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秋の谷で

「矢野さんが関係していたなんて驚きね。見ず知らずの人たちの自殺を手伝うなんて、普通、無いわよね」

 マユも事件の真相が意外だったようだ。

「最初は、止めるつもりだったんだよ。徳田はね、問題が金なら何とかしましょう、とまで言ったらしい」

「親切心で彼らを家に招いたのね」


「説得できないのが想定外。彼らが入水自殺を諦めて、車で事故死の方向に心を固めていったのも想定外だったんだ」

「高速道路かダムと言ったのよね。もし高速道路なら……大惨事になったかも知れない」

「死ぬ気だからね。何だってするだろう」


「ログハウスの中で死なせるか、外で死なせるかの二択。究極の選択を迫られたのね。集団自殺計画がある、って警察に届けられないし」

「自殺未遂は犯罪扱いされないだろうから。『野放しにはできない』って矢野君が言っていたな。彼らの望み通り、事故死に偽造できる方法が思いついてしまったのが、運命の分かれ道だったのかな」 


「SNSでは、矢野さん達を擁護する声が多いの?」

「擁護どころじゃ無いよ。ヒーロー扱いだよ」


(クズ野郎の集団自殺の巻き添えで何人死んでいたことか)

(2人は神)

(徳田、格好良すぎ。クズに保険金出るように自分が殺人犯になったって)

(ラッシー、純血シェパードだって。超高級。ラッシー安楽死させて心残り無かったのかな)

(矢野、癒やし系イケメンじゃん。関西の有名私大卒、実家は老舗の饅頭屋。ボンボンがクズに関わってカワイソ)


「関係者の個人情報が流出している。D、に非難が集中している」

「どうして?」


Aは不幸な生い立ちに同情、

真面目に働いていたのと、まあイケメンで、ポイント高い。


Bは一番人気だった。

富裕層で高学歴。容姿もいい。妻の浮気で心が壊れたことに同情。

(妻は特定され、晒されている)


Cは、虐められて不登校になった過去に、同情が集まっている。

苦労をかけた母親に死亡保険を残したかったのが尊いと。

出回った画像が、ふっくらして優しい顔で好印象を与えた。

 

子どもを道連れにしたDには同情の声が無い。


「徳田さんと矢野さんを擁護するコメントは、世論って事? 裁判に影響でるのかしら?」

「さあ。カオルから聞いた話では徳田は友人の弁護士が付いて、矢野には山田社長が、弁護士付けたらしい」

「そうなの。動物霊園もスタッフが抜けて色々大変ね」


「うん。自殺なんて、ホント、止めて欲しいよな」

「セイは、自殺なんて、絶対許せない考えなの?」

「許すとか、許さないとか、以前の話」

「自殺する人の心が、理解出来ないという事?」



「そう。……だってさ、生きてるってことは、必ず死ぬってことだから。急ぐ事無いとおもうワケ。……死んだ親父が、毎年春に、山の桜を指差して言ってた」

 (セイ、よおく、見とくんだよ)

 (長生きしても、あと100回、絶対見れない、からな)

「たった100回だよ。それが無理なんだよ。生きてる間はそんなに長くないと、子どもの時に悟ったのかな」

「あの人たちは、生まれ変わって永遠に、何万回も桜が見れると信じていたのかな。セイは、望み通り生まれ変われると、思う?」


「え?」

 美しい幽霊に聞かれて

 答えに困ってしまう。


 幽霊も

 生まれ変わりも 

 非科学的なのは一緒。

 ついでに、自分が人殺しは見れば分かるのも、凄く非科学的。


 ならば、

 超非科学的に

 何の根拠も無い、自分が感じるままを答えよう。


「生まれ変われるとしても、人間に、とは思えないけど。そんな甘くないでしょ」

「……そうかもね。……可哀想だけどね」

 マユは死者達を哀れみ、

 悲しげな目をする。

「AとBはカモフラージュに、ナンパ目的のライン残してる。用意周到、計画的ではあるけれど、1人で事故死は頭に無かった。自殺したい仲間を募って、一緒に死にたかったんでしょう。それがね、可哀想だと思うの」



「あ、犬のアニメ、2が見れるんだ。マユ、気に入ってただろ?」

 知らない人たちの死など

 もう忘れよう。


 窓から外を見れば 

 今夜も大きな月が、川面を照らしている。


 秋は深まり、徐々に森は色づいている。

 この季節独特の森の薫り。

 これだって、

 飽きるほど味わえる訳では無いのだ。

 月の光を浴びたマユを見ることも

 あと何回ある事か。

 せっかくの美しい夜。

 可哀想な他人の事など

 記憶から消してしまおう。



 11月になって、

 夜は薪ストーブが必要になった。

 寒くなると家事が増える。

 聖は忌まわしい事件の事を

 思い出すことも無かった。


 仕事は小型犬の注文が重なって忙しい。

 ほぼ作業室に籠もっている。


今日もシロと一緒に朝ご飯を食べてから

籠もりっぱなし。


異様にシロが鳴く声で、昼になったと知る。

「ごめん、腹減ったのか」

(シロもずっと人並みに一日三食、なのだ)


作業室を出ると、シロが飛びつく。

次に、開けっ放しの玄関のドアの外へ、行った。


聖を外へ誘っている。

「ごめん。遊んでいる余裕がないんだ」

だから、ドアを開けているでしょ?

