焼きそば
「目撃者も防犯カメラも無い。足跡も指紋も雨が洗い流してくれる。犯人達はSNSでBのキャンプを知り、 殺害場所に好都合だと考えた。……死体も川に流すつもりだったかもしれない。雨で水かさが増え、放置しても勝手に流されると。男2人の身体を切断したのは、流されやすく、する為と、説明が付くわね」
「確かに、もう一雨降れば、死体は岩に激突しながら流れていっただろう。発見された時には随分破損している。発見されない可能性も有るしね」
「警察は被害者達の交友関係を調べているんでしょうね」
「目撃情報もね。県道に車を停めていた筈だから、それはすぐに目撃者が現れると思うよ」
余所者の車を、村の者は見逃さない。
しかし、2週間が過ぎても、
犯人に繋がる情報はでてこない。
不審な車も
恨みを買う交友関係も
出てこない。
だが、司法解剖の結果が出た。
死因は、なんと、
「毒」
だった。
「ますます、訳がわからん事件になった」
久しぶりの休みだと言って
薫が愚痴を溢しに来た。
焼きそばを持って
夕方来た。
「美味い。どこの?」
「大阪行ってたんや。『○月』の、本店で食べて、あんまり美味しいからセイにも食べさせたろ思って」
「ソースが美味いのかな」
セイは初めての食感に感動している。
「そうやな。ソースが味を決める割合は高い、やろうな。……、殺された5人の最後の食事は、コレやってん」
「……え?」
セイは箸を止めた。
「『○月』のとは違うで。自分らで作ったんや。ソースに農薬を混入させたんや」
現場から一番近い駅前のスーパーマーケットで
焼きそばの食材を買ったと分かっていた。
チューブの「焼きそばソース」も買っている。
「報道されている通り、死因は毒、農薬や」
「毒殺とは意外だな」
聖は<毒>に、
何か引っかかる感じがした。
しかし、
このときは、スルーしてしまった。
「焼きそばを食べたのはいつ?」
「7月27日の午後ではないかと。腐敗が進んでいて死亡時間の推定幅がやや広い。27日の夕方から雨が降り出して、翌日は終日激しい雨。セイが発見した29日の朝まで降っていた」
27日の朝にBがSNSでキャンプ仲間(女子限定)を募った。
CとDE親子を10時頃に、それぞれの家の近くまで迎えに行き
駅前スーパーに寄って
現地に到着したのは12時前後と推測されている。
スーパーの監視カメラ、
駐車していた車の目撃情報から、大きなズレは無い。
「バーベキューかと思っていた。焼きそばとは意外」
「安く済ませたんや。AとBのラインの記録から、男2人は、よからぬもくろみで若い女を誘ったようや。ところが、な」
A(最悪。メンヘラババアと、汚い子連れ。終わったな。どっかで捨てるか?)
B(初回からイイ女、釣れへんで。今回は諦めて、リハーサルやと思とこか)
A(ボランティアやんか。あのメンツに、タダ飯食わすの、アホらし)
B(そやな。バーベキューやめとこか。焼きそばにしよか。安上がりや。
しゃーない。一食、喰わせて、用事が出来たというて、終わらせよう)
これが2人の最後のやりとり。
27日の午前10時45分だった。
「それで焼きそばか。焼きそばソースに農薬を入れたって事は……、犯人は、調理時に、被害者達と一緒にいたのか」
「そうや。複数の犯人に襲撃され殴り殺されたのでは無かった。毒殺して、男2人を切断した。そういう事になる」
薫は
切断したのは、増水した川に
流されやすくする為だと
マユの推理と同じ事を言った。
「死んでから、切断したのなら、単独犯でも可能だね」
「そうや」
「被害者5人以外に、少なくとも、もう1人河原に居た。そいつが犯人で、食事に同席していた」
「うん。同席できたという事は友好的な関係でないと成り立たない。一緒に焼きそばを作り、隙を見て ソースに農薬を入れた。そうなるわな」
「被害者の、スマホに残ってないの? 写真とか」
「それが、今のところ、出てない。Dが娘の写真を沢山撮っている。動画もある。しかし、到着時らしく、肝心の、『焼きそば』シーンは無い」
薫は動画を見せてくれた。
男2人がテントを運びながらピースポーズで微笑んでいる。
長身で痩せているのがA。
服装も、顔立ちも
上品だ。
日に焼けてがっしりした体格がB
こちらも、白い歯が印象的で
太い金のネックレスが、やや怪しい雰囲気だが
イケメンの実業家風。
2人とも
とても悪い奴には見えない。
参加した女性への不満は微塵も感じられない。
CはEと、川に足を浸けて
キャッキャと楽しそう。
Cはずんぐりした体型の丸顔。
ベリーショートで、化粧していない。
仕草も喋り方も、幼い。
最後に、(Cが撮っている)DとEの親子。
Dは大きなマスクをしている。
そして、ひどく痩せていた。
長い髪は下半分金色で、ちょっと見苦しい感じ。
母子はお揃いのキャラクターTシャツを着ているが
洗いざらしで色褪せていた。