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2nd ep.人生は因果応報なり ②

    ▲▲▲


 なんとか午前中の授業を耐えたのちの昼休みタイム。

 一緒に食堂で昼食を食べた岳志と別れて中庭のベンチでひと休みしていると、

「よう、寒川」

 俺の存在に気づいた男子生徒が声をかけてきた。

「園田さん。お久しぶりです」

「おう。こんなところで昼寝でもするつもりか? 寒いだろう」

 園田さんの言う通り、今の気温の中庭で長居すると寒さで風邪を引いてしまうかもしれない。

「昼食後の小休憩ですよ。すぐに教室に戻って寝ます」

「どちらにせよ昼寝はするのな」

 声をかけてきたのは園田勇実そのだたくみさん。二年生の先輩でテニス部に所属している。

 わずかの期間ではあったが、この人にはお世話になったことから頭が上がらない。

 テニスの実力は二年生男子の中で一番だ。孤高な一面があり、ダブルスよりもシングルスで実力が遺憾いかんなく発揮される。

 今風の見た目で垢抜けていて清潔感もある。ショートの髪をワックスで立ててセットしており、爽やかな印象を受ける。俺や岳志とは異なるタイプだ。

 性格はスポーツ男子そのもので普段は冷静だけど、部活の最中には熱い一面を覗かせる場面もあった。

 後輩の面倒見もよく人徳がある。正義感も強い。

「どうだ、最近の学校生活は」

「まぁ、楽しくはないですね」

 学校では岳志と喋るくらいしか楽しみはない。授業は分からないし、帰宅部なので授業が終わったらとっとと帰宅して【学生広場】に入り浸るだけだ。

 日下との勉強会が差し込まれたが、あくまで勉強なので甘酸っぱいイベントにはならない。

「そうか。楽しいことが新しく見つかるといいな」

 園田さんとは短期間の付き合いだったけど、今もこうして気にかけてくれる。だからこそ、この人には特に今の俺の体たらくが申し訳なく感じてしまう。

 ところで、一つ気になってることが。

「さっきからずっとスマホをいじってますね」

 園田さんは俺に声をかけてきた時からスマホをずっと握り締めている。

「SNSにログインしててさ。――【学生広場】って知ってる?」

「……知ってますよ」

 なんとなく気まずくて、「俺もやってます」とはあえて言わなかった。

 良好な関係とはいえ、先輩とフレンドになってしまったら【学生広場】上のチャットでも気を遣う必要が出そうだから。SNSくらいは気を遣わない、フラットでいられる環境がいい。

「そこで困った連中がいてな。そのうちの一人は部活動関連の掲示板を荒らし回ってる」

「……へぇ。タチ悪いのがいると迷惑ですよね」

 話に出た輩は俺そのものなんだが、当然暴露する内容ではない。『リバー』も含めたあの一団は【学生広場】の中でもそれなりに悪名が広まっているようで、悪い意味でそこそこ有名になっている。別に目立ちたくて暴れてるんじゃないんだけど。

 園田さんは見定めるかのように目を細めて見つめてくる。

「ど、どうかしましたか?」

「悪い悪い、ぼうっとしてしまった」

 指摘を受けた園田さんは笑みを作ったけど、何か思惑を隠された気がしてならない。

「そ、そうでしたか」

 この人はどこか掴めない一面があって、言動や行動の裏には深い意味があるのではないかと勘ぐってしまう。

「それはともかく」

 気を取り直した園田さんは真剣な面持ちになった。

「あ、はい」

「一度きりの高校生活なんだ。まだ(、、)くすぶり続けてるなら、今からでも何かはじめてみたらどうだ。部活動でも、アルバイトでも、恋愛でもさ」

「……そう、ですね」

 園田さんは俺が高校でダメになった顛末を間近で見てきたので、俺の事情をよく知っている。その上で発破はっぱをかけてくれている。

「興味が湧いたものがあれば、挑戦はしてみたいです」

 俺にできる何かがあれば。

 それに越したことはないし、ひいてはそのやりがいが他の何物にも代えがたい大切なものになるといいんだけど。

「なんでもいい、熱くなれるモノを見つけてほしい」

 そうだよな……。

 やはり園田さんの言う通り――いや、稲本や日下も言ってたけど、自らを正当化して【学生広場】で暴れて鬱憤を晴らすのはダメに決まっている。

(これから少しずつ控えていこうかな……)

