封筒の中身
「お兄ちゃん、呼んだら早く出てよ、もう」
妹の萌絵が口を尖らせ、不満そうに言う。
「ごめん、少し考え事してて」
「わかったから、とっとと確認して!気味悪いから。あと、夕食もできたよ」
「了解」
階段を降りると、妹の綺麗な黒髪のツインテールが揺れる。中学3年になる萌絵だが、はっきり俺と両親が違うんじゃないかと思うぐらい可愛い。この容姿で彼氏ができないことが不思議なくらいだ。
リビングに入ると、カレーともハヤシライスとも似つかない匂いがリビングに漂っていた。
「今日はビーフシチューか?」
「正解。明日の朝はこれでいいから」
「了解。いつも悪いね」
「お互い様でしょ。明日の弁当はちゃんと作ってね。先週、お兄ちゃん、しっかり寝坊して大変だったからね」
「わかってるって」
母親が海外で働いていることが多いため、家事の多くは分担している。月、水、金が俺、火、木、土は萌絵が担当している。日曜はお互いの予定でどちらがやるか、一緒にやるか、決めている。ちなみに家計や俺らのお小遣いは母親が置いて行ったものを全て萌絵が管理している。本当にできた妹である。
ちなみに父親は俺が4歳の頃に亡くなったらしい。残念ながら、全く思い出せない。俺の記憶に6歳以前はほとんどないので、仕方がない。
「まぁ、ビーフシチューは置いといて、お兄ちゃんこれこれ」
萌絵が机の上の茶色の封筒を指差す。
「これね」
俺は封筒を持つも近くにあったソファに座る。隣には萌絵が普通に座った。
「なんで隣にいるの」
「だってきになるんだもん」
可愛いく萌絵が答える。
封筒を裏返すとしっかりと住所と俺の名前が書かれていた。
「しっかりと俺の名前だな。うわぁ、切手ないじゃん」
切手がないということはこれは直接、家のポストに入れられたということだ。
「お兄ちゃん、本当に変なことしてない?」
「してないからな。身に覚えがないから、俺だって怖いんだ。よし、開けるぞ」
覚悟を決めて、封筒を破り、中に入っている紙を取り出す。
そこには、
あなたは選ばれました!
カフェ、ラ・クロム・ジュエで、アルバイトしませんか?
時給はまさかの5000円。
働く日も自由に決められます。
アルバイト経験なくてもOKです。
バイトを希望するなら、明日、ラ・クロム・ジュエへ
最後にはご丁寧に住所まで書いてあった。
「うさんくさぁ」
この広告を見た萌絵の感想だった。
俺もそう思う。
でも、時給5000円は破格だ。諦めていた色んなものが買える。
そして、この場所はちょうど家と高校の帰り道で立地も完璧。
日時決められるなら、萌絵に迷惑をかけることも少ない。
正直、少し気になっている。
「はい、没収」
萌絵は無理矢理、広告を奪うとその場でビリビリに破いて、生ゴミのところに突っ込む。
「お兄ちゃん、絶対行かないでよ」
「あっ、うん、わかってる」
どうしようかな。明日だしなぁ。明日逃したらバイトの候補じゃなくなるのかなぁ。あー、気になるなぁ。
「そうだ、お兄ちゃん」
「何だ?」
「来週の火曜日、私の誕生日だから忘れないでね」
それを聞いて、心は決まった。
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