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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物

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第20話「盛大なお祝い」

────騒動も落ち着いた翌朝、商人エワルドの尋問を終えた報せがふたりのもとへやってくる。オルケスの小間使いであるオードリー・クレソンから銀細工の取引をした者の名前を数人聞き出すことができたのを聞かされた。


 それからは大忙しだ。モンストンの観光をしながらのつもりだったが思いのほかはやく彼らが仕事を済ませたもので、期待されているのもあってかリズベットたちは仕事を優先せざるを得なかった。おかげでへとへとになりながら数日を過ごし、その間の滞在費は出たものの動きたくなくなってしまう。


 しかし、オルケスにとってはこれ以上ないほどの成果だ。彼女たちを邸宅に呼び、ある晩に盛大な祝いの席を設けて従者共々大勢集めて讃えてみせた。


「いやあ、助かった。おかげでモンストンの治安は守られたし、なにより憲兵団の者たちも以前より引き締まったように思えたよ。それも君たちのおかげだ。リズベット、それからソフィア。心からの礼を言う。みんな盛大な拍手を!」


 広々とした食堂に数ある席は招かれたリズベットたちとオルケス、そして普段なら着席することなどありえないだろう従者たちまでもが埋め尽くしている。「今日の子爵は本当に機嫌がいい」と小さな声で漏らす者がいて、ソフィアは引き攣った笑みを浮かべた。


「……リズ。いくらなんでもこんな盛大に?」

「子爵様にとってはモンストンは命より大事だろうからね」

「羨ましいわ、そんなに愛せる故郷があるって」


 賑わう食堂の空気とは対照的にソフィアは慎ましく食事をする。


「私にはあの城(・・・)しかなかったし、どちらかと言えば嫌な思い出のほうが多いわ。……でも、おかげでリズに会えたから全部が悪かったわけじゃないけれど」


「ハハハッ! それはアタシもだよ。でなきゃ今頃死んでるかも!」


 笑い話にこそなっているがリズベットは実際に襲われている。スケアクロウズ家の呪縛にも等しい城の存在も、少しは役に立ったというわけだ。


「二人とも、聞いているかね?……さっきから声を掛けているんだが」


 こほんと咳払いをするオルケスに、リズベットたちは苦笑いをした。


「す、すみません子爵様。全然聞いてませんでした」

「知っているとも、楽しそうだから構わないけどな。それより、」


 グラスに注がれたぶどう酒で口を潤して彼は尋ねた。


「あのエワルドとかいう男から例の銀細工の出どころはカレアナ商会だと聞いているが、君たちはウェイリッジへ足を運ぶ予定があったりしないかね?」


 何を言われるか、先は容易に想像ができた。リズベットはぱんと手を叩いて「ちょうど行く予定がありますよ。私たちが届けてきましょうか」と、今度こそ仕事をついでのように稼ぐことができると目を輝かせた。


「そうか、そうか。では頼まれてほしい。俺はまだ町でやることがあるし、君たちに頼めるなら誰より安心だ。報酬に加えて旅路で必要なぶんの食糧も提供しよう。今回の事件があっという間に片付いた礼だと思って受け取ってもらえるとありがたい」


 彼は感謝を決して忘れないし、恩は絶対に返す主義だ。今回の事件は憲兵団に悪人が紛れていたおかげで発覚も遅れてしまったし、なにより犯人をすんでのところで逃がしてしまうところだった。


 リズベットとソフィアがいなければ解決までには至らなかった、と彼は心の底からの謝意を示すためにできるかぎりの協力を惜しまないつもりだ。


「君たちがいつ出発するか分からないが、カレアナ商会には君たちの身元を保証する手紙を(したた)めておいた。持って行けば彼らも快く迎えてくれるはずだ」


 彼が懐から出した折りたたまれた便せんをリズベットが受け取る。オルケスの署名があり、各地の商会と親交のある彼のものであればだれも彼女たちを無下に扱ったりはしない。「それから」と彼はもうひとつ頼みごとを口にした。


「カレアナ商会はずいぶんと古い頃から魔女とは懇意な関係にあるそうだ。もし居場所が分かるようであれば、オルケスが会いたがっていたと伝えてくれ」


「それくらいお安い御用、アタシたちには楽な仕事です」


 魔女探しの大きな手掛かりを運よく聞けて、良い情報が手に入ったとふたりは顔を見合わせて喜ぶ。勧められたケトゥスへ行く前にウェイリッジで事を済ませよう、と。


 それから目的の決まったあとは彼女たちもパーティをしっかり楽しんで、暗く遅い時間になってから邸宅をあとにした。明日の旅路を思い浮かべながら帰り道を歩き、もう夜だというのに珍しく馬車が走っていくのを横目に見つめた。


「あー、楽しかった。料理もおいしかったし、結局あちこちには行けなかったけど悪くなかったね。明日はモンストンを出る前に服屋に寄ろうか。そこでソフィアに似合うものを見つけて~……そう、ついでにアタシも──って、ソフィア?」


 彼女は足を止めて、走っていく馬車を追いかけるように見つめている。ぼうっとしていて、もういちど名前を呼んでやっと振り返った。


「あの馬車がどうかしたの? 知ってるひとのヤツ?」

「あ、ごめんなさい。……気のせいだったみたい。行きましょ」

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