 特に『リバー』の方。【学生広場】で暴言を吐いたりレスバを繰り広げたりしてるのは九分くぶ九厘くりんこっちのアカウントだ。

 毎回暴れてからしばらく立つと自己嫌悪にさいなまれる。精神衛生上よくないのは明らかだし、何よりも他人を傷つけ不快な気分にさせる迷惑行為だからだ。

(顔が見えないから。顔が見えなければ、相手の表情が分からないからこそ、加減を忘れてタガも外れる)

 文字で感情を表すことこそできるが、所詮キーボードやスマホのタップで書き出した文字の羅列に過ぎない。いくらでも偽ることは可能だ。

 相手の本当の感情なんて、面と向かって会話でもしない限り分からないのだから。

(あれ――この感じ)

 どこかで同じ気持ちを抱いたことがあったような……?

 まぁ、いいか。

 やりたいことの方は追々考えたいけど、少なくとも今から部活動はないなぁと思っている。

「ところで」

 園田さんは鋭い眼光で俺の目を射貫くように見据えてきた。

「もちろんお前はSNSで迷惑行為はしてないよな?」

「と、当然ですよ! マナー違反ですし、そんなことをしてもむなしいだけです」

 放たれる威圧感についどもってしまった。嘘()くの得意じゃないんだよなぁ。

「だよな。お前の道徳心が健全で安心したよ」

 俺の回答に満足したのか、園田さんはニコッと爽やかな笑顔を作った。

「っと、休んでるところ呼び止めて悪かったな」

「いえいえ」

 園田さんとの会話を切り上げて、ベンチの背もたれにもたれかかる。北風がとても冷たい。

 それにしても――

(【学生広場】の活用方法を今一度考える必要があるな)

 これ以上【学生広場】を憂さ晴らしの道具にしちゃいけない。

【学生広場】の利用方法を(かえり)みながら自分の教室へと戻った。


    ▲▲▲


「ただいまーっと」

 今日も何事もなく授業を終えて帰宅した。

 当然ながら夕刻前なので俺以外は誰も帰ってきていない。

「コーラでも飲むか」

 コーラを出そうと冷蔵庫を開けると、

「って、コーラないじゃん」

 冷蔵庫の中にはサイダー以外の清涼飲料水が置かれていなかった。

「……何もないよりはマシか」

 できればコーラがよかったけど、炭酸飲料ならサイダーでもいい。

 それに――

「あとで買いに行くか」

 我が家は俺以外家を空けがちだ。そのため俺が食料品の買い出しをすることがざらにある。

 普段家族に何かしてやれてるかと問われたらイエスとは言えないので、せめてそのくらいはしようという俺なりのささやかな配慮だ。

 買い物でコーラも調達しよう。

(その前に軽く【学生広場】にログインしよっと)

『COLD』でログインする。


リバー:『帰宅なう』


②  :『おう。二人とも、ちょっといいか?』


 しまった! 間違えて『リバー』の方でログインしちまった。完全なる失策だ。

 しかも『②』が何か言おうとしているので話を合わせるしかなくなった。


リバー:『なんだ?』


ヨシ :『どうした』


②  :『気に食わねぇ奴がいてよ。そいつを叩くのを手伝ってほしいんだ』


ヨシ :『いいけど誰だよ?』


②  :『宮下って奴』


 おいおい、『宮下』って岳志のことじゃねーか。

【学生広場】でも繋がってるリアル友達を裏アカで攻撃するとかさすがにありえねーよ。


リバー:『なぜ、そいつを叩こうと?』


②  :『優等生のいい子ちゃん気取りで目障りなんだよ。本性をさらけ出せよって感じで襲って

     やりてーんだ』


リバー:『そんな理由でわざわざ時間を割く必要あるか?』


②  :『は? なんだお前あいつに肩入れすんの?』


リバー:『そういうつもりじゃないけどさ』


ヨシ :『よく分からんが暇だしいいぜ。手伝うよ』


②  :『そうこなくっちゃ!』


②  :『で、リバーは結局どうすんだ?』


②  :『やんのか、やんねーのか』


リバー:『分かった、やるよ』


②  :『おほっ、さっすが! 同じこころざしの仲間なだけはあるな!』


ヨシ :『で、どうやって叩くんだ?』


②  :『考えがある。お前らは俺に従ってくれればいい』


リバー:『了解』

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