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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第三部 スケアクロウズと恋する女盗賊
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第21話「不安な要素」

 二階の部屋に戻り扉を閉めるとふたりは同時にふうっ、と息をつく。ロッチャに着いてから、しっかりと腰を落ち着けることもなくあちこちへ足を運び、疲れは徐々に蓄積している。しかしそれも近いうちに終わると思えば嫌とは思わなかった。


「全部順調に進みそうで何よりだわ。リズベットもずっと御者をしてくれてありがとう、おかげで私は楽ができたから」


「アタシにできることも少ないしからさ。そう言ってくれると嬉しいよ」


 ベッドにぼふっ、と飛び込んでソフィアが心地よさそうにする。


「あなたがいてくれなきゃ私だって何もできないのよ。こうしていっしょにいてくれるだけで安心できるんだもの、そのうえあちこち連れまわしてもらって……」


「もう、褒めてもなんにも出ないって。ほら、ちゃんと毛布被って」


 ベッドに潜り込めば、もう眠りに落ちそうな気がした。リズベットはすこしだけ寒そうにしながら、毛布に包まってとなりで寝息を立て始めるソフィアを見つめた。


「……オルガさんたちも仲直りできるといいね。おやすみ、ソフィア」


 明日に備えてリズベットもゆっくり目を閉じる。深い眠りに誘われて、そのうち彼女もすやすやと寝息を立て始めた。朝が来るまでいちども目を覚ますことなく陽が昇って窓に差し込む光が温かく起こしてから、まだ眠たい目をこすりながら疲れの取れ切っていないふたりも来訪者の『おはよう、今日もいい天気だな!』という挨拶で大慌てだ。


 気遣った──つもりでいる──ルーカスがあえて呼ぶことなく朝食の支度を進めて、できあがったら起こしに行こうと考えていたおかげで先にオルケスがやってきたのだった。「急いで急いで!」「急いでるつもりよ」と二階からばたばた降りてくるのを彼は眺めてひどく面白がっていた。


「落ち着きたまえ、怪我をするぞ。ルーカス殿が食堂に朝食を用意してくれているからいっしょに行こう。さては昨夜に飲みすぎでもしたんじゃないかね」


「私たちがそんなに飲んでるよう見えたの?」

「ハハハ! 冗談だよ、さあ行こう。昨夜の続きを話しにな」


 三人は揃って食堂へ向かう。途中、ふとソフィアは窓のそとを見た。


「なんだか雨が降りそうな感じだわ」

「ム? そうか、よく晴れているように見えたが」

「風がこっちに向かなきゃいいけどねえ」


 よくみれば遠くには薄黒い雲が漂っている。風の流れも速く、そう遠くないうちに降り始めるかもしれないとソフィアは予想した。それが的中したのは朝食を済ませて昼過ぎまで、物資の護衛について話あっているときだ。


 曇り始めて一時間もしないうちに雨が降り始める。勢いも徐々に増し、あっという間に窓を叩きつけるような勢いに変わっていった。


「……すごい雨ですね。今朝はあんなに晴れていたのに」


 ルーカスの表情もいささか暗い。鉱山が多く、道も粗削りして切り拓いたものなので地盤的にもあまり強い雨が降ると岩壁が崩れ落ちていることもある。今回の計画で使うことになった二本のルートのうちいっぽうは、その不安要素が強かった。


「せっかく皆様が新しい案を出してくださったばかりなんですが、この雨だと正面のルート以外で使うのは厳しいかもしれません」


「そうね、不可能だったら一本に絞って……日を改めて新しい計画を立て直せばいいわ。そのときはオルケスがいないのが残念だけれど」


 今回の運搬が終われば、しばらくは物資の補給もない。オルケスたちも次の機会が来る頃にはモンストンへ帰っている。


「ウム。俺自身もつらいところだがね、守らねばならないのはロッチャの人間だけではない。だがハストン卿には後ろ盾もなく、彼自身が動いている以上は今回の物資供給量を考えれば逃す理由もないだろう。うまく誘導してみるとするか」


「そうですね。皆様、ありがとうございます。……しかし、ハストン卿が裏で糸を引いていたとは。いったいどこからそんな情報を手に入れたんですか?」


 興味を惹かれて尋ねる純粋なルーカスの言葉に、やはりその質問が来たかとばかりにソフィアが気まずそうな表情を浮かべて、ちらとリズベットを見た。


「言おう、隠してるほうがあとで大変だから」

「……ふう、仕方ないわよね。話しましょうか」


 ひと呼吸を深く、聞く準備の出来ているルーカスに「いい、ちょっと複雑な話になるんだけれど、あなたにも深く関わっていることなのよ」と前置きをして。


「ハストン卿と協力関係にあった人間が私たちに情報を提供してくれてね。まあ、裏切られた報復とも言えるかしら? で、その人物というのが──オルガ・クレリコ。よく知っているでしょう、あなたのお姉さんのことだもの」

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