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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物

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第45話「系譜」

 自分が気遣うように相手にも気遣われていることを理解したリズベットは、照れて顔を赤くしながら小さい声で「あ、ありがと」とつぶやく。ふたりの仲の良さにシャルルは満面の笑みだが、シトリンはとても不愉快そうだった。


「はいはい、ごちそうさまです。見ているだけでお腹いっぱいなので、はやく宿の予約をしましょう。……ちぇっ、羨ましくなんかないですからね」


 ふたりが泊まる宿、リオ・サンドラは老齢の男性がひとりで切り盛りしている。部屋の数もなく客もほとんど取らないが、そのぶん内装はかなりしっかりとしており、シトリンが勧めるのも分かるくらいだ。隅々まで清掃も行き届いているのが入って来る者の気分を良くさせた。


「いらっしゃいませ。四名様でお泊りですか?」


 シトリンが首を横に振った。


「いつもお世話になっています、ダリオ。今日はこちらのふたりだけで費用の負担はローズ様が。夕食は外でしますから食事の用意は必要ありません」


「……わかりました。お部屋は二階をあがってすぐです」


 鍵を差し出され、すぐにシトリンはソフィアへ手渡す。


「本当ならもう少しゆっくり観光を楽しみたいところでしたが、少々時間を使い過ぎてしまいましたので続きは明日にでも。私たちはいちどカナロ島に戻ってローズ様を迎えに行ってまいります。またあとでさっきのレストランに集合といたしましょう」


 シャルル、シトリンと別れて部屋へ行く。夜まではゆっくりしよう、とベッドに腰掛けて楽しい時間にいったんの落ち着きを取り戻す。


「ねえ、ソフィア。ベッドじゃなくてこっち来なよ」


 リズベットが窓を開けて身を乗り出しながら言った。


「すごく景色がきれいだよ。遠くにカナロ島が小さく見えるんだ」

「本当? ちょっと待って……あら、すごいわね」


 海に向かって下るような斜面にできた港町ケトゥスは建物の背も低く、高い位置にあるリオ・サンドラの二階から見る景色は町を見渡せるほどの美しい景色を見せてくれた。遠くはカナロ島や、カモメたちの優雅なすがたもある。


「きれいね。こんなにも良い宿を取ってくれるなんて」

「だねえ。アタシもびっくりしちゃったよ」


 にしても、と優しく吹く潮風を浴びながらリズベットは続けた。


「まさか魔女様と一緒に仕事することになるなんてね。しかもアタシの恩人は魔女様の想い人ときた。……つくづく縁があるっていうかなんていうか」


 平凡だと思っていた自分の人生にも思っていたより波があり、もしかするとソフィアに出会うのも運命だったのかもしれないと彼女は笑う。


「私も驚いたわ。でも、それ以上にずっと引っ掛かってることがあるのよね」


 思い出されるのはローズの言葉。『私の親戚にもソフィアという娘が』そのときは大して気にも留めなかったが、よく考えてみれば母親はブリンクマン家出身であり、ソフィアは自身の城でいちどだけ目にした紅髪の女性──アリア・ブリンクマンの肖像画を見たことがある。もし当時にいたとされる〝ブリンクマン家のソフィア〟が魔女との血縁関係を持ち、その血をアリア・ブリンクマンが継いでいるとしたら?


「……まさかね、そんなことあるはずがないもの」

「えーっと、なになに? アタシには言えない系?」

「また今度教えてあげるわ。私が忘れていなければね」

「ええ~っ、気になるなあ。まあ楽しみにしとこうかな」


 わざわざ言わないでおくのだから、話すべきタイミングが今ではないのだろうとリズベットは無理に引き出すことはせず町の景色を眺めた。


「そういえばリズ。あなたの家族ってどんな人たちなの?」

「んー? そういえば話したことなかったっけ」

「ええ、ご両親が家名を守るために厳しくした話は聞いたけれど」

「じゃあ夜まで時間もあるし、ちょっと話してあげるよ」


 風に靡く髪を指で梳いて、景色を眺めるのも程々に部屋のなかへ引っ込んだリズベットは、すこしだけ懐かしむような遠くを見つめるような瞳をする。


「アタシはコールドマン家の長女として生まれた。父さんはとても冷たくて厳しい怖い人だったし、母さんは寡黙で何を考えてるか分かんなかった。そしてふたりの妹は、アタシよりもずっと活発で元気で愛らしくて……アタシなんかよりずっと大事にされた」


 今ではすっかり思い出だが、当時のことは今でも鮮明に記憶に刻まれている。あれほど嫌だった家族を〝元気にしているんだろうか〟と振り返れたのは、きっとソフィアが彼女の傍にいるからだろう。


「でも父さんより、母さんのほうが怖かったな。あのひとはいつも黙ってることの方が多かったけど、たまに言うんだ。〝ヴィンヤードの系譜を守らなくてはならない〟ってね」

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