表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

自白

「シェパード? ……あっ、」

 聖は思い出した。

 すっかり忘れていた、あの、山田動物霊園で触った犬を。

「そうか。あの老犬は河原に行って、毒の入った焼きそばを食べてしまったのか」

 犬は毒死だったのも思い出した。


「セイ、何言うてるん?」

 薫に聞かれ、

 河原で惨殺死体を見つけた、あの日の事を

 話した。


「つまり、飼い主の家を捜しに行く途中で、シロに事件現場に誘導されたんか。で、その家は見つけたの?」

「いいや。捜してない。すっかり忘れてた」

「そうか。よっしゃ、今から一緒に探しに行こう」

薫は、腰を上げた。

「ええっ? 外、真っ暗だよ。……なんで、今から、なんだ」

 普通、明るくなってから、行くだろう。


「明日まで待てない。極めて重要な情報や」

 シェパードは河原に行ったのか、

 被害者達と接触したのか

 飼い主も一緒だったのか

 早急に確かめると、言う。

「それにな、山の中の一軒家やろう。夜の方が捜しやすいで。人の家があれば、そこには明かりがある。真っ暗な森で光を捜すのは簡単や」

薫は、もう、ドアを開け、行こうとしている。

シロは呼ばれてもないのに、

「ワン」と短く吠えて

付いて行く。


「ちょっと、待って」

聖は慌てて懐中電灯を掴んで、後を追った。

シロに導かれ、まずは山田動物霊園事務所まで

行った。

当然、真っ暗だ。

懐中電灯を消せば、真の闇。

今夜は月も星も無い。

「リヤカーで来たなら、そう遠くない。この辺りには昔から誰も住んでない。

恐らく、最近建てた小さな小屋や。大きな家を建てる平地は無いからな」

足下を照らし、リヤカーが通れそうな経路を捜す。

薫は、時々懐中電灯を消すよう指示した。


ゆっくりと10分ほど行ったときに、

先に明かりが見えた。

木々の間に微かだが、黄色い明かりが見えたのだ。


明かりの方向に、道も延びていた。


「な、見つかったやろ」

「うん。さすが刑事さん」

小さなログハウスが森の中に現れた。

少し離れた処にジムニーが停まっている。

その先に、車で通れる細い道が有るようだ。


窓から明かりが漏れている。

近づけば、この家は建てて間もないのが分かった。

「ねえ、どうするの? 会うつもり? 夜中だけど」

 セイは非常識な訪問になると心配した。


「そうか。もうこんな時間か。どうしても聞きたい事があるんやけど、明日改めて職務質問に、しよか」

 薫は<入り口ドア>のところまで行き

 大きな声で言った。

 中で人の動く気配。

 そしてドアが開いた。

 背の高い男が

 顔を覗かせる。

 何ですか、とは聞かない。


「せっかく来られたんだから、どうぞ、中で話しましょう」


中は、案外広い。

大木をスライスした、丸いテーブルに向かい合って座る。

薫は警察手帳を見せ、

「友人に、動物霊園で毒死した犬を見たと聞いて……」 

と、セイを指差す。

「神流です。近所で剥製屋をしています」

自己紹介すると、

男の顔がほころんだ。

「霊感剥製士の神流さんですか。お会いしたいと思っていました。私は……徳田と申します」

 徳田は、名刺を出してきて、テーブルに置いた。

シェパードの飼い主、徳田文治に間違い無かった。

だが、昭和15年生まれには見えない。

体格が良く、肌の艶もいい。

フサフサの白髪は伸ばして、後ろで束ねている。

白いシャツに、ストレートの黒いジーンスで

外国映画に出てくるようなカッコイイ爺さんだ。

そして、名刺の肩書きは

<自由人>だった。


「定年退職してから、十五年、ずっとラッシーと自由に生きてきました。真の自由です」

肩書きについて、簡単に説明し、

そして

穏やかな笑顔で

「刑事さん、私が、あの人たちを殺しました」

と、言った。


