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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
番外編─スケアクロウズの物語─
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『それぞれの人生』

◆オルケス・カルキュール・ド・ダルマーニャ


  無類の酒好きだったが、晩年には一滴も飲まなかった。

 愛する息子に看取られて静かに息を引き取る。


 生涯を生まれた町モンストンに捧げ、のちにロッチャでの功績を王室より認められ、侯爵位の授与を提案されたがこれを退けたとされている。


 九十二歳にて老衰により逝去。





◆エドワード・カレアナ、モイラ・アイゼンフォール夫妻


 魔女レディ・ローズから始まり、ソフィア・スケアクロウズとも親交が続いていたが、エドワードが五十歳を迎えると同時に信頼できる部下を後継に夫妻は隠居を選んだ。モイラの父親であるドマリ・アイゼンフォールが亡くなったあとはふたりで喫茶店を経営した。現在はひとり娘のアリソン・カレアナが引き継いでいる。


 エドワード・カレアナ 


 五十九歳にて病気を患い、二年後の六十一歳の誕生日を迎えた翌日に逝去。最期の瞬間までモイラを愛していた。


 モイラ・〝アイゼンフォール〟・カレアナ


 六十七歳にて逝去。死因は分かっていないが、エドワードの墓前で座り込むようにして亡くなっていた。最期まで、ただの一日も墓参りを欠かしたことはなかった。





◆ディルウェン・バーナム


 リズベット・コールドマンの元婚約者であり、のちにイレーナ・コールドマンと共に旅をした。家名を継いだあとは邸宅に引きこもりがちになっていたが、すべては絵を描くためだったと言われている。


 アトリエで筆とパレットを持ったまま亡くなっているのが見つかる。長期間にわたる睡眠不足による肉体的疲労が限界を迎えたことが原因だった。彼の最後の作品は『白銀と紅の令嬢』と題されており、ふたりの女性が描かれた絵画は王城に飾られている。


 八十七歳にて逝去。





◆オクタヴィア・ウェブリー


 近衛隊長として抜擢されたあとは、四十代半ばで勇退を選ぶ。その後も特別顧問として近衛隊に所属する騎士たちに、抱くべき精神と騎士としての腕の磨き方を指導し続けた。認知症を患い、孫娘のアリステラ・ウェブリーを自身の娘だと思いこむようになる。


 どれだけ記憶が色褪せて自分の娘や孫の区別がつかなくなっても、彼女のなかからソフィア・スケアクロウズとリズベット・コールドマンの存在が消えることはなかった。毎日のように、当時の思い出を語り続けて誇らしげにしていた。


 八十九歳にて老衰により逝去。





◆リタ・クロフォード


 オクタヴィア・ウェブリーとは生涯を通じた親友だった。亡くなった際にはソフィア・スケアクロウズが葬儀に駆け付けるなど人望も厚く、侍女長となってからはいっそう後進の育成に力を注いでいたと言われている。


 三十代の頃に結婚、双子の娘を出産しており、長女にはリズ、次女にはソフィーと名付けた。誰から取ったかまでは言うまでもないだろう。


 七十歳にて肺炎により逝去。





◆イレーナ・コールドマン


 淑女というより紳士的な言動と性格で周囲からは変わり者だと呼ばれていたが、本人はいちども気にするそぶりを見せなかった。コールドマン家を継ぐ決意をするまでは世界中を旅した。相棒にはバーナム家のディルウェンがいた。


 最後まで独身を貫き、コールドマン家の血筋は彼女で途絶えた。


 五十四歳にて心臓発作により逝去。

 自宅の書斎にて倒れているのが執事に発見される。





◆ルーカス・クレリコ


 ロッチャの騒動後、良い伴侶に恵まれて子供もふたり授かる。姉のオルガと共に仕事に励む。せめて自分のときのような寂しい思いはさせまいと理想の父親像を追いかけながら、多忙の日々を送っている。プラキドゥム山脈での採掘が終わっても、観光事業などが軌道に乗ったおかげで町は昔と比べても活気に満ちた。


