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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物
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第11話「依頼への答え」

 朝を告げる寒風が、店を出たふたりのからだを小さく震わせる。陽光に照らされて雪は降らなかったが、町はまだ冬真っただ中だ。とはいえモンストンの気候はすこし南寄りなので、王都ほどではないとリズベットは言った。


「王都なんて生まれていちども行ったことないわ」

「そうなの? 伯爵家なんだからお茶会とか……」

「招待はあったけれど、私は連れて行ってもらえなかったから」

「あ……そっか、ごめん。じゃあアタシが連れてってあげるよ」


 いやなことを聞いてしまった詫びで──単純にリズベット自身がまた行きたいという想いもあったが──ソフィアに「王都と港町、先に行くのはどっちがいい?」と尋ねる。彼女は少し考えてから「王都ね。賑やかなのは嫌いじゃないの」微笑んで答えた。


 魔女に会わなくてはならないが、とにかく急いでいるわけでもない。魔道具をいくつか回収してからでもいい。そこで思い出したように彼女はぽんと手を叩く。


「そうよ、もうひとつ行ってみたいところがあるの」

「うん? アタシはどこからでもいいよ」

「ありがとう、カレアナ商会ってどこにあるかしら」


 リズベットは「ああ!」と手を叩く。


「ウェイリッジだよ、王都からとても近い観光地さ。風情のある田舎町で、魔女様もよく訪れているとか。アタシ間違われたことあるんだ」


 ふふんとなぜか自慢気にするリズベット。オルケスが暗くて見間違えたと言っていたのと同じで、彼女の髪色が魔女のような紅髪だったからだ。ソフィアは「そうなの?」と首を傾げた。


「アタシも会ったことはないんだけどさ。どこに行っても聞くよ、紅髪の魔女様の話は。それくらいの有名人に似てるって言われるの、悪い気はしないよね!」


 ダルマーニャ子爵邸は遠くなく歩いて向かう。のんびり運動がてらに歓談をして、ソフィアはリズベットが話す魔女についての有名な話を楽しんだ。多くの町で聞き及んだ数々の話は、すべて魔女が事件に巻き込まれ解決するものだ。ミステリー小説の主人公のようだと言うとリズベットは「たしかに」と笑った。


 子爵邸の正門にはオルケス本人が憲兵ふたりを連れて立ち、彼女たちがやってくるのを待っていた。開いていた懐中時計に視線を落としていたが、ふたりに気付くと嬉しそうに手を振って、憲兵たちに門を開けるよう伝える。


「おはよう、ふたりとも。付いてきたまえ、さっそく仕事の話をしよう」

「おはようございます、子爵様。今朝も冷えますね」

「モンストンも温かいほうだとは言ってもな。暑い季節よりマシだが」


 冬は寒ければ暖炉を焚いたり服を多めに着ればいい。しかし夏場ともなると、いくら服を脱いでも暑いものは暑いし、汗を掻いてからだがベタベタするものだとオルケスはげんなりした。なにしろ暑かろうがそれなりに整った服装を着なくてはならず、自分の身分がときどき嫌になってしまいそうだと彼は言う。


「あははっ、でも馬車に乗ってるときは涼しくないですか?」

「町中じゃ外みたいに自由に走れんのでね。君が羨ましいよ」


 邸内を案内し、応接室に彼女たちを連れて行く。誰かに任せてモンストンを出るなど考えられない彼にとって、ふたりのような来客は嬉しいようだ。既にたくさんの菓子がテーブルには並び「メイドが紅茶を持ってくるから少し待っていてくれ」と歓迎した。


 きれいなソファに並んで座ったリズベットたちの対面にあるソファはくたびれていて古いもので、オルケスが座るとギシッと音を立てる。家具や調度品は長く大切に使うのが好きらしい。にもかかわらず「年代物は好みなんだがね」と肩を竦めたのは、モンストンで出回っている銀細工のことを考えてだろう。


 しばらくしてメイドが紅茶を運んで来たら、オルケスもひと息ついて心地よい香りに満足感を得ながら「では本題に入ろうか」と真剣な顔つきになった。


「例の銀細工について俺が知っているのは、モンストンのどこかでだれかが売り捌いてるってことだ。商会も俺も通さず、誰かが商人の馬車をモンストンに入れたまでは想像がつくが……俺は部下を信頼しきっていたから記録のような面倒なこともさせていない。当日の番が誰だったかも把握できていない状況だ。まさしく失策だよ」


 憲兵たちはモンストンの町を愛してくれているだろうと真面目に仕事へ取り組むすがたをみて、わざわざ記録係を用意する必要もないと任せきりにしていたので、今回の件で強く頭を打った気分だった。


「税も払わず丸儲けしてモンストンから逃げようったってそうはいかない。どうにかして捕まえてやりたいが、かといって門を封鎖するのは観光客にも迷惑を掛けてしまう。君たちには、できれば数日以内に犯人を見つけ出してほしいんだ」


 もし魔女であれば、その日のうちに見つけてくれるだろう。しかし今回は協力を得られないということもあり、商人が町を出てしまう前に捕まえたかった。だが足取りは依然掴めておらず、自分たちでも苦労しているのだからと数日の期限をつけて頼んだ。


 聞いていたソフィアがリズベットよりも先に答える。


「ロアン神父ならば『あなたの行いは神も見ている』とおっしゃるでしょうね。善意に満ちたオルケス、あなたにとても良い報告を持って来たの」


 彼女はテーブルに、握り締めていたロケットを二個置いた。


「──商人の居場所はもう見つけてあるわ。これは証拠よ」

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