元気のおくすり
キャリーバッグに入れられて向かった先は、二度目ましてのところでした。
お出かけも二回目。お兄さんはタオルと一緒にわたしを運んで、着いた先で受付を済ませると膝の上にわたしの入ったバッグを置いた。
リュック型のもので上や横がメッシュにできる作りになっている。今のわたしには十分すぎる大きさで、お兄さんが歩くのに合わせてゆっさゆっさ揺れるのがおもしろかった。
春日井コムギさーん、とお声がかかったのにピンと耳が動く。
あ! わたしだ! はーい!!
わたしの代わりに返事をしたお兄さんが、立ち上がってぐらりとわたしが揺れる。
呼ばれてわたしごと中へ入ると、診察台に置かれたバッグのファスナーが開いて一気に視界が明るくなった。
「コムギちゃん、こんにちは」
こんにちはこんにちは、コムギです! きゅうんクンクン。
先生がにこにこ挨拶してくれて、わたしも元気に返事をした。
先生も看護師さんも、一回しか会ったことないのにとってもフレンドリー。ヘッヘッと舌を出して反復横跳びするとみんなが笑った。
「今日はワクチンですが、気になることはなにかありますか?」
手際よく体温をはかった先生が言うと、お兄さんはわたしを眺めていた視線を先生へ向ける。
「健康上は特にありません」
「見たところ元気ですね、はい体温も39度。大丈夫です」
お兄さんお兄さん、わたし元気ですって。心配ないんですって。犬って体温高いんですね。
お兄さんを事あるごとに振り返って確認しているわたしを、先生も看護師さんもにこにこ見ている。尻尾がびゅんびゅんした。
宥めるようにわたしの頭を撫でたお兄さんは、相変わらずの無表情で先生に尋ねる。
「いつ頃から外に出られますか?」
「3か月を過ぎた頃ですね。もう一度ワクチンを打って、そのあと2週間以上開けてからにしてください。免疫がまだ安定しないからね」
「わかりました」
「さあ、それじゃあコムギちゃん注射してお終いにしようか」
う。お兄さんお兄さん! 注射はちょっと、お兄さん、わーん!!
お兄さんを振り返って泣いたけれど、先生は待ってはくれず見事な手際でわたしの処置をすませたのである。……注射きらい。
いい子いい子してくれたお兄さんにリュックへ戻されて、待合室で更にお兄さんの指に慰められてから、お会計をしてお家に戻る。
電車にもこのまま乗るのだけれど、メッシュからちらちら外を眺めるわたしに近くにいたお姉さんたちがにこにこ手を振ってくれたので、すっかりご機嫌なわたしはふすふす鼻を鳴らしながら尻尾を振った。
病院に行かないで済むように、健康には気をつけよう。
お兄さんも風邪とかひかないように気をつけてほしいなあ。わたしの元気がお裾分けできたらいいなあと思うので、お家に着いたら思う存分お兄さんにタオルぶるぶるダンスをお披露目しようと決めた。