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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物

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第51話「小さな村を目指して」

────二日はあっという間に過ぎた。とうとうケトゥスの町を旅立ち、ローズたちに見送られて列車で彼女たちは出発する。地図を広げ、任された魔道具の回収のために次の目的地までの時間を計算する。


「あー、楽しかった!まさか魔女様に会えるとは思わなかったし、友達にもなれたから人生って何が起きるかわかんないよねえ。……あ、それで次にアタシたちが行くのはハートゥリッドっていう小さい村なんだって。魔女への強い信仰が根付いてるらしいよ」


 ソフィアは窓の外を眺めながら、ケトゥスを出るときに買ったチョコレートを食べる。


「粗相のないようにしなくちゃね。魔女の顔に泥を塗るなんてことがあったら死ぬまで後悔することになりそうだわ」


「アハハ、ただ銀細工を回収するだけなんだから大丈夫だって」


 今まで通り魔法を無理に使う必要はない。もし使うことになったとしても、ルクスのときほどにはならないはずだとリズベットの考えにソフィアも同意を示す。


「その通りね、リズ。ハートゥリッドまではどれくらい?」

「列車で二時間ほどだって、案外近いみたい」


 小さな村に列車が止まるというのは本来あり得ない話だったが、ハートゥリッドは各地の商会と関係を持ち──とくにカレアナ商会とは根強い関係──良い環境下で育てられた作物を頻繁に仕入れにやってくる。


 また農村での暮らしを体験できるというのもあって宿泊に来る人々が後を絶たず、宿も二件ほどしかないので予約を入れておかなければ日帰りになるだろう。そこはローズが「私のいくつかある拠点のひとつとして、部屋をとってある」と紹介してくれた。


「まー、言ってみればソフィアのいた森くらい静かなとこだよ。アタシも二回だけ荷物を届けに行ったことがあるけど……泊まったことはないなあ」


「ふふっ、じゃあ楽しみにしておかないとね」


 リズベットもよく知らないのなら、今度は旅らしいものになるだろうとソフィアは内心ですこし喜んだ。今までは彼女に連れまわってもらうだけだったのが今度はふたりとも知らないのだ、と。ついついチョコレートを食べる手もはやくなった。


「ね、そういえばソフィアの魔導書ってずいぶんきれいになったよね」

「……ああ、これ。魔女様にしていただいたのよ」


 ケトゥスを出る前、言われたとおりカナロ島を訪れたソフィアは綺麗になった魔導書をいっそう美しい黒い表紙にしてもらい『私の代理を頼んだぞ』と声を掛けられて、キリッとしながら二つ返事をしたが飛び跳ねたいくらい喜んだ。


 リズベットに見せつけるように両手で掴み持ち、ニコッとする。


「これから私は魔女代理、その証としてね」

「へえ、じゃあアタシは助手って感じか! 悪くないなぁ!」


 顔はそれほど広くない何でも屋だったリズベットは、自分がすっかり平凡な人生から逸れているのに気付いてニヤッとした。


「アタシこのまま、ぼんやり旅を続けて終わるんだって思ってたんだ。まさかソフィアみたいな子に出会えて一緒に旅ができるなんて素敵だよね。大したロマンチストじゃないんだけどさ、こう……アタシの人生は始まったばっかりなんだって感じ」


 ソフィアは「なにそれ」と言って笑った。


「だって、世界ってあまりにも広すぎて社会はアタシたち個人に優しくしてくれるわけじゃないでしょ? お金稼ぐだけでも大変で、最初はすごく苦労したんだもん。最初から持ち歩いてたのはなけなしの旅費と気合と、ちょっとの礼儀だけ」


 よく自分でやってこれたものだ、と感心してひとり頷く。


「でもあなたは上手くやってきた。とてもすごいわね、リズ」

「君もね。もしアタシが何百年も閉じ込められてたら気が狂ってるかも」


 お互いの苦労を笑って思い出に塗り替えて歓談は進む。二時間は瞬きをするようなはやさで過ぎ、気付けば汽笛が鳴り響いてハートゥリッドへの到着を報せた。


「あ、もう着いたんだ。なんかはやく感じたね」

「ええ。忘れ物はないかしら?」

「もちろん。さ、いっしょに行こうか」


 窓の外に見える村はのどかだったが、いざ列車を降りてみると虫の鳴き声と草の擦り合う音がするだけで、家々は大きいが人影らしいものはほとんど見当たらない。老人たちが汗を流して畑を耕し、水を飲んで休むすがたがちらと見えた。


「……田舎、だねえ。今までとは比べ物にならないくらい」

「ええ。本当にこんな村に銀細工なんてあるのかしらね……」

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