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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物
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第15話「役に立てたら」

 休憩も終わり、ふたりは主人の帰らない邸宅をあとにする。通りがかるメイドたちや見送りに出てくれた執事にも頭を下げて礼を言いながら。


「コールドマン様、スケアクロウズ様。すこしお待ち頂けますか?」

 呼び止められてふたりはきょとんとした。執事は「旦那様がお帰りの際に渡しておくように、と出て行かれる前に」そう言って彼はあとからやってきたメイドに何かを包んだ布を渡される。中身はそれなりに重量があった。


「あ、これ。もしかして子爵様の持ってた……?」


 布の包みを解いて中を確かめる。あるのは薔薇の刻印が刻まれた銀縁の手鏡だ。いっしょに購入したとされる持ち主の名前も書かれており、情報収集の役に立てばと彼女たちに譲渡することに決めたらしい。


「子爵様は憲兵の方々と共に巡回に出るだけでなく、あらゆる会合などにも出席していらっしゃいます。おふたりが見つけてくださった商人のこともあり、しばらくは落ち着く時間もないでしょう。ですからこのような形でしかお力添えできなくて申し訳ない、と」


 まさかそんなことはないとふたりは顔を見合わせてから執事に向かって首を横に振って否定した。どんな形でも力になってくれるだけでありがたいものだ。


「私たちが責任を持って銀細工はすべて回収してみせるわ、執事さん。全部集められたら、カレアナ商会のひとたちにも会って返してあげなくちゃ」


「助かります、スケアクロウズ様。よろしくお願いします」


 深く頭を下げた執事に見送られながら歩いて帰り、ふたりはいちど宿へ戻る。


 道すがら、リズベットは「手鏡にはどんな効果があるの?」と尋ねた。


「ああ、これ。大したものじゃないわ、ちょっとした美容効果があるくらいかしらね? 簡単に言えば、そう……肌を映すときれいになる。本当にそれだけ。スケアクロウズでも魔女に最も近い形で魔法を使えたのは私だけだから」


 もしソフィアが銀細工に魔力を与えるとしたらもうすこし良いものか、あるいは自分が悪人ならば厄介な代物として造っただろう。しかしスケアクロウズもいつの代からか魔法を扱えるようになっただけで、ソフィア以上の才能を持った者はいなかった。


「あの頃は大変だったわ、手を貸さなくて何日も暗い部屋で監禁が続いたから。でも絶対に私は嫌だったし、どれだけ時間の分からない暗闇の中にいたって苦痛じゃなかった。魔女は偉大で、魔法は私たちが触れていいものではないもの」


 手鏡を布に包みなおし、大切に抱きかかえる。


「でも良かったわ、それが正しかったんだって今は身に沁みてるの」


 魔女の厚意を裏切ったスケアクロウズの遺物を手に入れ、なぜカレアナ商会が銀細工を多く集めているのかは分からないが、すべてを集めて返せばきっと魔女に対する罪滅ぼしのひとつになるとソフィアは気合が入った。


「もしいつか会って話をする願いが叶わなかったとしても……こうして魔女の役に立てたら、きっと喜んでくれるわよね?」


「そりゃそうさ。アタシだったら飛び跳ねるくらい喜ぶよ」


 相手がスケアクロウズという魔女にとっては忌避すべき血だとしても、ソフィアの想いは絶対に届いてくれるとリズベットは力強く返す。


「まずはモンストンで銀細工集めだね。滞在の予定が長引いたけど観光もできると思えば一石二鳥だ。君にはこの町をもっと見せたいから──」


「おお~? こいつはリズベットじゃないか。ここで何をやってる?」


 若い男の陽気な声──と呼ぶには、いささか嫌味的だ。聞いたリズベットがビクッと跳ねたのだからソフィアも訝るような視線を声の主に向けた。


 短くまとまった金髪、整った顔立ち。柔らかな印象はあるのに、どこか見下したような目つきがソフィアには心底気に入らなかった。


「あ、あの、ルクス。久しぶりだね……へへっ」


 笑ってみせてはいるがリズベットの顔色は良くない。ルクスは彼女にとって仲が良い友人というわけではないようだった。


「モンストンから出てしばらくぶりだなあ。そちらは?」

「え……。あの、この子は……」


 おどおどするリズベットの前に彼女は一歩出た。


「ソフィア・スケアクロウズよ。あなたの名前は?」

「ルクス・アデル・フォン・ネフェルだ。可愛いね、君」

「心にもない言葉は胸に響かないわ、ネフェルさん」


 優しく浮かんだ作り笑いに、警戒心ではなく強い敵意を抱く。彼女はすぐに気付いたのだ、この男こそがチャントの言っていた『前の連れだったクソ野郎』だと。


「そう怖い顔しないでくれよ、リズベットの友達だろ? 俺もそうさ、昔はいっしょに旅をしたこともある。……なあ、リズベット。そうだよな」


 ギラリとした目がリズベットを見る。彼女は俯いてしまった。


「うん……そ、そうだね。アタシたちはいっしょに旅をしたよ」

「ほらな。警戒しなくてもいい、レディには優しくしたいだけさ」


 握手を求めようと伸びてきた彼の手を見てソフィアは苛立ちと同時に驚いた。スケアクロウズ家のものと同じ薔薇のデザインが施された指輪があり、仄かに紫紺の輝きを帯びている。彼はそれが魔道具だと理解して(・・・・・・・・・)身に着けているのだ。

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