『ある記者の取材』
────ひとりの新聞記者が訪れたのはヴェルディブルグ王都、ラルティエ内にある小さな喫茶店だ。入口には『本日貸し切り』の札がぶら下がっている。なかで待っているのは世界的にも有名な紅髪の魔女、ローズ・フロールマン。
取材を受けてくれることになったのは、彼女にまつわる代理人についての特集だったからだ。ソフィア・スケアクロウズという孤児院を経営していた女性は過去に魔女ローズの代理人として世界各地をまわったとされており、没後三年のときが流れ、何度か会ったことのある記者がコンタクトを取ったところ『すこしだけなら構わない』と許可を受けたのだった。
「すみません、予定より遅れてしまって。列車は時間通りに出発したんですが途中の駅で乗客同士の喧嘩が起きて立ち往生になったんです」
「気にしなくていい。そのぶんゆっくりティーブレイクができた」
紅茶の落ち着く香りが店内を満たす。記者は座るように促されると、席に着いてさっそくメモ帳とペンをテーブルに置き、胸に手を当てて。
「改めて自己紹介をさせて頂きます。私はアリステラ・ウェブリー、クロフォード出版で働かせていただいております、今日はよろしくお願いいたします」
「ローズ・フロールマンだ。こちらこそ今日はよろしく頼むよ」
簡単な握手を済ませたら、アリステラの取材が始まる。ソフィアの人物像から始まり、彼女がどのようにして代理人になったのか。魔女との出会いや、彼女が生涯愛したと言われるコールドマン家の令嬢との関係など多くの事柄について。
「──ああ、よく覚えているよ。とても懐かしいな」
ローズの語りは、どこか胸にしみわたるものがあった。ついつい聞き入ってしまうような話はアリステラの記憶に深く根を張り、その後に出版された〝銀荊の魔女─スケアクロウズ─〟と題された本はローズに直接取材をしたのもあって世界各地で爆発的な人気を誇った。
魔女がただのいちどだけ選んだ代理人の存在は広く知れ渡り、未来永劫語り継がれる人物として人々から敬意を集めた。その主役となったソフィア・スケアクロウズの設立したリヴェール孤児院をはじめとする各地の孤児院は今も支援が続けられている。
「では最後にひとつだけお聞きしてもよろしいでしょうか、レディ・ローズ。──彼女たちは、どのような最期を迎えられたのでしょうか?」
「……とても幸せそうだった。私には、そう見えたよ」