキンは乗ってしまったようだ。


「困った人ね……。いったいいくらで売ったの?」

「銀貨を七枚です。借金はもっと少なかったので、そこから返済を」


 利益を見越しての話だったのだろう。リズベットが「そのひとたちはどこへ?」と尋ねると、彼は申し訳なさそうにしながら答えた。


「ガリーニ・ウォレスという方が村の近くに拠点を持っています。ええっと……少々お待ちを。今すぐ紙とペンを用意しますので」


 簡易的な地図を書く。「ありがとうこざいます、行ってみます」リズベットが笑顔をで受け取り、ソフィアといっしょに宿を出る。内心ではマーキンにいくらか苛立っていたのか、ムッとした顔でため息をつく。


「売っちゃうだなんてどういう神経してんだか。魔女様よりお金が大事だったってこと? ホントーにムカつくよね。しかも借金取りって……」


「ふふっ、あなたでもそんなふうに怒るのね。大丈夫よ、なんとかなるわ」


 普段は見ないリズベットの不機嫌に、ソフィアは可笑しそうにする。


「でもなんだか妙な感じがするわ。落ち着かないというか……」

「どういうこと? あっ、もしかして危険な香りとか!」

「そのとおりよ、リズ。あのマーキンという男は信用できないわ」


 ソフィアはスケアクロウズの人間の狡賢い素顔を見て来た経験から、どうにもマーキンの表情が嘘っぱちのように感じていた。あの男の落ち着かない視線が何かを企んでいるようだった、と。


「魔女様にはいろいろと言ってしまったけれど、もしあなたの身に何か起きるようであれば遠慮なく魔法は使っていかなくちゃ……」


「んー、まあ、大丈夫さ。相手もそんなに大事にはしたくないだろうし」


 自分たちが魔女の代理として来ていると話せば、何者であれ揉め事を回避したいと思うのは当然だ。魔女とはどんな国の誰よりも敵に回してはならない存在なのだから。ガリーニ・ウォレスがどんな人物であるかを知らずとも、話し合いくらいはできるはずだ。


「念には念を、よ。話し合いが上手くいかなくて危害を加えてくるようなことがあれば容赦するつもりはないわ。あなたを襲った盗賊を追い払ったときみたいに」


「頼もしくて助かるね。じゃあ、挨拶と行こうか!」


 のんびりと地図に従って歩き、やってきたのは村のはずれにある小さい森だ。ときどき猟師がやってくるくらいで、滅多と人が訪れない場所にガリーニ・ウォレスの拠点はある。といっても臨時でテントをいくつか張っているだけだが。


 リズベットたちの接近に気付いたのか、何人かいる男たちが顔を向ける。


「ウォレスさん、誰か来たみたいっすよ」

「女がふたりだ。しかもべっぴんと来てる」


 ひときわ立派なテントから大柄の男が出てくる。筋肉質でよく鍛えられたからだは、立っているだけでも威圧的に感じてしまうほどだ。


「あン? 誰だ、あんたたちは。ここはガキの来るとこじゃねえぞ」


 眠たそうに大あくびをするガリーニは、面倒くさそうにふたりを見た。


「初めまして、あなたがガリーニ・ウォレスさんですね。アタシはリズベット・コールドマン。そしてこっちがソフィア・スケアクロウズ。──今日は魔女の遣いとしてやってまいりました。すこしお話をさせていただきたく思うのですが、構いませんか?」

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