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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物

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第30話「頼みごと」

 ふたり仲良く馬車に乗り、ドマリのカフェへ。昼食後のデザートには最高の店だ。

 あちこちの宿や酒場も大賑わいの昼間、それがウェイリッジの日常だった。


「ソフィアは何を食べるか決まってる?」

「紅茶といちごのタルトよ。あなたは……待って、当てるわ」


 うーんと考えて、閃きに任せて彼女は言う。


「わかった、フルーツパフェね。いっぱい果物のはいったやつ」

「おお。さすがソフィア、大正解だよ」


 あまりにも美味しそうに食べるすがたを見てリズベットも食べたくなったらしいが、ひとくちでも取り上げるのは悪い気がして昨日はそれを言わなかった。「今日はふたりで分けようよ、他にもいろいろ頼んでさ」提案されてソフィアはにへらと笑う。


「いいわね、たくさんのデザート……」

「ははっ、食べるの好きだね。でも目的忘れちゃだめだよ」

「もちろん分かってるわ! 料理の仕方を教えてもらわないと」


 カフェにやってきて馬車を停め、店内でのんびり過ごすドマリに声をかける。彼の店はほかと比べて客が少なく、あえて誰も入れていないようだ。


「いらっしゃい、君らなら歓迎だよ。好きな席に座んな」


 選んだのはやはりカウンター席だ。今日のことも考えると特等席に見えた。


「おいおい。景色の良い席もあるのに、おっさんの顔を見ながら食うつもりか? 自分でこんなこと言いたくはねえが、あんまりオススメしないぜ」


「町の景色はいつでも見れるからねえ。それより注文、注文!」


 メニュー表を開くことなく、あらかじめ決めていたのを伝えると彼は喜んだ。自分の娘であるモイラが商館へ嫁いでしまって少し寂しかったらしい。


「昔はよお、君らみたいにモイラもカウンター席に座って、毎日のように昼飯のあとはケーキやタルトにクッキーを食べて過ごしたもんさ。あいつも甘いものが好きだから。……だけど商館でエドワードのヤツと結婚が決まってからは全然帰ってこなくてよ。忙しいのは分かってるつもりなんだが、やっぱりな」


 エドワードが悪いわけではないし、自分の店のことも気に掛けてくれて感謝さえしている。商館に嫁いでしまえばモイラもそうそう帰っては来ないだろうとは理解していた。それでも実の娘の顔をしばらく見ないのは、いささか気分も曇ってしまう。


 だからか、年頃の娘がふたりもやってきて、翌日も遊びに来てくれたことが嬉しかった。まるで自分の娘にデザートを作ってやっているかの気持ちになれたのだ。


「ありがとうな、おかげで久しぶりに楽しい時間になってる」

「それは良かったわ。……あ、ならひとつ頼みごとを聞いてくれない?」


 出された紅茶をくいっと飲んで、ソフィアは尋ねる。


「実はここで料理の仕方とか、簡単なレシピなんかを教えてほしいの。実は私たち馬車に乗って長い旅をするのだけれど、どっちも料理ができなくて」


 期待はしなかった。魔女のお気に入りであることや、ドマリが自身の親から受け継いだカフェの大事なレシピだ。断られて当然くらいの気持ちで彼に頼む。


「……なんだ、改まって言うから何かと思えば」


 くくっ、と可笑しそうにドマリは口もとを手で隠す。


「悪い、そんなつもりじゃなかったんだが。いいよ、教えてあげよう。このカフェもたぶん俺の代で終わりだ、弟子も取る気だってねえし……だが親父やおふくろが守ってきたもんをおいそれと処分しちまうのも気が重かったところでよ」


 遠い昔に思いを馳せて、彼は一瞬だけ泣きそうな顔をする。そんな重い空気をつぶすように手をばしっと叩いて「そんなら店を閉めよう。誰かに来られちゃ、せっかくの時間がもったいねえ」と気持ちをさらりと切り替えた。


 彼の心情にはあえて触れず、ふたりは顔を見合わせてニカッと笑う。


「良かったわね、リズ。すごく楽しみ」

「だね! ドマリさんの作るデザート最高なんだもん」


 デザートに限らず、コーヒーや紅茶もそうだ。リズベットはこれまで多くの店に足を運んできたのでそれなりにグルメなつもりだったが、彼の店は経験上から言って一番、もし他に競う店があったとしても二番には絶対収まる味だった。


 そんな人間から料理を教わるだけでなくレシピまで貰えるのだ。これ以上ない彼からの贈り物には、もう喜ぶ以外の感情はどこにもなかった。


「おい、おふたりさん。楽しそうにばっかしてねえでさっさと食え。んでちょっと飲み物でも飲んで休憩したら、さっそく教えてやるからよ」


 店じまいをしながら振り返ったドマリに元気のいい声がふたつ響く。


「「はーい!」」

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