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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第三部 スケアクロウズと恋する女盗賊
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第8話「奇妙な雰囲気」

 オルガ・クレリコは強盗団でただひとりの女盗賊だ。細身に見えるが筋肉質で引き締まっており、男勝りな性格はほかの盗賊たちを見れば分かるほど強さをしている。もちろん、それだけではない。彼らが〝お嬢〟と呼ぶのは、つまりオルガに相当の実力がある証明だった。女性であるという点を妬まれたり、見下されたりすることなく、彼らから尊敬を集めていた。


 しかしソフィアにはそんなことはどうでもよかった。


「今、あなたクレリコと名乗ったかしら?」

「そうだよ、なにか問題でもあんのか」


 ぎろりと睨まれても臆することなくソフィアは尋ねる。


「ロッチャの町長……ええっと、ルーカスもクレリコという姓だったわ。あなたたちが町に現れる理由って、もしかして血縁に関係してる?」


 オルガが目を細めて感心したように「へえ」ともらす。


「お前らロッチャから来たのか。ま、そりゃそうだよな。ただの旅行者が馬車もなくそんな恰好で歩き回るわけがねえ。……あんたら何者だ」


 多少の道の整備がされているとはいえロッチャ以外に町はなく、プラキドゥム山脈の麓から旅行者が来るときに歩く場合、ふたりのような軽装はありえない。なんらかの理由で馬車をどこかに置いてあるはずだとオルガは男たちに探すよう指示を出す。


「……隠しても意味はなさそうね」

「隠してもいいぜ、無理やり聞き出すだけだ」

「そ。じゃあ痛いのは嫌だから教えてあげる」


 なにかあったときはリズベットを庇うためにそれとなく不自然のないよう一歩前に出て、わざとらしく肩をすくめて仕方なさそうに答えた。


「ロッチャで依頼を受けて来たの。あなたたちのアジトの場所を特定してほしい、って町長のルーカスから直々にね。どうせなんとなく想像はついてるでしょう?」


 先ほどの反応から明確に彼女が口にしたわけではないが、間違いなくルーカスとの血縁があると思ったソフィアが挑発する。


「だったらなんだ。言いたいことはそれだけか、あァ?」


 ソファから立ち上がって詰め寄り胸倉を掴む。リズベットが割って入ろうとしたが、ソフィアはちらと視線を送って助けを拒んだ。


「いいか、オレはあんな野郎を血縁だと思ったことはねえ。二度とアイツの名前を出して挑発すんなよ。次は────」


 ぶっ殺す、とでも言いたかったのだろう。しかし突然、彼女は言うのをやめた。掴んでいた手もパッと離して不服そうに頭をがりがりと掻きながら。


「……まあいいよ、うん。とりあえず殺さないでおいてやるが、あんたらをここから出すわけにはいかねえ。バレても困るしな」


「じゃあどうするの? 私たちをエサにまた脅迫でもするのかしら」

「脅迫なんかじゃねえ!……いや、脅迫か? まあどっちだっていい」


 ソファに座りなおして腕を組み、オルガはふたりに尋ねた。


「あのクソみてえな町が潰せればオレはいいんだよ。あんたらが使えようが使えなかろうが、やることは変わらねえ。だいたい、ほかの連中だって仕方なく……」


「仕方なく? 仕方なく君たちが町を襲う理由ってなんなの?」


 リズベットが不思議そうに返した。オルガは睨みつけたが、はあ、と大きなため息をついて「オレにも事情があんだよ、わざわざ言わないけどな」心底気に入らなそうな態度を示す。


「とにかく今、あんたらを帰すわけにゃいかねえ。……少なくともひと晩はここにいてもらうぜ。そんで、そのまま山ァ下りてもらう。邪魔されたくねえんだ」


 どうにもオルガの態度やほかの盗賊たちの雰囲気に違和感を覚えたソフィアは、傍にいたリズベットの手を握って小声で「ちょっと様子を見ましょう」と伝える。


(ただの強盗団にしては理性的で暴力を振るうわけでもないし、事情が気になるわね。ルーカスと仲が悪いだけでロッチャの町そのものを目の敵にするのもいまいち動機としては弱いから、もっと具体的な話を聞き出せるといいのだけれど……)


 相手に自分たちを処分する気がないのなら今は大人しくしておいたほうがリズベットも安全に済むし、またラルティエのときのように誰かが陰で糸を引いている可能性もある。何かが引っ掛かって、どうしてもソフィアは落ち着かない。


「わかったよ、ソフィア。アタシも気になってるしね」

「オイ、ブツブツと何を話してやがる?」

「ううん、ちょっと喉が渇いたねって話してただけ」

「なんだよ、何も持たずに歩いてたのか」


 けらけらと小馬鹿にしてオルガは愉快な表情をする。それから「お前らの馬車はどこだ? 荷物に水くらいあるだろ」とても優しい笑みを浮かべた。


「あると言えばあるけれど……取り上げるんじゃないの?」


 訝るような問いかけにオルガはきょとんとして。


「人間が生きるのに水は絶対要るだろ、ここでひと晩飲まず食わずで過ごせなんて鬼畜みてえなこと言うかよ。……ああ、だけど荷物は盗らねえ代わりにひとつ頼まれてくれると嬉しいんだが」


 テントのそとに顔だけ出して、オルガは仲間たちがダラダラとある作業の準備をしているのを見て、ソフィアたちを振り返る。


「あんたら、美味いメシは作れるか?」

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