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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第三部 スケアクロウズと恋する女盗賊
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第15話「お互いを信じて」

 聞くべき話を聞いて引き上げたあと、ソフィアたちは採掘場でまた夜を過ごす。今後についてオルガから協力の申し出があったからだ。


 ひどく不機嫌に彼女は酒を乱暴に飲みながら、食事の席で重いため息をついた。ハンデッドの一味が自分たちを裏切っていたうえ、口八丁でまだ操れると思っていたことに腹を立てて、採掘場にいる仲間を全員集めて会議を開く。


「今後オレたちはロッチャを襲撃しない。たとえハンデッドが頭を下げるような奇跡があったとしても、あいつの計画に乗っかる理由がねえからな」


 事情を聞いた者たちは、最初からオルガを雇い主と考えている。いくら金を積まれてもほかのだれかへ転ぶつもりはない固い意志もあった。彼女が嫌だと言えば、それが正しいと離反することなく頷いて返す。


「そこで、だ。今後、オレたちは拠点を麓の森に移してしばらく身を隠す。……ソフィア、あんたらはそのほうが都合がいいんだろ?」


「ええ。ハンデッドの出方も見たいし、あなたたちの協力が得られないならリスクがあっても多少の行動はせざるを得ないはずだから」


 プラキドゥム山脈はまさに巨大な金脈だ。採掘の権利を得られれば、どれほどの利益が生まれるかなど想像力さえ及ばない莫大なものになるだろう。ようやく手が届きそうなところまできて空ぶったハンデッドがこれまでに重ねてきた不利益を回収するには、どうしてもロッチャの町を懐柔するほかない。


 ソフィアという人間が一筋縄ではいかない相手である以上、多少強引な手段を使ってでも取り入ろうと考えているはずで、そこを切り崩すことが彼の悪行をすべて暴くチャンスだと彼女は考える。


「ちょうどモンストンから警備に来ているオルケスは私たちの友人なの。事情を話して、もうすこしの協力を頼んでみるわ。私たちはともかく憲兵団が彼らの悪事を直接、その目で確認したのなら取り押さえる権限は持っているはず」


「魔女代理ってのは顔が広いんだな。オルケスってのはモンストンの子爵だろ? 庶民派で人気の良い領主ってのはどこへ行っても聞く話だ、オレでも知ってるくらい」


 周囲も揃って頷く。彼の〝ダルマーニャ子爵〟という呼び名はヴェルディブルグで広く知られている。地位を欲するわけでもなく、故郷のモンストンをこよなく愛する男の話は誰でもいちどは耳にしたことがあるほどだ。


「でも大丈夫なのかよ? ハストンはああで馬鹿なわけじゃねえ。オレたちが介入しないと分かれば、今度はあいつらが自分の私兵を使って強盗団のふり……いや、実際にはそうなるかもしんねえけど、間違いなく物資を要求するぞ」


 いくら町にモンストンの憲兵団が滞在しているとはいえ、ハストンも自分の金で雇っている以上は腕利きの傭兵を雇っているだろう。坑道で話していたときにずっと待機していた男たちも、オルガの見た限りでは相当な腕利きであることがうかがえた。


「あっちは捕まるくらいしかリスクがねえが、ロッチャ側からしてみればひとりでも人質に取られればアウトだ。憲兵団の優秀さはうわさに聞いてる。けどなんの対策もなしに連中とかち合うってのは問題があるんじゃ?」


「そのあたりは大丈夫よ。彼らもやわじゃないし、最終手段もあるから」


 余裕の表情に、なんとなく頼もしさを覚えたオルガは気にするのをやめた。魔女が自分の代わりを務められると選んだ人間なのだから、ハンデッドひとりの考えなどお見通しなのだろう、と。


「アタシたちはそれで問題なさそうだね。ほかのみんなは?」

「ハッ。オレたちは森で過ごすだけだ、大したことねえさ」


 規模が大きいので森のなかだと野営が広範囲に及ぶとしても、仕事ひとつのために山脈の暑い場所を選んでわざわざ滞在する必要がなくなったぶん、川の傍で水も汲めるし狩りも前より人数が割ける。そもそもから自分たちが所有する物資もあるので、ちょっとした休息期間が取れると喜んだ。


 オルガの傍によくいる男が「あ、そういやあ」と口を開く。


「ロッチャに返す予定だった物資はどうするんです? 連中、あのまま野放しにしてたら、まんがいちの証拠隠滅に闇市場にでも流しちまうんじゃ?」


 足のつかない方法くらいハンデッドのようなあくどい人間ならばいくらでも知っているだろう。彼の言うことに一理ある、とソフィアはさっそく手を打つことにした。


「たしか物資の保管されている坑道には見張りがふたり居ただけよね? それならハンデッドは明日の予定もあるだろうし、わざわざ寝ずの番をするような人間じゃないわ。今から戻って、私たちで取り返しましょう」


「取り返したあとの物資はどうすりゃいいんだ?」

「あなたたちが森で大切に持っていてくれればいいわ」


 頼まれたオルガが、ププッと口に手を当てて笑う。


「なんだなんだ、いいのか? オレたちが喰っちまうかもしれねえぞ」


 飛ばされた冗談にソフィアは堂々と答える。


「私を信じてくれるあなたを信じると決めたもの」


 にかっと笑って小指を立てる。オルガは照れくさそうにした。


「ったく……。掛け値なしに性格の良い女だなあ、あんたは」

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