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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第三部 スケアクロウズと恋する女盗賊
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第3話「心強い味方」

 いったんルーカスの家をあとにして、ふたりは仕事ついでに町を散策して状況をあらためて整理する。馬車を走らせ、ときどき歩いているひとに声を掛けた。聞けた話はルーカスから得た情報と大きく変わらないがソフィアはひとつだけ気になったことがあり、うーんと腕を組んで考え込む。


「……強盗団の目的ってなんなのかしら? 聞けば水や食糧は要求するけど、採掘したダイヤとかの原石や石炭みたいなお金になりそうなものにはいっさい手を出してないみたいだし。それにロッチャへやってくる商人や旅行者を襲っても同じなのよね」


 ただ生きるためなら金品もせしめておかしくない。にもかかわらず奪うのはきまって同じ。不透明な彼らの目的に、リズベットも首を傾げた。


「そうだね。いつまでもロッチャのひとたちから食糧とかを奪うなんて言っても、いずれ限界は来るはずだよね。アタシが襲われた盗賊も金品目当てだったし、それが普通なんだけど……。ここに現れる強盗団はどうも事情が違うのかも」


 頭を悩ませながらも調査は進めなくてはならないと町のそとへ向かおうとすると、ふたりを見つけて「おおい、そこの!」と呼び止める誰かの声がある。


「やっぱりだ、リズベットにソフィアじゃないか。久しぶりだな」

「あら、オルケス? どうしてここにいるの?」


 まだソフィアとリズベットの旅が始まったばかりのとき、モンストンでは共に過ごした時間もあったオルケス・カルキュール・ド・ダルマーニャ子爵。正義感が強く真面目だが気さくな一面もあり、ふたりには大切な友人のひとりだ。


「ウム。ここいらで強盗団が出るといううわさは知らないか」

「ええ、そのことで依頼を受けて来たのよ。もしかしてあなたも?」

「そんなところだ。数日の警備を頼まれてね」


 長期滞在は彼らのひっ迫した生活をさらに苦しいものにすることになるかもしれないし、なにより憲兵団への負担もある。オルケスは部下のほうが大事だと考えていて「ロッチャの人々には申し訳ないとは思うが」と眉尻を下げた。


「ここはモンストンからかなり遠いからな。我々にも家族がいるから、事件解決の見通しが立っていないのに長期滞在をして警備を続けるのは難しい。近場の町を拠点にしていては警備にも穴が出来てしまうし、何かあったときの責任は取れん」


 できれば全員が幸せになる道を探したいオルケスも、無茶なことを言って全員が迷惑を被るくらいなら優先順位を作るしかなかった。ソフィアはそこで名案を思い付いたと手を叩いて「じゃあ数日のあいだでいいから、私たちのお願いも聞いてくれないかしら?」と尋ねる。彼は快い顔をして「もちろん」と頷く。


「実は私たち、強盗団のアジトを探すことになったの。場所を特定したら、彼らが場所を移したりする前に取り締まったりはできないかしら?」


「ああ、なるほど。それならば可能だ、任せてくれ。憲兵団も腕に覚えのある連中を連れてきているからな。強盗団だろうが怯むこともない」


 ソフィアたちがどれほど優秀な人材であるかをオルケスはよく知っている。彼女たちがもしモンストンの住民であったのならば、憲兵団としてスカウトしていただろう。ただ、それでも危険な仕事に就いているのに不安は覚えたが。


「しかしアジトの調査なら俺たちでもできそうなものだが……」

「そうね。まあ、私たち、今は魔女様の代理として来ているから」

「レディ・ローズの? これはまた……君たちが頼られるのも納得だ」


 まさか目の前にいるソフィアに魔法が使えるとは思ってもいないが、ローズの代理と聞かされれば自分たちが調査するよりも確実に居場所を突き止めてくれるのは間違いない、と信頼を寄せる。あらためて魔女の存在が大きいかをふたりは再確認した。


「では見通しがたったら声を掛けてくれ。いつでも出発できるよう、常に準備はさせておく。君たちにはモンストンでの借りがある、絶対に手伝わせてもらうよ」


「ありがとう。頼りにさせてもらうわ、オルケス」

「子爵が元気そうで良かった。またゆっくり話せるといいですね」

「もちろんだとも。またモンストンにも来てくれたまえ」


 心強い味方を得たふたりは挨拶を済ませたらすぐに町の入り口へ向かった。また門を開けてもらうために汗をかいてもらうことになるだろうと若干の申し訳なさを覚えつつ行ってみると、ほかに来客があったのか門は大きく開け放たれていた。


「……だから言ってるだろう、町長はあんたに会う気はないんだ」

「そう怒らないで。お互いにとって悪い話じゃないんですよ」


 どうやら揉めているのか、自警団の男が声を荒げている相手は身なりの整ったそれなりの階級を持つ貴族だとひと目で分かる。


「何かあったの、おじさま。そんなに怖い顔をして」

「ああ、これは魔女代理の……実はこの方が──」


 自警団の男が困った様子で事情を説明しようとすると、相手の貴族らしい男が割って入り、嫌にニヤニヤとした表情でソフィアの前に立って手を差し出す。


「これはどうも! 魔女代理とはうわさにお聞きしています、スケアクロウズさんですね? 先日、ヴェルディブルグでは魔女様に代わって証拠を集め、裁判でクレイグ・オルディールの罪を暴いたとか! お会いできて光栄です、レディ!」


 饒舌な男に対してソフィアは握手に応じようとはせず、軽く服の裾をつまんで持ち上げて小さくお辞儀をした。


「初めまして。あなたのお名前を聞かせて頂けるかしら」

「……おっと、これはとても失礼なことを。改めまして……」


 彼は慌てて手を引っ込めてお辞儀を返す。


「──ハンデッド・アンダー・フォン・ハストンと申します」

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