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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物

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第21話「なにがあっても」

 ソフィアは胸に違和感を抱きつつも、気にしないことを選ぶ。


 それが間違いだったと気付くのは翌日の夕刻のことだ。エイリーンたちに別れを告げて買い物を済ませ、ちょうどモンストンを出ようとしたとき、町の大きな門前で彼女たちを待っていたオルケスのすがたを見つけた。


 彼はひどく落ち着かない様子をみせる。


「ああ、やっと来てくれたか! 念のため四方の門すべてに憲兵を配置しておいたんだが、こっちに来てくれて助かったよ。話す時間が欲しい、構わないかね?」


 彼はリズベットが御者台から降りようとすると、そのままでいいと声を掛けてがっくりと肩を落としてしまう。どうやら商人エワルドを取り逃がしてしまったらしい。尋問を終え閉じ込めていたが体調不良を訴えたので一時的に檻から出してやったところ、隙を突いて逃げ出したのだと彼は頭を抱えた。


「エワルドが逃げ出したのは夜だそうだ。屯所の近くに停められていた馬車を奪って逃走、今頃は町の外かもしれない……。あいつめ、きっとほとぼりが冷めるまではどこかに身を隠すはずだ。アイヴァンも問い詰めたが、ヤツもさすがに知らないと」


 リズベットたちは顔を見合わせた。すぐに昨晩見た馬車がそうだったに違いないと気付き、表情が強張った。


「子爵様。それらしい馬車が走り去るのを昨夜にアタシたちも見ています……。すぐに気付けず申し訳ありません、暗かったものですから」


「そうなのか? あ、いや、それは仕方ないんだ。俺も見間違えることはあるから。だがもし手伝えることなら君たちにも捜索を頼みたい。もちろん無理は言わない」


 自分たちの失態に次ぐ失態。彼女たちはもうじゅうぶん働いてくれているし、これからウェイリッジに向かい、回収した銀細工をカレアナ商会に届けるという仕事も受けてくれた。もし厳しいと言われれば甘んじて受け入れるつもりだった。けれどもエワルドたちを見つけてくれたリズベットたちの腕があればと期待も抱えている。


「もちろん、アタシたちにお手伝いできるのなら」

「任せておいて、オルケス。かならず連れてきてあげる」


 快い返事を受けてオルケスの顔色がいっきに良くなった。


「本当か、恩に着るよ! もし潜伏先だと思うような場所が見つかれば伝えてくれ。いくらエワルドがひとりとはいっても大の男を女性ふたりで捕まえるのは難しいし危険だからな。取り逃がしてしまっても報酬は支払おう!」


 それからオルケスは何人かを門番に残し、他の憲兵たちとひとまず町の捜索を始める。リズベットたちはどうしたかと言えば、ソフィアが人気のない場所へ馬車を走らせるよう言って、周囲にだれもいない町を流れる川沿いの場所にやってきた。


 城壁の周囲を流れる川の傍にはせいぜい小鳥や野良猫がいるくらいで、店や宿があるわけでもないので人通りがほとんどなかった。


「ソフィア、このあたりでいいかな。今は誰もいないみたい」

「じゅうぶんよ。……さて、見つけるとしましょうか」


 荷台に移ったソフィアは銀細工のひとつを手に持った。ふわっと紫煙が舞い、銀細工の周囲をぐるりとまわったあとで馬車のそとへ流れていく。「運がいいわね、オルケスは」彼女はくすっと笑う。まだエワルドが町の中にいると分かったのだ。


「この紫煙が私たちをエワルドのところへ案内してくれるから、さっさと済ませてウェイリッジへ向かいましょ。まったく手間を取らせてくれるひともいたものね」


 御者台に戻ってきた彼女はやれやれと肩を竦めた。


「本当に。どこに行ったか分かるんだ、これで」

「ええ。魔法の煙が連れてってくれるはず」


 馬車を走らせながらリズベットは尋ねた。


「商人が銀細工を手にしていたから?」

「そうよ。とても便利だし、魔力の消耗もないから楽なの」


 紫煙を追いかける最中、ソフィアは語る。


「これは魔女が最も得意とするものらしいわ。……しかも私と違ってモノが必要ではないらしいのよ。だから魔導書を盗み出したうえ自分たちの素性を明かさなかったスケアクロウズ家も、本物の魔女相手には隠し通せなかった」


 どこまで逃げようと、どう隠れていようと魔女は見つけ出す。それほど優れた魔法が使える人間で、だからこそ魔女は偉大なのだとソフィアは自分のことのように誇らしげだ。だからか、彼女はまた暗い顏をみせてしまう。魔導書を盗んだ家の娘に熱を向けられたって嫌がるだけではないか。そんな不安がよぎった。


「私、魔女に会っても良いのかしら。優しい方とは聞いてるけど、スケアクロウズがしたことはハッキリ言って許される話じゃないわ。もしかしたら血相を変えて怒られたりとか、そうなったら気を失うかもしれない……」


 元気になったかと思えば落ち込んで、勘定の忙しそうなソフィアを横目に見たリズベットはプッと思わず噴き出しそうになる。


「気にし過ぎだよ、何でも会ってから考えよう」

「そのほうがいいのかしら。でも不安でね」

「だったらさ、約束しよう。なにがあってもアタシがついてる」


 差し出された小指をきょとんと見つめてから、すこし照れくさそうにソフィアも小指を出して絡ませた。


「……約束よ、絶対。なにがあっても私の味方でいてね、リズ」

「もちろんだよ。世界の誰が相手でも、アタシは味方でいてあげる」

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