「えっ?」

聖は、自分の耳を疑った。

「徳田さん、今なんて言いはった?」

薫が、女のような高い声で聞く。

意外すぎて声が裏返ったのか。


「事件の事で来られたのでしょう? 偽装工作は失敗したのでしょうね。仕方ない。私のミスですから」

 徳田は職務連絡のように、あっさり言う。


「いや、違うでしょう、」

 セイは大きな声で言ってしまった。

「だって、………」

 あなたの手には<人殺しの徴>が無い、

 そう言いたかったが、言えない。


「あんた、河原で5人を殺したと? 子どもも殺した? そんで男の身体をバラバラにしたのか? どうやって殺した?」

 薫は徳田の言葉を信じていないのか、メモを取ろうともしない。

 刑事の感で、犯人では無いと見抜いているようだ。

 徳田は犯人では無い。

 殺人の具体的な話は出来ないに違いない。

 聖も、そう思っていた。


 だが、徳田は

「殺害方法ですか……それは、農薬を焼きそばのソースに混ぜたんです」

 と、話し出した。

 聞いた薫の顔が強ばる。

 被害者達が最期に食べたのが<焼きそば>と、報道されていない。


「あ、刑事さん。河原で殺したのでは無いんですよ。此処です」

 徳田はテーブルを軽く叩く。


  あの日、ラッシーと川に行きました。毎日の散歩コースです。

  河原に着いた頃、雨が降ってきました。

  大ぶりになりそうな空模様でした。

  散歩は止めて、家に帰ろうと思いました。

  そうしたら、男が2人、追いかけてきたんです。

  河原に数人いたのは目に入っていたので、

  その連中だと思いました。


  何を言うのかと思ったら

 (家は近いのか? 雨宿りさせて欲しい。焼きそばを作って食べる場所が欲しい)

  と、厚かましく言うのです。

  ……断りました。

  ……しかし、強引に、私に着いてきたんです。


「強引に、ですか……脅すような事を言われましたか?」

 薫は、対話をスマホで録音していた。


  ……ニヤニヤ笑っていました。

 (じいさん、子どももおるんやで、助けなアカンやろ)

  ラッシーが奪われました。

  弱って反撃できないのをいいことに、首輪を掴んで首を締め上げました。

  此処に入ってからも、冷蔵庫を勝手に開け……私に色々指図しました。

  今まで一度も味わったことの無い

  腹立たしい状況でした。

  ふと、家には農薬が有る事を思い出しました。

  これで、仕返しが出来るかも知れないと考え

  ソースに混ぜました。

  殺すつもりは有りませんでした。

  苦しんで吐く、ぐらいに、思っていました。

  びっくりしたんです。

  あっけなく、皆あっという間に死んでしまって、……想定外でした。


「ここで死んだ、と言われましたね。しかし発見されたのは河原です。

 どうやって死体を運んだのですか? 

 あっちに道が有るようですが、おそらく県境に向かう道だ。

 随分走って、大きな橋を渡り、辿り付くのは県道です。

 被害者のワゴン車以外の目撃情報はありません。

 貴方が5人の遺体を車から降ろしているところを、誰も見ていないのです」

  

  薫は、徳田の自白に疑いを持っている。

  セイは、人殺しではないと見れば分かるから

  何故嘘をつくのかに頭を巡らせていた。


「刑事さんのおっしゃるとおり、車では行けません。

 ……リヤカーで運んだんです。大変なようですが、下り坂なので案外簡単です」


「へっ?……リヤカー?」

 薫は驚き、そして、何かに思い当たったのか

「あ、」

 と声を出したかと思うと、さっと目つきが替わった。

 犯人を見る目つきだ。


「女、子どもはリヤカーに乗せられたが、大男は無理だった。だから、切断したんですね?」

 薫の問いに

 徳田は頷いた。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