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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第三部 スケアクロウズと恋する女盗賊
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第19話「情報共有」

 酒場の賑わいは憲兵団の者たちによるものだった。店内へ入れば、ふたりのすがたに加えてオルケスもいるのに気付いた彼らは自宅のような騒がしさから瞬時に落ち着きのある様子へ変わる。彼の座る席がないと分かり、慌てて何人かがテーブルを片付けて「こちらが空いてますよ!」と促した。


「気を遣い過ぎるなよ、お前たち」

「いえ、当然の務めでありますから! ささ、どうぞ」


 椅子をわずかに下げられて、オルケスは呆れた。毎度のこととはいえ、そこまでされては気が重いのだ。もっと気楽に関わりたいが、彼らはそうもいかない。自分たちの領主に対しての無礼を彼ら自身が許せないのだ。


 仕方なく椅子に座ったら軽く目配せする。それとなく憲兵団の面々はほんの少しだけオルケスが座るテーブル席から距離を置いた。


「相変わらず人気者だね、オルケスさん」

「困ってるくらいだ、もっと気兼ねなくていいんだが」

「さすがに子爵を相手に気兼ねなくは無理でしょ~」

「それはそうかもな。さあ、いろいろ頼むとするか」


 いつまでも腹をすかせたままではいられない。すぐにメニューから気になるものを次々に遠慮なく注文して「食べきれるの?」とソフィアに心配されたが、彼はどんと胸を張って「余裕だ、俺の胃袋は飢えてる」と自信たっぷりに返す。


 しばらく待って料理が届けば、酒を嗜みながら三人は近況報告や最近起きた事件など様々な話題で盛り上がった。ほろ酔い気分に食事の手も緩んできたあたりでリズベットがそれとなく本題を切り出した。


「あ、そうだ。オルケスおじさんに話しがあるんだけどさ」

「うん? 俺に話だなんて、なにか困りごとでも?」

「そんなとこ。ね、ソフィア、もうそろそろ良いんじゃない」

「ええ、あまり酔っ払ってしまわないうちに済ませましょう」


 ぶどう酒をひと口飲んで喉を潤すと、ソフィアは真剣な顔をする。


「単刀直入に言うわ、オルケス。明日の夜に行われる物資運搬の警備だけれど、その情報をハンデッドに話しておきたいと考えているの」


「……ハストン卿に? なんでまた。アイツは非協力的だぞ」


 納得がいかないオルケスは不満げに頬杖を突く。


「だいたい、あんなヤツに協力を頼めば見返りを要求されるに決まってる。知らないかもしれないが、ろくなうわさも聞かない男だ。女王陛下の陰口をたたいたとかで、これまで彼を傍に置いてきたグレーリー侯にも見放されたなんて話もある」


 身に覚えのある話を聞いてふたりは苦笑いを浮かべた。


「でもオルケス、私は彼に協力を求めたいわけじゃないの」

「だったらなんだね、あの男に話をするメリットがあるのか?」

「そのとおりよ。──なにせ強盗団を動かしているのは彼だもの」


 オルケスが顔をあげて驚く。目を見開き、「本当の話か」と尋ねた。


「さっきは言わなかったんだけどさ。アタシたちはもう強盗団の居場所を突き止めてあるんだ。なんなら彼らとの接触もあった。そこでハストン卿が今回の件に深く関わっている事実を知ったんだよ。あのひとが裏で糸を引いてたってわけ」


「ばかな……。だがなぜルーカス殿にはその話をしなかったんだ」


 本来、聞くべきは自分だけでなく彼もそのはずだとオルケスは苦い表情でふたりを見る。ソフィアが小さなため息をついて「複雑なのよ」と口を開いた。


「ハンデッドが雇ったのは強盗団というよりは寄せ集めのごろつき……それも、職にあぶれて生きるだけが精いっぱいのひとたちね。で、そんな集団を率いているのがオルガ・クレリコという女性よ。ここまで言えば分かるでしょう?」


 聡明なオルケスはクレリコの姓を聞くなり目を細める。


「ルーカス殿の身内か。たしかに複雑な話だ、理由は分かってるのか」

「いろいろと話してくれたわ。ハンデッドのこともね」


 オルガのルーカスに対する想いや、なぜハンデッドと出会い強盗団としてロッチャへ足を運ぶに至ったかなどすべての情報をオルケスと共有する。彼はひどくがっかりした様子で最後まで話を聞き、ハンデッドの薄ら笑いを想像して舌打ちした。


「あの男は利益のためなら手段も択ばないし、平気でひとも裏切るんだな。たしかにプラキドゥム山脈は採掘の権利さえ得ていれば宝の山も同然だ。わざわざ大金を投資してまで手に入れる価値はあるのかもしれん」


 グラスになみなみと注がれたぶどう酒をぐびっと飲み干す。


「おそらくハストン卿は俺たちが物資を運び込むとなれば私兵でもなんでも使って奪いにかかるだろう。その罪は強盗団がやったことにしてしまえばいい。と、すると明日の予定は組みなおしになる。……ルーカス殿も交えてな」


 頬はほんのり紅いが酔いは醒め気味だ。オルケスは追加で酒を注文した。


「面白くなってきたではないか。あの男を罠にはめるというのなら俺は大歓迎だぞ。──ぜひ君たちの案を聞かせてもらいたいのだが、構わないかな?」

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