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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第三部 スケアクロウズと恋する女盗賊

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第22話「新たな計画」

 言葉を理解するのは瞬間だったが、受け入れるには数秒掛かった。彼は突然告げられた事実に驚いて「え?」と聞き返す。そこに信じられない名前があったからだ。


「オルガ……姉さんが、ハストン卿に協力を?」


 彼は腕を組んで眉を顰める。そんな馬鹿な、と思った。


「姉さんは優しいひとです。いつもみんなから慕われている、いわゆる姉御肌とでも言いましょうか。……ただ、その、家族関係はすこしぎくしゃくはしていました。でも自分から進んで誰かに迷惑をかけるような真似をするひとじゃなかったのに」


 深く同意するようにソフィアとリズベットが頷く。


「あなたのお姉さんは、たしかに純粋な悪いひとには見えなかったわ。だから私たちもいろいろと話を聞いたんだけれど、彼女の行動には大きな理由があった。それがルーカス、あなたのことだったのよ。……勝手に話したらきっと怒られるでしょうね」


 本来なら当人同士が話すべきなのかもしれない。しかしこれ以上にこじれてしまえば、機会は永遠に失われてしまうかもしれない。お互いにとってたったひとりの姉弟なのだから、すれ違ったままはあまりに悲しい、と彼女は口をひらく。


 事情を知ったルーカスがどう思ったのかは分からない。彼は表情に出さず話を聞いて、食後のコーヒーをひとくち飲んでからぼんやりと天井を仰ぎ見た。


「僕は父のことが心底から嫌いでした。病気の母を置いて──いえ、母がそうしろと言ったのも事実なんですが、それでも僕には納得できなかった。だから父が事故で亡くなったと聞いたときも悲しいと思わなかったし、むしろ父親と同じ道を歩みたくないとさえ感じていました。だから涙も流さなかったし、泣いてる暇なんてありませんでしたから……」


 思いは姉と同じだった。しかし向いていた先はそれぞれ違い、結果的に誤解が生まれてしまったのだろう。採掘の権利を手放させたいオルガの考え方には同意できなかったが、それでも気持ちを汲むことはできた。


「……でもそれが結果的に父と同じ行為として姉さんには映っていたんですね。いや、思い返せばそうなのかもしれません。この家を飛び出すときに、あのひとは言っていましたから。『お前も何も変わらないんだな』って」


 深いため息と共に、がっくりと肩を落とす。


「あのひとには会えるんですか、ソフィアさん」

「ええ。おそらく顔を合わせることになるわ」


 ハンデッドの重ねて来た悪行を明るみに出すためには、彼女の協力は必要不可欠だ。最終的にはロッチャの町へ来てもらうことにもなるだろうと話す。ルーカスは最後まで聞き終えてから「お互いに誤解を解かないといけませんね」と言った。


「ウム、誰しも間違いはあるものだ。事情も通じたことだし、我々の計画を立て直そうではないか。憲兵団と自警団の配置をどうする?」


 天候は悪いままだ。夜になって変わるとも思えず、二本あったルートは正面にのみ絞られた。そこでルーカスが「なら自警団には町にいてもらいましょう」と提案する。


 悪天候を理由に自警団は町周辺に集中させ、精鋭揃いの憲兵団は人数が多くないので数人ずつ間隔を開けて警戒──を装ってわざと手薄にする。相手が襲撃しやすい理由を作って情報をハンデッドに流せばいい、と。


「いいかもね。ハストン卿ならソフィアには興味津々だし耳を傾けてくれるはず。彼との接触はアタシたちに任せて。そのあいだに準備を進めておいてよ」


「任せておきたまえ。すぐにでも取り掛かろう」

「わざとらしく派手にお願い、彼が気になるくらい大げさに!」


 善は急げとオルケスはさっそく動き出す。ソフィアたちも町に出入りしているだろうハンデッドのすがたを探すために席を立った。


「あの、僕にはなにか手伝えることはありませんか」


 じっとしていられないルーカスに、ふたりは顔を見合わせてから。


「あなたにはほかに大事な仕事があるでしょう?」

「いざってときにお姉さんと話をする心の準備、とかね」


 思わず呆気にとられてしまい、くすくす笑って楽し気に出ていくのを見送るしかできなかった。ふたりは彼に呼び止められないうちに、といたずらっぽく愉しそうに家を出て自分たちの馬車に乗り、町へ繰り出していく。


「今の感じだったら、仲直りできそうだね!」

「本当に。オルガもきっと喜ぶわ」

「じゃあ、アタシたちはアタシたちの仕事をしますか!」

「そうね。たぶんハンデッドのことだから、まだ来てるはずよ」


 損をしたまま帰れるわけがなく、協力者を失って私兵を使う必要がある。ハンデッドも自分が有利に動けるよう情報を得るためには、ロッチャの町から遠のくことはできない。こんどは単純に町を出入りして、誰かが〝うっかり〟と大事な話を漏らしてくれればと方々で声を掛けることになるだろう。


 ソフィアたちが付け入る隙はそこにあった。


「ふふ、彼が私たちの情報を持ち帰ってくれるのが楽しみね」

「悪い顏してるなあ。ま、それはアタシも同じ気持ちだけど」

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