新しいお家1
お兄さんの新しいお仕事が始まるまで、あと一週間くらいある。
引越しを終わらせると、元々の荷物が少なかったからか荷ほどきもすぐ終わり、部屋にはベッドと衣装ケース、テレビ台にテレビ、クローゼットに衣類と鞄などなど元の部屋と似た仕上がりだった。
あとは、わたしの居場所がダンボールハウスからゲージに変わったところは大きな違いですね。
それでおしまいなのかと思っていたら、それから荷物が届いたりお兄さんが買ってきたりとまだ物が増えていった。
部屋には作業できるようなテーブルと椅子、キッチンに食器と調理器具、そして洗濯機。そういえば洗濯機が前のお部屋にはなかったから、これまでコインランドリーを使っていたのかもしれない。
ぜんぜん物がなかったキッチンも、収納グッズを上手に使って消耗品やキッチンツールが並んでいる。お兄さん、もしかしてもしかして!
『え! 自炊してんの!?』
そうなんです! お兄さんがカロリーとお友達になったり10秒で食事を済ませようとしなくなったんです!
電話で近況報告をしたお兄さんに、相手はわたしにしっかり聞こえるほどの声で驚いた。
「今までは時間がなかったからな」
『そーだけど。お前食に興味あったんだな、食えればなんでもいいのかと思ってた』
……それはちょっとわたしも思ってました。
ベッドに腰かけたお兄さんがむっと眉を寄せたのに、足元でわふわふ飛んだり跳ねたりするとひょいと伸びた手が膝に乗せてくれる。
わーい。お膝お膝~。撫でる手にまとわりついてかみかみ。指をぺろぺろ。
『料理できてるの?』
「レシピを見ながらなら」
『うわ~、すごいな。人って変わるんだなあ。ムギちゃんすげえ』
わたしの名前! きゅんきゅんきゅーん。
『あ。そこにいんの?』
「膝で遊んでいる」
『んあーっ! あとで写真送って! 俺も癒されたいっ』
また遊びに来てくださいね、お友達さんのなでなでも気持ちよかったなあ。今度はお膝に乗せてもらってみよう。
そのあと違う話題もいくつか話して電話が終わると、床でお座りしたわたしをお兄さんがパシャパシャ写真に収めた。たぶん言われた通りに送っているのだと思う。お兄さんは律儀な人だ。
『写真撮るの下手かよっ』
すぐにそんな電話がきたのに、お兄さんはまたむっと眉を寄せていた。どんな写真だったんだろう。気になる。
そのあと【犬 写真の撮り方 コツ】で検索したとかしないとか。