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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第三部 スケアクロウズと恋する女盗賊
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第23話「誘導」

 雨が降るなか、泥を跳ねながら馬車は町を駆ける。何人かに声を掛けて町にハンデッドが来ていないかを確かめていると、どうやら彼女たちの思惑通りに彼は町の小さな宿に身を寄せているらしく、なにも知らないふりをして足を運んだ。


「こんにちは~。すごい雨ですね、タオル借りれませんか?」


 入るなり気さくにリズベットが宿の主人に話しかける。


「ああ、もちろんいいですよ。ルーカスさんから話は聞いてます」


 小さいのもあってか、すっかり町でも有名人だ。どこへ行っても彼女たちを知らない者はいなくなっていた。そこへ「これはこれは、魔女代理様ではありませんか」と本来ならば聞きたくもない、ざらつきのある声が擦り寄ってくる。


「あら、ハンデッド。あなたも雨宿りにここへ?」

「いいえ、いいえ。ただ帰るのもなんですから観光でも、と」

「そう。それならしばらくは滞在するか、はやめに帰ることね」

「……? なにかあったんですか?」


 情報が欲しいハンデッドも馬鹿ではない。自分がどう思われているかなど想定のうちで、もし彼女たちが有益な情報を嬉々として流すようであれば疑ってかかるだろう。だからソフィアはあえて彼に対し冷たくあしらうような態度をみせて。


「今日にもロッチャへ物資の運搬があるんですって。また強盗団に奪われるんじゃないかって不安らしくて憲兵団が警護を担当するのよ。要はしばらく通行ができなくなるわけ。ここも安全とは言い難いでしょうから忠告をしておいてあげる」


 タオルで軽く濡れた髪をふきながら、広間のソファに腰掛ける。


「はあ……そうですか。この悪天候で物資の運搬を? あまりにも危険なのではないでしょうか、強盗団と争う可能性も考えれば日を改めるべきなのでは?」


「町の状況がひっ迫しているから。オルケスたちも滞在期間を延ばすことはできないそうよ。そのぶん、精鋭を揃えてるから多少人数が少なくても警護はできるって考えているみたい。見通しも悪いし地理にも詳しくないから楽じゃないでしょうけど」


 一瞬、怪しんだハンデッドだったが、彼女の話を聞くかぎり嘘もないと思ったのか納得したように頷いて「では私もご忠告に従って退散するとしましょうか」と町を出るのを決めた。支度を済ませた彼が出ていったのを見て、ふたりは顔を見合わせて愉快そうにする。計画は順調に進んでいる、と言っていい。


「ね、このあとどうする? アタシたちも早めに向かおうか。配備が終わって暗くなってからじゃあ、見間違いとかで余計なトラブルを起こしたくないし」


「そうしましょ。どうせ数時間待つだけのことだから」


 宿の主人にタオルの礼を言って銀貨を二枚渡し、宿を出て馬車に乗る。雨はすこしだけマシになっていたが、それでもまだよく降っていた。


「ところでさ。わざわざ警護の数を減らして襲撃させるってことは、ソフィアの出番なんだよね? いいの、オルケスさんたちには知られちゃっても」


「適当に言い訳するわ。裁判のときみたいに誠実さを求められるわけじゃないから、私たちも気負わずに行きましょ」


 自分も魔女であるとオルケスが知ったところで、彼は決して口外するほど軽くはない。しかし彼の周囲はどうか? と聞かれれば首を縦には振りにくい。憲兵団の者たちにしてもロッチャの人々にしても、魔女とは話題の種になりやすいからだ。うっかり口を滑らせて妙なうわさを立てられたくはなかった。


「そっか、じゃあ大丈夫だね。あとは仕事を済ませるだけかぁ」

「ハンデッドの私兵を捕まえて、洗いざらい喋ってもらわないと」

「もちろん彼の目の前で、でしょ?」

「その通りよ。切り札だって用意してあるから安心していいわ」


 裁判のときのように、ロッチャの人々の前で彼の悪事を暴いたとして、明確な証拠がなければ彼は舌をよく回して逃げの一手を打つのは確実だ。そのために回収した物資やオルガたちに加えて先に捕らえておいた私兵二名がいるのだ。


「どうせ彼は自分の保身のためなら平気で部下も切り捨てるでしょうね」

「だけど、その状況がいちばん私たちにとっては都合がいい」

「ええ。人を簡単に裏切る人間は、かならず裏切られることになる」


 私兵といえど報酬で雇われているにすぎない。自分たちへの保証がなくなれば、彼らはあれこれと秘密を暴露することさえできる。ハンデッドの言動ひとつで、だ。これまでそうして彼の指示に従ってさえいれば懐が潤い、ある程度の揉め事は簡単に握りつぶしてもらえるという〝魅力的な条件〟のもとで働いてきたのだから。


「でも、本当に戻ってくるのかな? ハストン卿は」

「間違いなく戻るわ。でもそのときが彼の悪事の最後よ」

「うん、そうだね。アタシたちもそれまで気合入れてがんばろっか!」

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