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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第三部 スケアクロウズと恋する女盗賊
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第13話「交渉」

────翌日。ソフィアは約束通りに採掘場へ再びやってくる。


 ロッチャに戻った晩には、帰りの遅さに心配したルーカスが町の警備に協力していたオルケスたちに捜索を頼もうとしていたときで、速めに帰れて良かったと安堵したものだ。それからただ調査が長引いただけだと誤魔化し、ぐっすり眠ったリズベットを背負って借りている部屋まで運んでソフィアもあっという間に眠った。


 そのあとは約束の時間までロッチャで過ごし、月がのぼった頃にルーカスへ調べたいことがあると言って町を出てオルガと合流した。


「遅かったじゃねえか、もう来ないかと思ったぜ」


 既に彼女は出発の準備を済ませて待っていた。


「ごめんなさい、なかなか納得してもらえなくて」


 夜遅くになってからでは見通しも悪く、強盗団に出くわせば余計な危険を伴うことになると最初は拒否されたが、それに関しては絶対に問題ないと言い聞かせて納得してもらうまでに時間が掛かってしまった。


 ぎりぎり間に合ってくれて良かった、とホッとする。


「ハストンとの合流はまだもうしばらくあとだ。指定を受けた場所へ先に向かって、あんたらは見つからないよう近くに隠れてろ。ただし何を聴いても絶対出てくるなよ。それができなきゃ、オレはあんたらも裏切り者だと考える。それでいいな?」


「ええ、構わないわ。事実を確かめたいだけだから」

「アタシたちは約束を破ったりしないから安心してよ」


 胸を張って答えるふたりをオルガは面白がって鼻を鳴らす。


「おう、それはこれから分かることだ。じゃあ行くぜ、ついてきな」


 採掘場を出て向かったのはロッチャの町からはすこし離れた鉱山で、ソフィアたちはすこし離れた場所に馬車を停めてオルガの合図を待つことになる。ハンデッドがやってくれば、馬の蹄が地面を叩く音でじゅうぶんに気付けるよう耳を澄ませた。


「……来たわ、リズ。行きましょう」


 しばらくしてハンデッドが来たのに気付き、すがたを晒さないよう慎重に──物音も立てないように近付いて──坑道に向かう。焚火を前に待機していたオルガは、ちらっと取引相手よりも後方にいるふたりを見る。


「よう、旦那。寒いだろ、こっちへ来いよ」

「まったくだ。こうも昼と夜で寒暖差があるのは慣れんよ」

「そういうもんさ。最近じゃマシになったほうだよ」

「さっさとこんな土地から暖かい邸宅へ戻りたくなる」

「採掘の権利さえ取れれば、って話か?」


 ハンデッドがバツの悪そうな顔をした。


「毎回、会うたびに愚痴っぽく言うのは反省してるつもりだ。だが、そういう性分なんでね。諦めてもらえると助かるんだが」


「考えておくよ。オレの耳が機嫌のいいうちはな」


 焚火を前にわずかな沈黙が流れる。それはふたりにとっていつものことだ。オルガは酒が入っていなければ人と話をするのは得意ではなく、ハンデッドも下心が透けて見えるかのように急いで本題に入るのをいつも躊躇うからだった。


 しかし、それをいつまでも続けるわけにもいかない。


「……オルガ、昨日も話したとおりしばらく物資の要求はなしだ。オルケス──モンストンの領主が憲兵団を抱えて町に居座ってる。一週間ほどの滞在だそうだ。そのあいだだけ、君たちには大人しくしてもらいたい」


 オルケス率いる憲兵団は、ただ町の警備をしているだけではなく腕も立つ精鋭集団だ。そう易々と対面して良いような相手ではなく、そのうえロッチャの自警団までもが敵に回ればどうなるかなど火を見るより明らかだ。ハンデッドは彼女たちが捕まれば自分の身も危うくなると警戒していた。


「そりゃ大変だ。だけどよ、旦那。メシの種ってのはどこにでも転がってるわけじゃねえ。麓には森があるから水には困ってないとしても、食いもんは楽に手に入らないってのは分かるよな。奪った物資から分けてもいいと思わねえか?」


 ハンデッドにはロッチャに滞在するか、近くの町で宿を取れる。あるいは別荘という手もなくはない。温かい食事をし、湯浴みをして汚れを洗い、ふかふかのベッドで疲れを癒すだろう。オルガたちにはそれができない。なにかしらのメリットがなければ──要はこれまで奪ってきた物資の一部を提供してもらうことで合意すると言うのだ。


 もちろん難色は示された。ハンデッドは眉間にしわを寄せる。


「……気持ちは分かる。しかしあれはロッチャの住民に──」

「そのうち返す。それも〝提供という形で〟だろ?」


 薪を火にくべて、呆れた顔をする。


「あんたの点数稼ぎに使うだけじゃねえか。指定された場所に運び込んだ物資に独占権があるとでも言いてえか、契約書も交わしてないのに」


「そういうわけでは。しかし君たちの数を考えるとだね……」


 規模に比例して大きければ大きいほど消費も激しくなる。彼女たちの一週間分を賄うとなると相当なものだ。ハンデッドが渋るのも当然だろう。そこでオルガは「まずはどれだけあるかチェックしたい」と提案した。


「なあに、一週間分全部を賄えって話じゃない。これまでに保管してきた分が、どのくらいあるのかを確かめさせてもらいたいってだけだよ。全部が備蓄できるとは思ってねえ、すこし減ってても気にしないさ。──問題ねえよな?」


 ハンデッドはすごまれると言葉に詰まり、ごくっと唾を呑み込んで。


「わ、わかった……。行こう、君の言う通り分配するとしよう」

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