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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物

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第39話「せっかくだから」

 信用していたカレアナ商会のミスによって盗難被害に遭ってしまったのは、ローズの耳にも痛い話だった。これらも彼らに管理を任せていくのにいささかの不安を覚えた彼女は──彼らなら次も同じことは起きないだろうと考えながらも──どこか別の場所、これから先も誰かが踏み入れることのないような静かな場所がないかと考えていた。


「別の友人なら森で暮らしているから管理を任せても……などと考えたりもしたんだが、そいつも家を空けることは多いし訪ねる人間がいないわけじゃない。スケアクロウズの城なら、もう誰かが訪ねてくることもないだろうし都合がいい」


 塞ごうと思えば、扉も窓もすべて塞ぐことができる。ソフィアが使う銀の荊なら誰かが無理に押し入ったりすることも容易ではない。隠し場所には最適だ。


「分かりました、でしたら私たちも回収したのちに城へ行きましょう」


 ソフィアも納得の条件が揃った城だ、すぐに同意した。


 それから数分してリズベットたちが戻ってくると、本格的に今後の計画を練ることになる。ソフィアたちはヴェルディブルグ領内にある銀細工を、ローズたちは列車で通じている隣国リベルモントへ向かい、それぞれ二カ月後にスケアクロウズの城で落ち合う約束をする。ただ日数は前後する可能性がある、とローズは言う。


「私たちはいちどカレアナ商会に寄ってから、馬車に荷を積んで向かうことになるんだが……リベルモントでは建国祭があって私たちはそれに出席する予定になっているんだ。正直言って気は進まないが知り合いの顔を立てるために久しぶりにな」


 残った銀細工の数と移動に掛かる日数、それから建国祭。ローズたちは大忙しで、ちょうど二カ月後からいくらでも自由な時間が作れるようになる計算だった。


「わかりました、じゃあアタシたちは領内で指定された場所を探して持ち主から銀細工を譲ってもらうか、あるいはどこかから拾うことになるか……ってとこですね。にしても意外と数があるんですね、魔法の遺物って」


「スケアクロウズ家のほとんどが金に執着していたようだったしな」


 魔導書を取り戻すのに訪れたスケアクロウズ家では、反省している風に見せているだけでとてもその通りだったとは思えなかったと彼女は当時を思い出して語る。


「私の魔導書を盗むヤツに会ったのは二度目だったが、スケアクロウズの場合はなかなかに頭を悩まされたよ。連中はどうしてか魔法を使えたから。……まあ、ひとつ幸いだったとしたら私の魔導書にあった呪いが今は消えているということか」


 魔導書にはその昔、開いた者を不老不死にしてしまう呪いが掛けられていた。といっても、それは魔法という他の誰にも扱えないものを存続させるために初代の魔女から紡がれてきたもので、永遠を生きるつもりでいるローズには邪魔でしかなかった。


 誰かが誤って開いてしまえば取り返しのつかないことになる、と彼女は百年以上の時間をかけて魔導書の呪いを絶ったのだ。


「ま、私やシャルルが既に受けている不老不死をきれいさっぱり消す方法はいまだに見つかっていないんだがな。……さ、話はここまでだ。予定も立てたし、私たちはカナロ島で二日ほどゆっくりしてから出発するつもりだ。お前たちはどうする?」


 なんならいっしょに泊まっても構わない、と追加で部屋を取ろうと考えるローズに、リズベットは「ケトゥスへ戻って宿を取るつもりです」慌てて答えた。


 カナロ島に連泊できるほどの金持ちではないし、このままでは彼女たちが支払ってしまいかねない。それだけは遠慮したいと思ったのだろう。ソフィアも察してか「観光をするつもりなんです、お料理とか食べてみたくて」そう言って断る。


「ねえ、ローズ。せっかくだしボクたちも観光する?」


 シャルルは彼女たちと遊びたいようだが、ローズはため息をつく。


「カナロ島に来たいって言ったのお前だろ。……仕方ないな」


 ちらと横目に自分の従者を見る。黄金色の美しいショートヘアにルビーの輝きを思わせる瞳。ふたりと比べても背の高い凛とした雰囲気のあるメイドだ。


「シトリン。シャルルが迷子にならないよう、お前がついてやってくれないか? 食べたいものがあるなら好きなだけ食べてこい」


 それまで慎ましく立っているだけだったシトリンの目がキラッと光る。


「本当ですか、ローズ様。ちょっと予算オーバーしても怒りませんよね?」

「……ちょっとくらいならな。ただし頼んだことは完璧に──」

「もちろんですとも。私が失敗したことありましたか、ローズ様」


 半ば食い気味に返すと、すたすた歩いてシャルルの手を握った。


「では早速行きましょう。まずはおふたりの宿を取り、我々の夕食に相応しい高級レストランを探して予約、適当に買い食いなんかもいかがです? ケトゥスのオススメなら私におまかせを。こちらの好みにはなりますが最上級のご案内を約束します」


 物静かかと思えば、ずっと饒舌だった。シャルルが「ローズはどうするの?」と彼女が急かすのを宥めながら尋ねる。


「あとから行くから私の分も予約を頼んでおくよ。リズベットにソフィアとも会えたんだ、先にエドワードに報告の手紙を出しておいてやらないとな」

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