表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

集団自殺

「ジョークじゃないって、どういう意味?」

「……。」

「イノシシ男事件で有名になって心霊スポットだから、死の谷、じゃないの?」

「心霊スポットに、わざわざ来たのね」

「面白がって来たんだよ。おバカな連中が考えそうな事だ」


「そもそも雨の日にキャンプって、変じゃない?」

「事件の日、吉野川のキャンプ場も、テントが一杯だったよ」

「そうなの」

「お金払ってるし、子どもは楽しみにしてるし、少しの雨なら……」

 聖は、口に出して、自分の間違いに気付いた。

 キャンプ場を見たのは27日ではない。前日だった。

 あの時点で雨は降っていなかった。

 降り出したのは27日の夕方からだ。


「雨は夕方から降り出した……昼間は降っていなかったっけ」

「夕方の、何時頃?」

「辺りが薄暗くなっていたから7時前かな」

「そんなに遅い時間なのね。ねえ、どうしてそれまでに『焼きそば』食べてなかったのかしら?」

  一行が死体発見現場に到着したのは12時頃だ。 

「スーパーで食材買って、河原でテント張って……それから何してたのかしら?」

「本当だ。7時間……何していたんだろ」

 聖は怖いモノを見たように

 ぶるっと、震えが来た。

 

「『行き先は死の谷です、明日君は水死体になれるかも』、これ、ジョークじゃ無くて言葉通りなら川で死のう、って意味だとしたら、今まで推理してきた事が全く違ってくるわ」

「へっ? ……まさか、だって、AとBのラインでキャンプは若い女の子を狙ったプランだと分かっているじゃないか」

「ラインが、偽装だったとしたら?」


「何を偽装したの?」

「自殺を事故に見せかける為の偽装」

 マユは、AとBは一緒に入水自殺する仲間を募ったと言い出した。

「SNSで知り合ったメンバーでキャンプに行き、水難事故を装って自殺する。これがAとBの本当の計画だった。自殺したいけど迷惑をかける人がいるから、事故で死にたい。同じ思いの仲間を捜したの」

 聖は

思いも寄らないマユの推理を聞きながら

 あの、無残な光景を思い出した。

 大切な事のように

 頭の中に 細部まで、再現した。


「カーキ色のテントを見たんだ、半分川に浸かって今にも崩れ落ちそうだった。……今思えば、妙な光景だった。いくら素人だって、水際の、あんな危険な場所にテントは張らない。水面が上昇したら流されてしまう。……あの時は死体が強烈すぎて変だと気付かなかった」


夕方からの雨が、その後降り続くのも知っていた。

雨宿りしている間に川の水位が上がり、向こう岸へ渡れなくなる。

車を置いてある県道に行けない。

仕方なく足止めされテントに泊まる。そして夜中にテントごと流される。


自殺が犯罪であるなら

事故を装った完全犯罪だ。


「セイ、徳田さんの話は、全部嘘かもしれない。AとBに声を掛けられたんじゃない。本当は、日が暮れた河原に居る、彼らの不穏な雰囲気を察して、徳田さんが話しかけたんじゃないかしら。仮に徳田さんが集団自殺を知ったとする。そうすると、結果として協力したという事になるわ。溺死より農薬を使う方が確実で苦しむ時間が短いものね」

 徳田は彼らが望むように、楽に確実に死なせ

 事故にみせかける偽装工作を請け負った。

 

 河原の遺体は川に流され、数日後に発見される予定だった。

 水没したテント、携帯電話に残された痕跡で水難事故となる。

 死後数日経った水死体の胃の内容物まで調べる理由は無い。

 

 それが失敗したので

 徳田は、自分が殺したと言った。

 

「カオルに話してみるよ。あっちでも何か新しい情報があるかも」


 翌日、電話でマユの推理を自分で閃いた事にして

 話してみた。

「女子高生以外にも、もう1人おった。キャンプに参加するつもりが、同じ事を言われて気持ち悪いから、車に乗らなかったと」

「そうなんだ。集団自殺の可能性、あるんだな」

「聞かなかった事にして欲しいけど、あるな。実はな、また保険調査員がきたんや。Bがな、事件の前月に、数社の保険に入っている。災害死亡で総額8千万、やて」

「それも自殺なら出ないのか」

「そうやで。何はともあれ殺人犯は被害者の中におる。

 ログハウスからは徳田と、被害者達と山田動物霊園の矢野君の指紋しか出てないから」


「矢野君?」

聖は意外な人物の名前が出てきて、ちょっと驚く。


「徳田はラッシーの寿命が近いから墓のことで矢野に相談していた。矢野はログハウスに何回か行ってる。近いからな。しかしな、徳田が毒を入れたと、言い続けてるんや。ややこしい奴や。セイ、近いうちに、行くわ」

 勤務中なのか、早口で喋って電話を切った。

 

聖は

「なんだ、矢野君は、アイツはログハウスに行ったことがあるんだ」

 知らなかった。

 徳田と、そんな親しいと知らなかった。

 その事に何故か動揺している。

「わざわざ言わなかっただけ、かな。俺とそんな親しくないし」

 些細な事だと、自分に言い聞かせる。

 リスのような可愛い顔した矢野。

 いい奴。

 死んだ犬の足も折れない優男。

 アイツはこの事件に関係ない。

 だって、

 <人殺しの徴>が無かった。

 ……無かった、筈。

 ……手を見た、筈。

スルーしたいのに

頭の中に勝手に

あの日の記憶が蘇る。

矢野からの電話で

山田動物霊園に行き

ラッシーの身体を短くした日。

どんな会話をしたのか、覚えていないけど

矢野が徳田と親しいという情報は無かった。

で、

矢野の手を見たのか?

……見ていない。

焼却炉の前でラッシーの死体を触っているとき

目に入った筈だ。

でも、何の記憶も無い。

それは<人殺しの徴>が無かったという事だろ?

……本当にそうか?

……矢野は作業中で軍手をはめていたのでは。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