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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物

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第44話「魔法の代価」

 豪快にもそう言い切ったリズベットに納得したのか、シトリンは「素晴らしいお考えです」と優しく微笑み、ほどなく届いた料理をぱくぱく食べ進める。歓談に花を咲かせながらシトリンの紹介した店で食べる料理のおいしさに舌鼓を打ち、瞬く間に時は過ぎていく。


 気付けば外は夕刻、食事を終えた彼女たちは、次に宿を目指す。


「シトリンさんの紹介してくれたお店、最高だったねえ」

「ええ。次に行ったら何を注文するかで悩んでしまうわ」


 あまりにメニューが豊富なうえに味も一流と来てソフィアはたくさん食べたいと思ったが、あとの支払いを考えると贅沢は言えない。今からでも決めておかなければといくつかピックアップして頭に叩き込んでいた。──にも関わらずどれにするか決まらなかった。


「なにを言っておられるのです、おふたりとも。夜は晩餐、たくさんのお客もいますから──ね、シャルロット様。やるべきことはひとつでしょう?」


「そのとおりだね、きっとローズもそうするつもりだよ」


 なにかを企んでいるのか、ふたりはくすくす笑い合う。「あの、やるべきことってなんですか!?」とリズベットが勢いで尋ねてみるが、彼女たちは答えようとはせず「期待して待っていて」と、とても楽しそうな表情を浮かべた。


「それより、おふたりの宿泊先です。こちら〝リオ・サンドラ〟という小さいですが立派な宿になります。少々値は張りますが……ま、大丈夫でしょう」


 ちらっと横目にシャルルを見て、彼女が頷いたのにホッとする。


「君たちはケトゥスにどれくらい滞在する予定なんだい?」

「ええっと、二日くらいよね? そのあとは銀細工の回収を」

「アタシたち、仕事を受けるためにケトゥスへ来たからね」


 まさか魔女と顔を合わせ、しかもいっしょに仕事をすることになるとは思ってもおらず、できればもうすこし長めに滞在して彼女たちと良好な関係を築きたいリズベットだったが、そこはグッと我慢してやるべきことを最優先に置く。


「そっか。じゃあ、その宿泊費はボクたちが持つよ」


 言われたふたりがぎょっとした。昼食代まで彼女たちが持ったのだ、宿泊費まで払わせるわけにはいかないとリズベットが「いいですって、そこまでしてもらわなくたって! 逆になんか申し訳ないです!」慌てて断りを入れたが、シャルルは首を横に振った。


「お手伝いをしてくれるんでしょ? その前払い金みたいなものだよ、気にしないで。今回の銀細工集めはなかなか大変だからさ……。ローズもずっと働き詰めで魔法を使う頻度も増えて、ちょっと体調を崩してるんだ」


 カナロ島からすぐに出てこない理由はそれ(・・)だった。魔女が使う魔法は、本人の体力や免疫を著しく低下させるため、むやみやたらと使える便利なものではない。だが銀細工集めの途中で悪人たちの手に渡っていたり、存在さえ忘れられてほこりを被ってしまい誰も場所を覚えていないものを見つけ出したりと、ずいぶん無理をしていたらしい。


「……そうだったんですか。あれ、じゃあソフィアもそうなの?」

「ええ、たまに疲れるときはあるわ。たぶん魔女様ほどではないけれど」


 魔法を使う都合上、ソフィアも体力の消耗はある。本物の魔女であるローズと比べれば些細な場合がほとんどだが、ただひとつだけ大きく消耗するのは銀の荊を使うときだ。自在に操るだけでなく変質させたり形状を維持するのは決して楽ではない。


 十数キロはある重い荷物を背負い続けているような状態が──それも時間が過ぎれば過ぎるほど重量を増していくように、肉体への負担として圧し掛かる。


「それなら言ってくれればよかったのに」

「だって、そんなこと言ったら使わせないようにするでしょう」

「当然だよ。だって君がそんな無茶をしてるなんて……」

「でも必要だったもの。あなたがもういちど羽ばたくためにね」


 もしモンストンでルクスのことを野放しにしておけば、リズベットがどのような想いをしたかは安易に想像がつく。ましてやソフィアにも手を出そうとしていたのだから、あの場面では〝どうしても使わなければならなかった〟とソフィアは判断した。


「いいかしら、リズ。私は使いたくて使ったのだから気にしなくていいの」


 言いながらリズベットの腕を肘で小突く。


「それにあれは私のためでもあったのよ。だって、いちばんの大事な友達に元気になってもらいたいと思うのはなにも間違ってる事じゃないでしょう?」

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