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銀荊の魔女─スケアクロウズ─  作者: 智慧砂猫
第一部 スケアクロウズと魔法の遺物
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第7話「リズベットの商売」

 モンストンでは住民でないかぎり子爵本人か商会から証明書を得た行商人だけが取引を許されており、一部のモノには税が課されている。儲けが欲しい者たちの中には証明書を偽造する者が後を絶たない。


 過去には取引の自由を謳っていたオルケスは行商人たちのあいだで価値の詐欺行為などが横行した─そのときの流行的なものですぐになくなりはしたが─ためにそうした制限を設けたのだ。だが、ここ最近になって〝薔薇の刻印がある銀細工〟が高値で売買されており、それらしいものをモンストンの憲兵たちが確認した覚えもなく商会も首を横に振ったので、血眼になって商人を探しているらしい。


「俺の町でありながら管理不足だったことに頭が痛くなるよ。譲ってくれた者がいたので確認はとれたが、銀細工自体は出来は素晴らしくどこかから仕入れた年代物のようで特別怪しい感じはしなかったが……夜な夜な奇妙な文字が薄ぼんやりと輝くんだ。なにか危険なものかもしれないだろうと魔女に調査を頼みたくてね」


 大切な宝物庫を荒らされたような気分だと憤るオルケスは、ふたりに「こんな話を聞かせるべきではないかもな」と愚痴っぽくなったことを後悔して謝罪する。


 リズベットが名案を思い付いて手を叩く。


「それならアタシたちに仕事を頼んでみませんか?」


 せっかく聞いた話だ。ちょうど探している銀細工ということもあって──ソフィアの話は伏せたが──彼女は自分が魔女と似たような仕事をしていると言った。


「実は、その銀細工についても調べている途中なんです。アタシの相棒……ソフィアは若く見えますが、そういった品物に造詣が深いのでなにか力になれることがあると思います。料金は初回価格ということでグッと低く提示させて頂きますよ」


 話を聞いたオルケスはジッとソフィアを見つめる。高級なドレスに派手のようで落ち着いた雰囲気のちりばめられた装飾に、荊の腕輪と薔薇の髪飾りに「ううむ」と唸って腕を組む。リズベットが信用できないわけではないが、危険かもしれない仕事を本当に頼んでも良いのかと頭を悩ませていた。


「そういえば、そちらの子の名を聞いていなかったね。俺はオルケス・カルキュール・ド・ダルマーニャ、このモンストンの領主と言えば分かりやすいかな」


「私はソフィア・スケアクロウズよ。よろしく、ダルマーニャ子爵」


 握手を交わそうとしてオルケスはすこしだけ驚く。


「スケアクロウズ? またずいぶんと古い名前だな。ヴェルディブルグの国内を探しても大昔にいた伯爵家の名でしか聞いたことがないが、その系統の血筋かね。立派なものだ、脈々とどこかで受け継がれていくものなのだな」


 ソフィアは一瞬答えにくそうにしたが、こくんと頷く。


「ええ、あまり褒められた家系ではありませんが」

「知っているとも。だが数百年前の話だ、君が悪いわけじゃない」


 スケアクロウズ家は大昔に血脈の途絶えた家系として知られており魔導書を盗み出したことは公になっていなかったが、そもそもから悪評が風に乗って聞こえるほどで、その末路は悲惨なものだった。だからこそ血を絶やさないためにソフィアはあの雪の中よりも冷たく凍える気さえ起きた城に閉じ込められたのだが。


「嫌ことを考えさせたようで悪かったね。仕事の話をゆっくりしたいが今日はもう夜遅くなってしまうから……そうだな、明日の昼にでも屋敷に来てくれたまえ。具体的な話はそこでしたい。──リズベット、ソフィア。君たちに仕事を頼むよ」


 良い返事をもらってリズベットは「喜んで」と頷く。ソフィアも初仕事に加えて魔道具をいくつか回収できるとあって嬉しそうだ。それから彼は軽い礼を述べて去っていき、遠くを走る馬車にリズベットが深く頭を下げた。


「リズ、いつもこんなふうに仕事をもらってるの?」

「知り合いから頼まれることのほうが多いけど、たまにね」


 なんでも屋として最初は知られるまで時間が掛かったが──自分から売り込む機会のほうが多かった──今では口コミが広がり、こうして身分のある相手からも仕事をもらえるときがあり、滅多とないコネを作る機会だとリズベットは胸を張る。


「アタシの商売はエリス商会といっしょで信用がすべてだ。まー、全部が上手く行くってわけじゃないけど相手もそれを理解してくれてるから、ちょくちょくそうやって話を回してもらったりするのさ。なかなか面白いでしょ?」


 自由な形態の商売は魔女に憧れて始めたものだが、リズベットの性格が後押しするように軌道へ乗せて、今では多くの人々から信頼を得るようになったと自慢げにした。


「でもとりあえずは子爵様の言ったとおり全部明日の話だ。今日のところは宿に戻ってモンストンの美味しい料理とお酒を楽しむとしましょっか!」

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