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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物

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第49話「魔女からの提案」

 スケアクロウズ家は、どの世代にかかわることなくあらゆる世界の貴重品を収集するのが趣味だ。良くも悪くも彼らの名を響かせたもっともたる所以だろう。その行いが魔導書にまで及んだのは魔女でさえ予想しなかった出来事だったが、レナード・スケアクロウズだけはいささか事情が違った。たとえば我が子たちに誤った方法で財を築かせようとも。


「頭をあげてください、魔女様。私はなにも恨みや後悔はないのです。止まった時間のなかを歩き続けるのは苦痛ではありましたが、おかげでリズと出会えたことにむしろ感謝すらしているくらいで……ありがとうございます」


 ローズは彼女と目を合わせ、やんわりと首を横に振った。


「たとえそうだとしても謝罪は必要だった。これはけじめだよ、ソフィア。私が犯した失態を、ただ甘んじて受け入れてもらうなんて到底できる気がしなかったからな」


 黙っているだけでは落ち着かない。真実を話してソフィアに文句のひとつやふたつ言われても仕方なかった。ささやかなミスが大きな綻びとなって、スケアクロウズの名が持つ歴史がどす黒く染まってしまった原因の一端は自分にもある、と。


「なら、もうお気になさらないでください。実際、私も本来使うべきではないのに魔法を私欲でいちどだけ使ったことがあります。銀細工を回収するのにも都合は良かったのですが、どうしても許せない相手がいて……ごめんなさい」


 今頃ルクスはどうしているだろうか、ふと思う。リズベットに対しての非道、周囲への自己中心的な行い、言動。そのすべてが許せなかったソフィアの怒りを向けた男は、きっと地獄を見ているに違いない。彼への行いについて魔法を使う以外にも手段はあった気がする、といまさらながらに思うこともあった。


「それこそ謝る必要はない」ローズがはっきり答える。


 首から提げた懐中時計に触れるとドクロのネックレスに変わった。


「何が正解で何が不正解なのか、そんなものは誰にも分からない。お前がそのとき正しいはずだと信じて使い、その行いで善良な誰かが傷ついてさえいなければじゅうぶんだ。私は神に対する信仰心を持っていないが、それは間違いか?」


 尋ねられてソフィアはすこし考える。自身が魔女であることを考えれば、神の存在を信仰しないとしても間違いではないだろう。かつてただの(・・・)スケアクロウズ家の娘だった頃には信じていたとしても変わることはある。だがそれで誰かが迷惑だと感じたことは、誰にもないはずだ。ソフィアの行いもまた、その程度の範疇にしかないとローズは言う。


「結局は使い道の問題だよ、ソフィア。うまくやって、むしろ誰かが笑顔にでもなっていたのなら私から言うことはないさ。……話が少し逸れたな、戻そう」


 謝罪を済ませたローズは「それからのことなんだが」と記憶をたどる。


「レナードがお前を監禁したことまでは知らなくてな。やつらもうまくやったものだ、私を謀って隠してみせたのだから。うわさにすら耳にしなかったくらいだ」


 ソフィアがスケアクロウズだと分かったとき、まず最初に驚いた。そして事情を聞くなりいろいろな感情が湧いたが、なによりがっかりしたとローズは肩を落とす。魔導書を取り上げ、私利私欲に使うべきではないと懇々、伝えたにも関わらず彼らは反省するどころか魔法を手放さずに済むよう画策していたのだから。


「だがひとつ感心したのは、お前が持つ魔導書だ。あれはよく出来ていた」


「ありがとうございます。もともとは父や兄姉(きょうだい)たちが創ったものでしたが、城に残っていた資料を参考に私が研究を進めて改良したものなんです」


 最初こそ気の進まない話ではあったが、何百年取り残されるのならせめて自身のためだけに役立てて、いつか本物の魔女に出会うことができれば礼を言って複製品を差し出すと心に決めていた。もちろん少しずつ期待は崩れていき、ただ孤独の日々を過ごすばかりだったが、こうして出会えたことは何よりの喜びだと彼女はふたたび語る。


「よく法則を見抜いて改良できたものだ。私たちも何代にもわたって続けてきたことだが、お前ひとりの知識でよくぞ本来の魔導書に近づけた。……で、だ。他にもいろいろと話したいことはあるが今回はもうひとつだけ、これは提案なんだが」


 今回の出来事を受けて、ローズも思うところがあった。これまでは魔法というたった数名の人間だけでは解き明かせない謎を歴代の魔女たちがそれぞれの知識と知恵で切り拓いてきたが、これからはそうある必要はないかもしれない、と。


 だからソフィアが頷くかどうかは別にしても伝えてみたいと考えたことがあった。


「お前の持つ複製品を、もうひとつの本物の魔導書(・・・・・・)にしてみないか」

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