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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第三部 スケアクロウズと恋する女盗賊
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第12話「ゆびきり」

 オルガの考えは、そのときが来るまで秘密だ。代わりにソフィアたちがロッチャに戻るのを許し、自分たちのことは黙っているよう約束をする。


「いいか、オレはあんたを信じる。だからあんたもオレを信じろ。……それがお互いのためになるんだろ? 絶対に裏切らない、それが条件だ」


「ええ、もちろんよ。私もあなたを信じるわ」


 差し出された小指にオルガが首をかしげる。


「なんだい、そりゃ。なにかのまじないか?」

「〝ゆびきり〟っていうのよ。これで誓いを立てるの」

「ふーん。そういうのがあんのか。いいぜ、交わそう」


 小指を絡め、ゆっくり離す。なんとなく名残惜しく感じつつ、ソフィアに「さっさと帰りな。明日の夜には、またここへ来い」と伝えて支度をさせる。揺り起こされたリズベットはまだ酔いが残っているようだったが、急いで帰らなくては誰かが探しに来てしまう可能性もあり、馬車の荷台で寝かせることにした。


「なあ。ちゃんとあんたの名前聞いてなかった」

「……あら、そういえばそうね?」


 オルガの名前は聞いたが、尋ねられたまま話の流れで自己紹介をするのも忘れていたとソフィアは申し訳なさそうな顔をする。御者台に乗り、手綱をしっかり握って──。


「ソフィア・スケアクロウズよ。覚えておいて」

「わかったよ。絶対に忘れたりしねえさ」

「私も。……じゃあ、また明日ね。ゆっくり休んで」

「ああ。ここで待ってる、絶対だからな」


 馬車は採掘場を抜けていく。砂利を蹴ってさっそうと。


「良かったんですかい、お嬢」

「なーに言ってんだ。ありゃ魔女代理だぞ」

「……? 魔女代理、ってなんですか?」


 部下の頭の悪さに頭痛がする。オルガはなぜ彼らがごろつきあがりとして安く雇えたかを改めて思い知り、ため息がもれた。


「魔女代理っつうのは、要は魔女公認のお遣いってことだ。オレたちなんかとは身分が違う。……魔女ってのは王族でさえ頭を下げるほどのデカい存在なのは常識だろ」


「はあ~、つまりあれもそれくらいの……え?」


 目を丸くして言葉も出てこない部下の驚きぶりを横目に、オルガはなんとも不機嫌そうな様子でチッと舌を鳴らす。


「ハストンの奴から魔女代理が来てるって聞かされたところなんだが、あの野郎、採掘権が買われてたなんて話はしなかった。わざと黙ってやがったとはな。オレたちもずいぶん甘く見られたもんだよ、だから貴族ってのは腹が立つ」


 ソフィアの言う通りハンデッドが自分たちを利用するだけして裏切るつもりなのは最初からある程度承知のうえだったが、約束はあくまで彼女の目的が果たされるまでという話だった。それまでならば許容もできたが、黙って道具のように使われるのは気分が悪い。なによりひとつ、どうしても彼女には確かめたいこともあった。


「でも、お嬢。さっきのふたりも嘘をついてる可能性はあるんじゃないですか? お嬢の取引相手をとっ捕まえるために手段を選んでないとか」


「だとしてもハストンよりマシなのは本当だろうよ」


 嘘も方便、というのをオルガは理解している。本人も多少は目を瞑るくらいの器量はあるつもりだ。それがひとえに自分のためを想ってのことなら、なおさらに。だがハンデッドは違う。彼女たちを『利用価値がある道具』としか考えていない。


 疑う余地があるなら調べて事実を確認する。ソフィアのぶつけてきた言葉が本物であるかどうか、明日の夜にはすべてが分かるだろう、と。


「……それに、なんつうかこう。アイツはわざわざオレたちを蹴落とすために嘘なんかつかないって、そう思ったんだよ。あの小さい手が──いや、なんでもねえ」


 強い力が込められていて、わずかに震えていた。どんな感情がそこにあったのかは分からない。同情だったのかもしれないし、怒りなのかもしれない。けれども奥底で馬鹿にしていたりするような雰囲気はなく、だからこそ信じられるものがあった。


 残ったスープを飲み干し、肉を喰らって息をつく。


「それより、だ。オレたちはオレたちのすべきことをしよう」

「はて……と言いますと、何するんですか?」

「頭の悪いヤツだなあ、お前は」


 器を置いて立ち上がり、近くにいた兵士を蹴り起こす。


「オラッ、全員起きろ! いつまで寝たフリしてんだ、さっさと片付けの準備しやがれ! メシは食ったら片付ける、作ってもらうだけが食事じゃねえだろが!」

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