誰が殺した
早朝から日没まで、ヘリコプターの音が、やかましい。
徳田が重要参考人と報道されてから、
犯人の家を上空から撮影している。
地上は広い範囲が、捜索対象になり
立ち入ることは出来ない。
「徳田さんの供述に矛盾はないのね」
マユは、テレビニュース録画を熱心に見ていた。
(白いドレスに振り袖を羽織って
可愛らしい横顔は半透明だけど
その目は生き生きと光を放っていた。)
徳田が、<自首>した、あの夜から
2週間、過ぎた。
ログハウスから被害者達の血痕、指紋が出ている。
切断に使ったチェーンソーも特定できている。
そして、農薬も、あった。
「何故か、徳田さんを養護するコメントが多いのね」
死者に鞭打つように
被害者達のマイナスイメージがネットに出回っていた。
「『クズ共が善良な老人に逆襲された、ざまあみろ』、こんな書き込みが、沢山あるわ。正当防衛だと。さすがに子どもには同情してるみたいだけど」
「AとBに、河原で携帯電話を奪われたと、徳田は言っているらしい。それで警察に通報する事は出来なかったと」
「徳田さん、恐ろしかったでしょうね。携帯電話を奪われて、家に押入られ、色々命令されて……殺されると思ったのよ。それで農薬があるのを思い出してソースに入れた。致死量なんて知らなかった……供述に不自然さは感じない。でも、違うのね?」
「うん。徳田さんは人殺しじゃ無い」
「絶対に?」
「うん」
「じゃあ、徳田さんは嘘を付いていて、犯人は他に居るという事かしら?」
「そうとしか考えられない」
「でも、事件現場のログハウスから、被害者と、徳田さん以外の、指紋は出なかったんでしょ?」
「関係者以外の指紋は出なかったと、カオルに聞いた」
「じゃあ、犯人は被害者の中に居る……それ以外に考えられない」
「被害者の中に? 」
「ねえ、徳田さんは命令されて焼きそばを作った。でも、一人で作ったのかしら?」
AとBは河原で出会った徳田の家が近いと知り
雨宿りを願った。
だが、断られ、
強硬な態度に出た。
爺さん一人、どうにでも出来ると、
では、女達はどうしていたのだろう?
「老人を脅しているのを見たはずね。でも、一緒にログハウスへ行っている」
初めて会った男達が老人を脅すのを見て
普通は身の危険を感じるのではないか?
その場から逃げる事も出来た。
「女の人たちも、脅されてログハウスへ行かされたのかも? 男達は本来の悪人モードになっちゃった」
「成る程。女2人は、徳田と一緒に、焼きそばを作るよう命令された……農薬を入れることを思いついたのは徳田でも、女達も協力したかも知れない……つまり真犯人はCかD? ……死んじゃったんだけど」
「ええ。徳田さんの言うとおり、まさか死ぬとは思ってなかったから、自分たちも一緒に食べてしまった。状況から考えて、徳田さんが皆と食べなくても不自然じゃ無い。結果1人だけ助かった。セイは、遺体を見たんだよね。CとDに人殺しの徴はなかったの?」
「……ちゃんと見なかったから分からない。カラスが群がってたしね。でもさ、それなら何故、徳田は本当の事を言わないんだろう。関与してるのと、実行犯では罪の重さが違うのに」
「徳田さん、自分のせいだと思ってるんでしょう」
「1人で大変な偽造工作したのに?」
「そうね。……それが理解出来ないわね。人殺しでは無いのに罪を背負う心がある人が、どうしてすぐに通報しなかったのかしら」
「知的で温厚な爺さんだった。死体を切断するなんて、あの雰囲気から想像できない」
徳田のデータも、ネットに上がっていた。
地方国立大学を卒業し地元の地方銀行に就職。
退職時は支店長だった。
妻を15年前に亡くし、その後
ラッシーと自由気ままに全国の、主に山間部で
暮らしてきたらしい。
子どもは無かった。
「マユ、とにかく君の推理をカオルに話してみるよ」
翌日、早速電話した。
薫は、
「Cが毒を入れた、その可能性は高い。ただし、致死量と知っていて入れたと、思われる」
と、言う。
「C、なのか?」
「うん。昨日、保険調査員が、署に来たんや。Cは事件の直前に高額の保険に入っている。そして入った直後から心療内科を受診している。医者への確認で自殺未遂の過去が出てきた。自殺なら保険は出ない、それで調査に来た」