第27話「同じ悪人だから」
なにもかもが上手く行けばきっとルーカスたち姉弟の関係も良くなるだろうと信じて、ふたりは家をあとにして馬車で森へ向かう。町から離れてしばらくしたら、ソフィアが使える追跡の魔法でオルガたちの拠点を探し出す。
輝く紫煙を辿っていけば、森の中腹あたりで隠れるようにして幾重にも草木で覆ったテント群を発見する。あまり気配を感じないのは彼らがテントのなかで静かに過ごし、必要以上の行動をとらず目立たないためだ。そとで働いているのは三人ほど。釣った魚を並べて釣果を確かめている。近くから涼しい風が流れてくるので、近くに川があるのだろう。ひとりがソフィアに気付いて驚いた顔をした。
「お嬢、ソフィアさんたちが来ましたよ! お嬢ってば!」
近くのテントに顔を突っ込んで男が何度も呼びかけると、少し経ってから眠たそうな目を擦りながらオルガがテントのそとへ出てくる。
「んんっ……なんだ、案外早い再会だったなあ」
「休んでいたところに悪かったわね」
「気にしないでくれよ。で、今日はどうした?」
「仕事をしてほしいのだけれど構わないかしら」
「問題ねえ。あのとっ捕まえた連中を使うんだろ」
「そのとおりよ。まずは私たちの計画なんだけれど──」
計画がどの程度進んだかを伝え、今日にもドラクマ商会長であるグラネフを捕まえてハンデッドとの繋がりを示す証拠を手に入れるつもりだと聞いたオルガは、やる気に満ち溢れた様子で「すぐに準備させる」と、獅子のような目つきをした。
「ドラクマ商会といやあ、オレも何度か足を運んだことがある。すぐとなりで小さいが酒場も経営してて、オレが仲間を雇ったのもハストンと会ったのもそこだ。……クソムカつくぜ、最初からオレたちは良いように使われてたってわけか」
彼女が酒場にやってきてしばらくのあいだ、商会は目を付けて監視していたのだろう。得た耳寄りな情報はすべてハンデッドに回っていたのは間違いない。接触して協力を申し出たのも大きな利益が見込めるからだ。自分たち以外を商売道具として。
「その仕返しが出来ると思うとワクワクするでしょう」
「ハハハ、確かに! 荷物はどこへ運べばいいんだ?」
「捕まえたひとたちに聞けば正確な場所は分かるわ」
「オーケー、だったらオレに任せな。こっちに来てくれ」
案内された小さなテントのなかにはハンデッドの私兵ふたりが縛られた状態で椅子に座らされていた。彼らは睨みつけて敵意を剥き出しの態度を崩さない。
「あれから適度に飯と水はくれてやってるが、何を聞いても話しやしねえ。自分たちがハストンに守ってもらえると勘違いしてるみたいでな」
だけど、とオルガは心底悪意に満ちた笑みを向ける。
「もう遠慮はいらないみてえで安心したぜ。……オイ、ハストンは近いうちに捕まっちまうってよ? さっさとオレらについたほうが得だと思うけどなァ」
男たちは話そうとせず、フッと鼻を鳴らす。
「好きなように言え。俺たちは何も知らない」
状況が分からないので下手に口を割ろうとはしない。彼らも雇われている以上は最低限の黙秘を行使するつもりだろう、とオルガは「情報の出し惜しみはしなくていいよな?」ソフィアに確認を取る。「ええ、もちろん」と許可が下りてすぐに男のひとりの頭を掴んで、軽い痛みを与えながら。
「いいか、もうすぐドラクマ商会と取引があるのは知ってる。お前らのお友達は全員、モンストンから来た憲兵団にしょっ引かれて洗いざらい喋ったらしいぜ。その証拠になる紋付きの書簡もある。あとはグラネフとハストンの繋がりさえ見つけちまえば終わり。──なにが言いたいかわかるよな」
転ばせて、蹴りつけないまでも腹を押さえるのに足を乗せた。
「奴は貴族だ、オレたち底辺の人間なんざ道具にしか見えてねえ。──そこで選ばせてやる。オレたちに協力して仲良く憲兵団に捕まっちまうか。それとも、はした金で雇われたままここで死ぬか? 言っとくがオレたちもとっくに罪人だ。捨てるものなんかありゃしないんだ、分かるだろ」
ゆっくりと足に力を籠め始めて、ようやく男は自分たちの状況を理解して「わ、わかった! 待て、手伝うから!」と慌てだす。
「最初っからそう言えばいいんだよ。お前らがグラネフと取引を始めたら現行で捕まえる、裏切ったり妙なそぶりでも見せればその場で殺す。頭に叩き込んどけ」
上手く行ったら親指を立ててソフィアたちに眩しい笑顔を向ける。テントを出てから「なかなか怖い脅し方をするのね」と言われて、ふふんと自慢げにした。
「覚えとくといいぜ、ソフィア。ああいう手合いってのは簡単な脅しじゃビクともしねえもんさ。だが真実をチラつかせて生か死を迫ってやれば簡単に口を割る、金は命に変わっちゃくれねえからな。……さ、ちゃっちゃか仕事を進めるとするか!」