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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物

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第40話「潮風の吹く町で」

 ローズを置いて待機していた別の送迎船で港へ戻り、リズベットたちが声をかけた船頭を探してもう迎えの必要がないことを伝えに行く。彼女たちの観光はそれからだ。侍女のシトリンが慣れた様子で案内役を担う。


「よろしいですか、皆様。シャルロット様は当然ご存知でしょうがケトゥスとは港町、つまり魚がたくさん手に入る場所です。ここではいつでもどこでも串焼きとかソテーを買って食べ歩き、ときには酒を嗜んで遊ぶ……そんな贅沢が許されています」


 強い印象を与えるようにバッと大きく腕を広げて話は続く。


「くせになる塩のしょっぱさ。豊かな香草の匂い。油でしっかり揚げられたカリカリの食感。どれをとっても一流。それだけでなく他の町に比べても肉料理からデザートまで幅広く上品で味わい深い、いわば〝食の町〟!……といえば大げさなのかもしれませんが、同様に人気のあるモンストンと肩を並べるくらいのレベルの高さなのです」


 シトリンの自慢は世界各地で食べ比べをしてきた自身の味に対する正確さ──といっても美味しいかどうかでしかないが──であり、大切にしているメモ帳にはびっしりと店の名前から食べた料理、その味や評価を書いていた。


 なかでもケトゥスは土地特有の食事が楽しめるということで、彼女の評価はかなり高いものだ。どの店も素晴らしい仕上がりだったと思い出してはよだれが出そうになる。


「……こほん、いささか話が過ぎましたね。あれこれ言いましたけれど、最終的には〝好み〟です。あなた方の口に合わないこともあるかと存じますが、そこは大目に見て頂ければ。そのぶん私も最善を尽くしますので」


 彼女は指の間に挟んだ金貨や銀貨を見せつけてにやりとした。


「あはは……頼りになりますね。でもそれってローズさんのお金──」

「なにを仰います、リズベット様。どうやらお分かりではないようで」


 指摘を遮って、キリッとした顔つきで彼女は宣言する。


「ローズ様のものは私のもの、好きなだけ食べろと言われたのですから財は使わねば失礼にあたるというものです。……と、いうわけでお気になさらず。ね、シャルロット様」


「あはは、程々にね。またローズに怒られちゃうよ?」

「……お財布と相談させてください、予算を決めておきます」


 過去には贅沢のしすぎでローズの機嫌を損ねたことがあるのか、彼女の顔はとたんに青ざめてしまった。さっきまでの意気も風に吹かれた砂の城のように脆く崩れ去ってしまったようだ。がっくりとして自分の小さな巾着袋に入った硬貨を見つめながら、ひとりぶつぶつと何かを呟き始めた。


「君たちは心配しなくていいからね、ローズが奢るって言ったときは好きなだけ甘えていいんだよ。相当気に入ったって証拠だからさ」


「あまり世話になっては申し訳ないわ、シャルロットさん」


 魔女として迎えられ、スケアクロウズ家であることさえも気にしなかった。それだけで必要以上に好意を受け取ってしまっているとソフィアは照れた。貶されることはあっても、もてなされるなど到底考えもつかない話だった。


「気にしなくていいんだよ。ボクもはじめてローズといっしょに旅をしたときはいろいろと考えたりもしたけど……でも、誰かが好意を向けてくれたなら受け取るのは礼儀にもなると思う。ただ、だからってあれこれと甘えすぎはいけないよ?」


「もちろん心得ておりますわ。今でさえ図々しいくらいですもの」


 ちらと横目に上機嫌なリズベットを見る。シトリンとの会話に夢中な彼女を見て優しい表情を向けるすがたに、シャルルはふふっと小さく笑った。


「すごく好きなんだね、リズベットのこと」


 図星を突かれて顔がボッと火が付いたように赤くなる。


「なっ、えっ! ち、ちちち、違うわ、違います! 私はただリズが会いたがってたひとといっしょに観光できて良かったと思っただけで……!!」


「あははっ! 必死にならなくてもいいよ!」


 シャルルは可笑しそうに笑いながら、しかし親近感を覚えた。


「君は昔のボクにどこか似てるような気がするなあ。……ね、ローズと何を話してたか教えてよ。リズベットのこともそうだけど、君もこともたくさん知りたいな」


 ソフィアは照れてうつむきがちに歩きながら、小さな声で。


「大した話ではないけれど、それでもいいのなら」


 心地良い潮風に背中を押されるように、ソフィアは語った。

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