自由に、家の中でも、森でも、遊んでていいから。


シロは戻ってきて、また飛びついて、

外へ。

どうしても聖に外へ出て欲しいのだ。

妙に聞き分けが無い。


「シロ、何かあった?」

外へ出る。


最初に、つり橋の上に目が行く。

金髪で白いスーツの男が立っている。

<Jもどき>、だった。


あれは、生身の人間ではない。

山田鈴子にくっついている、

多分、守護霊、だ。

昭和のスターJに似ているので

(Jのポスターから抜け出たので)

聖は勝手に、<Jもどき>、と呼んでいる。


「一人?」

 なんで鈴子の傍にいない?

 そう言えば、最近、動物霊園事務所で見ていない。

 さては、自由に山で遊んでいるのか?

 鈴子の守護は暇だろうから。

 (守る必要無さそう)


「セイ。来いヨ」

 ガマカエルのような耳障りな声で

 吊り橋の上に、呼ぶ。


面白いことでもあるように

笑っている。

 吊り橋の柵に

 カラスが数羽いて、それも聖を見ている。



聖はゆっくり近づく。

シロが先に行って、<Jもどき>の足元にある

何かの臭いを嗅いでいる。


「何? ……魚? これが、どうしたの? 」

<Jもどき>の足下に魚が数匹。

見たことのない、変な魚。

どこが変なのか?


しっかり見ようとしゃがむ。

とたんに、そこらで様子を眺めていたカラスたちが、

寄ってきた。


「気味の悪い魚だな。お前らも、見たことないのか?」

 肩に留まったカラスに聞いてみる。

返事は

「カア(うん)」


「頭部が、……どうなってんの? 頭だけ、白くて、いびつ、目玉はイカ見たい」

 キモい。

 薬品の影響の奇形だろうか?

 見れば見るほど

 

 なんか、

 人間みたいな顔に……。


「人面魚?どうして俺に、見せるの?……どっかから持ってきたの?」

 魚が自力で橋に上れない。


「セイ、分からないのか?」

 <Jもどき>は馬鹿にしたように言う。


「だから、何が?」

 人面魚が五匹、それがどうした。

 ……えっ?

 ……五匹、

 ……まさか。


「もしかして、……アイツらの……なれの果てか?」

生まれ変わりを信じて死んだ5人。

この谷で転生したの?

人面魚に?


「アタリ。セイ、持って帰って、飼うか?」

 と<Jもどき>。


「へっ?……俺が、飼うの?」

 何を言われたか、すぐに理解出来ない。


「カア(飼うのか?)」

 一番大きなカラスが首を傾けて、こっちを見てる。


「ワン(飼う?)」

 シロも吠える。

 

 皆で聖の答えを催促している。

 

 一瞬、水槽の中に5匹泳いでいる姿を想像する。

 怖すぎる。  

「勘弁してよ。無理。全然飼いたくない」

 キッパリ言う。


「そうか」

 <Jもどき>は、言って、

 消えた。


 それが合図のように

 カラスたちは、<魚>に群がる。

 シロも

 <おあずけ>解除モード。

 嬉しそうにカラスと一緒に

 食べている。

 人面魚は美味しいらしく

 一心不乱に、骨までバリバリと喰っている。


聖は、ほんの少し、<彼ら>を哀れんだ。

死んで生まれ変われたけど

醜い人面魚。

カラスに捕獲された。


カラスは見た事無い魚を食っていいのか分からない。

それで(仲間の)聖に見せに来た。

カラスたちと聖とのコミュニケーション不足の部分を

暇な守護霊が仲立ちした。


と、

だいたいの経緯は見えてきた。


カラス達は<彼ら>の死体を啄んでいたのと

同じ連中だ。

もし自分があのタイミングで河原に行かなかったら

死体を本格的に食べて

内臓まで食べて

毒入り内臓物まで食べて

死んでいたかも知れない。


聖は、カラスが死ななくて良かったと

心から思った。


 


最後まで読んで頂き有り難うございました。

            仙堂ルリコ

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