新しいお家2
前のところより広いからか、お兄さんのベッドから玄関までの距離も長くなった。
わたしはお兄さんが移動するのに合わせて足元を行ったり来たりしている。フローリングは相変わらずわたしにいじわるで、たたたたっと走るとずべっと滑らせてくるからまた今日も勝てない。
頭が重たくて足が短いのもなかなか難しいなあと思いながら、キッチンに立つお兄さんの足元でくるくるする。たまにお腹が床にぶつかるとか信じられない。おかしいなあ、太ってるのかなあ。足が短いからだと思いたいんだけど。
自分の後ろ足を見るために体をひねると茶色の模様と白い足がそこにある。そして尻尾がその向こうでひゅんひゅん揺れている。
わ~! しっぽしっぽしっぽ~! とれない! しっぽとれない~!!
自分の尻尾だとよくわかってるはずなのに、楽しくなってしまってくるくるした。そして床のせいでドテッと転んだ。ぐぬぬ……。
ころんと寝転んだまま見上げると、野菜を切っていたはずのお兄さんが顔を手で覆って崩れている。
え! お兄さんお兄さんどうしたの! お腹痛いの?? 大丈夫??
しゅばっと立ち上がってきゅんきゅん足にまとわりつくと、よろよろしたお兄さんが顔を隠したままわたしをよしよしと撫でてくれた。どうやら大丈夫らしい。
わたしは床だったけど、お兄さんは玉ねぎに負けちゃったのかな。次は勝ちましょうね。
料理が一段落してご飯もすませたお兄さんは、ノートパソコンを立ち上げて机で作業をしている。
どうやらパソコンはもともと持っていたらしい。軽やかにタイピングしているのを眺めていると、慣れているのが一目瞭然で普段あんな感じでお仕事してたのかなあとわたしは大きな欠伸をしながら思った。
このまま寝ようかなとタオルを引っ張り出しているわたしは、玄関の向こうで音がしたのでピタリとやめる。ピンポーンとチャイムが鳴った。
お兄さんが躊躇うことなく向かうので、わたしもついていくと宅配便。爽やかなお兄さんがあざーす! て言いながら去っていく。
ダンボールを受け取ったうちのお兄さんは、部屋の床にそれを置くと開封して箱を脇に退けて中からクッションのようなものを取り出した。包装されたビニールから出してポフポフと叩いて空気を整えている。やわらかそうだ。
そんなお兄さんを眺めてから、わたしはよろこんで目の前にあるものにぴょんと入る。わーい! ダンボールダンボール!
「コムギ、そっちじゃない。箱じゃない違う」
きょとん。お兄さんを見上げる。
違うの? ダンボール楽しいよ? お兄さんはクッションでお休みしたらいいのに。
うっ、と言葉に詰まったお兄さんはこほんと咳払いをしてから首を振る。
「今日からここで寝るといい」
変な顔をしたお兄さんが、整えていたクッションみたいなものをわたしのゲージの中に置いた。ちゃんとお気に入りのタオルも添えてくれている。
あら、どうやらクッションじゃなくてわたしのベッドだったらしい。わーい!
くんくんくんくん思う存分検分してから、わたしはふかふかするベッドに乗って尻尾を振った。