犬の毛
「AとBが若い女を狙っていたとしたら、結果は残念やな。
……Dはこの手の誘いに何回も乗ってたらしい。タダ飯目当ての親子やと、ネットで情報が出てる。
やや悪質やな。待ち合わせ場所で立ってる親子を見て、即スルーしたと書き込みがあった。
AとBは、どっちかいうと、タダ飯目的のオバサン達に、紳士的な対応をしたとも言える。
奢るランクを落としたが、一応は『焼きそば』食べさせ、動画で見る限り愛想良く応対してるからな」
「犯人はキャンプの最初から居たんじゃ無いんだろ?」
「AとBのラインに、もう1人居た感じは無い。犯人は7月27日の昼頃に、車を使わずに現地に行き、焼きそばソースに毒を入れた。しかし写真に写ってない。被害者達の携帯履歴に、犯人の情報も無い」
「では、被害者達の想定外に……犯人は仲間に加わったと言うこと?」
「そうやな。しかし現場の遺留品は雨ざらしの時間が長すぎて、指紋は採れない」
「……だったら、お手上げじゃん」
聖は、事件現場を思い出す。
死体は2日降り続いた雨で、溺死体のようにふやけていた。
調理器具は半分砂に埋もれていた。
クーラーボックスは随分離れた岩に引っかかっていた。
推定殺害時間から2日の間に
事件現場は、雨と増水した川に、半分流されてしまっていた。
「犯人に繋がる物証は出てこないかも。……そうなると遺体に残った証拠が重要やんか。……あんな、Eの胃から、犬の毛が出たんや。DE親子は公営の団地に住んでいる。犬は飼っていない」
「……河原で、犬の毛が口から入ったと?」
「焼きそばと一緒にな」
「犬が、あの河原に、居たんだな?」
「うん」
「……」
聖は、厄介な事だと思う。
この山に野犬は居ない。
山に居る犬はシロだけ。
シロは自由だから
事件現場まで行っても不思議は無い。
人なつっこいので、
女の子が友好的に接したら
喜んで頬を舐めたりするだろう。
子どもの胃から出た犬の毛が
シロのだという可能性は高い。
そうなると、どうなる?
犯人は県道に車を停めていない。
犯人はランチタイムに現場に現れた。
犬と一緒に。
「カオル、俺が疑われる?」
率直に聞いた。
霊感剥製士と勝手に呼ばれ
オカルト世界では有名人らしい。
それでもって
この山では猟奇事件続き。
さらに、第一発見者。
不可解で残酷な事件の
犯人は
片手だけ手袋した不気味な剥製屋でも
ぜんぜん、違和感ないかも。
「ちゃう、ちゃう。シロの毛じゃ無い。茶色い大型犬の毛や。シェパードや。純血の、シェパードの毛や」