 五十二歳の頃に大病を患うも完治。天寿を全うした。八十歳にて逝去。





◆オルガ・クレリコ


 ロッチャの町長である弟と共に故郷の活性化を目指す。五十歳を過ぎてからは宝石商として各地を歩き、その稼ぎの多くをリヴェール孤児院への支援金として贈った。美しい見目をしていたので方々からの求婚などもあったが、縁談のすべてを断った。理由については絶対に明かそうとしないまま、生涯を独身で過ごす。


 八十七歳で逝去。弟のルーカスより数年長く生きた。





◆アニエス・マリアンヌ・ド・ヴェルディブルグ


 人々から愛されたヴェルディブルグの女王。レディ・ローズやソフィア・スケアクロウズとは個人的に会うことも多く、三十代には三人の子供に恵まれた。三姉妹だった。晩年には退位、長女が跡を継いで自身は悠々自適に暮らす。


 最期は病気がちで衰弱していき、ソフィア・スケアクロウズに看取られて眠るように亡くなった。六十四歳だった。










◆リズベット・コールドマン


 顔が広く、どの町へ行っても人気者の旅行者だった。いつもソフィアの傍にいて、流行り病で最期を迎える瞬間まで彼女を支え続けた。リヴェール孤児院の設立後は子供たちを相手に教鞭を取り、世界がいかに魅力的なものかを語りつくした。良いことも悪いことも、すべて含めて。


 『もうひとりの魔女代理』として認知され始めたのは彼女が三十代半ばの頃。ソフィアが体調を崩した際に受けていた依頼をひとりで解決まで導いたことから周囲の高い評価を得ることになる。本人はそれをすこし恥ずかしそうにしていた。


 あのふたりに任せておけば大丈夫、と言われるようになるまで成長したが、四十代を過ぎて徐々に体力の衰えを感じ始めると旅行者を続けるのが辛くなってきたと、ソフィアが魔女代理を引退するのを機に自身も定住地を決め、リヴェール孤児院を設立。恵まれない子供たちに、いつか羽ばたいてほしいと読み書きを教える。


 五十六歳、流行り病にて逝去。最期の瞬間までソフィアを支え続け、ひとりの人間を愛した女性の人生は幕を閉じた。





◆ソフィア・スケアクロウズ


 レディ・ローズの指名のもと魔女の代理人として世界的に有名な存在となる。リズベット・コールドマンを相棒に各地を旅して周り、四十を過ぎた頃に引退。のちにこれまでの資産を元手にリヴェール孤児院を設立。多くの恵まれない子供たちが世界へ羽ばたいて行けるよう、その日々を忙しく暮らす。


 リズベット・コールドマンが流行り病に倒れて亡くなったあとは各地の孤児院を転々として支援を始め、自身の孤児院も数を増やす。支援者は多く、彼女が亡くなったあとも人柄に惹かれていたヴェルディブルグ各地の貴族たちが存続に尽力した。王室は魔女ローズが所持していた彼女の遺言状に従って遺産を使い、貧しい子供たちのための学校などものちに建設される。


 すべての始まりの地でローズたちと共に茶会を開き、思い出話を語らい終えると椅子に座ったまま亡くなる。心から幸せそうな表情を浮かべていた。このとき遺書は既にローズ・フロールマンに託されており、自身の死期を悟っていたと思われる。手紙と共に、ルビーとグレーダイヤモンドのネックレスがローズに返還された。


 死後、三年の月日が経った頃にオクタヴィア・ウェブリーの孫娘アリステラ・ウェブリーの著書『銀荊の魔女─スケアクロウズ─』によって長きにわたり功績が語り継がれ、人々の記憶に刻まれることになった。


 ──七十二歳、所有する城の自室にて逝去。


 その生涯は幸福に満ちていたと言われている。

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