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キャンプ

神流カミナガレ セイ:29才。178センチ。やせ形。端正な顔立ち。横に長い大きな目は滅多に全開しない。大抵、ちょっとボンヤリした表情。<人殺しの手>を見るのが怖いので、人混みに出るのを嫌う。人が写るテレビや映画も避けている。ゲーム、アニメ好き。


山本マユ(享年24歳):神流剥製工房を訪ねてくる綺麗な幽霊。生まれつき心臓に重い障害があった。聖を訪ねてくる途中、山で発作を起こして亡くなった。推理好き。事件が起こると現れ謎解きを手伝う。


シロ(紀州犬):聖が物心付いた頃から側に居た飼い犬。2代目か3代目か、生身の犬では無いのか、不明。


結月薫ユヅキ カオル:聖の幼なじみ。刑事。角張った輪郭に、イカツイ身体。


山田鈴子(ヤマダ スズコ50才前後):不動産会社の社長。顔もスタイルも良いが、派手な服と、喋り方は<大阪のおばちゃん> 人の死を予知できる。



夕方から降りはじめた雨が、

夜中に、凄まじくなり、

朝になっても降り止まない。


「あの人たち、可哀想だな。子ども達、どうしているかな」

神流聖は愛犬シロに呟いた。

昨日、街へいく途中、沢山のテントを見た。

吉野川のキャンプ場は夏休みが始まって、

賑わっていた。

スーパーも、バーベキューの食材を買い求める客で混雑していた。

 

雨は一日降り続き、

翌日の午後に、カラリと晴れた。

シロを、外に出してやる。

まっすぐに

河原へ降りて行った。

激しい雨の後で、水位は上がり、流れは速い。

真新しいレジ袋が

張り出した木の枝に、引っかかっている。

シロは、それの臭いを嗅いでいた。


「どうしたの? 肉の臭いが残ってるとか?」

遠目にも、駅の近くのスーパーマーケットの袋だと分かった。

「上に、他所の人が来ているのかな」

山田動物霊園に至る橋から、西へ300メートル程行くと、広い河原がある。

あそこなら、

キャンプも張れるし、バーベキューも出来る。

  ちゃんとしたキャンプ場では無いから

  設備が無い替わりに、お金は掛からない。

 

「シロ、昼飯は河原で肉焼こうか」

雨上がりで、風は清々しい。

思い立ち、炭やら網やらを河原に運んでいると

電話が掛かってきた。


山田動物霊園の固定電話からだ。


「神流さん、助けて下さい」

若い男の声。

霊園の従業員、矢野らしい。

「何か、ありました?」

聖は、警戒する。

山田鈴子では無く、矢野が電話を架けてきたのは初めてのことだ。

余程の問題が生じたのだと直感した。


「入らないんです。大きな犬です、解体して焼くしか無いんでしょうか」

と、声は半泣き。

大型犬が死後硬直で身体が固まり、

焼却炉に入りきらない、という事らしい。

普通に考えて

切断すれば良さそうだが、

矢野は、グロな作業に躊躇して、

グロな作業の専門家に救いを求めたのだろう。


「分かりました。間接外せば大丈夫ですよ。今からすぐ行きます」

車で往復時間を入れても

30分で終わりそうだった。

「シロ、付いて来なくていいから」

一人でロッキーに乗り

裏道から動物霊園の事務所に行った。


矢野は焼却炉の前に居た。

黒のスーツにグレーのネクタイ。

顎の細い、白い顔が、青ざめている。

男にしては華奢な肩が震えている。

聖は、

矢野をしっかり見るのは初めてだった。

自分より少し年下と知っているが、

もっと若く、見える。

丸い目と、目立つ前歯2本。

リスのような可愛い顔だと思う。



焼却炉の口から犬の足が

出ている。


「済みません。……何とかなりますか?」

「大丈夫ですよ。1回、出しますけど」

二人で焼却炉から犬を出して、土の上に置いた。

年取った雄のシェパードだった。

聖は前足と後ろ足の関節を外し

折り曲げて寸を縮めた。


「さ、さすがですね。……神業ですよ。てっきり切るしか無いのかと」

矢野は喜んだ。

そして、即、着火作業。


「本当に有り難うございます。神流さんにお願いしたことは社長に報告済みです。改めてお礼はさせて頂くと、社長が、そう言ってました」


「お礼を頂く程の事では無いですよ。かなり高齢で、癌があったみたい。……それは問題無いんだけど、……死因は、何と言っていました?」


胃腸は空では無い。

死ぬ直前まで、少しは食べることが出来たと思われた。

衰弱を経て死んだ様子では無い。

外傷は無かった。

半開きの口元から、薬品のような臭いがした。

毒で死んだ、と思う。


痛みに苦しむのが可哀想で飼い主が安楽死させたのかも知れない。

それならば、気付かなかった事にすればいい。

だが、

飼い主が、毒で死んだと知らなかったら問題だ。

犬は何処かで毒を口にした。

誰かが毒を盛ったのか?

散歩の途中、拾い食いした食べ物に毒が入っていたのか?

後者なら、他に被害が有るかも知れない。立派な犯罪だ。



「死因は聞いていません」

「そうなんだ。で、どこから来たの? 大阪?」

「近所です。……多分。リヤカーに乗せて持ってきたから」

「リヤカー?」

「一番高い墓石を注文されて、現金で支払って……あ、事務所に申込書が有ります」


ラッシー

雄 15才

奈良県○○市大字深谷

徳田文治

生年月日 昭和15年10月10日


申込書に書かれたデータはこれだけ。

電話番号は書かれていない。


「深谷。ここと一緒。ご近所です」

大字深谷は川の北側一帯。

聖の知る限り

建物は二つだけ。

神流剥製工房と

山田動物霊園事務所。


「リヤカーで運べる距離……近くって事ですね」


雨上がりの地面には、リヤカーのタイヤの跡が残っていた。

事務所の正面から、西の方向へ、木立の間に続いている。


「気になるんで、家を捜してみます。山で毒を食べたのなら、うちの犬も心配だから」

「そうですか。一緒に行きましょうか?」

矢野は気遣って言う。

「いいですよ。1人で大丈夫です。事務所空けないで下さい。(焼却炉、見とかないと)」

 

薄暗い木立の中を少し行くと

「ワンワン」

聞き慣れたシロの鳴き声。

川の方から聞こえる。


言い聞かせたのに、追ってきた?

「シロ」

呼ぶ。

すぐに駆けてくると思う。

ところが来ない。

「クワン、クワン」

甲高く、鳴く。

尋常の鳴き方では無い。

 

「何かあった?」

 河原へ向かう。

 木々の間を獣のように

 走り降りて。

 

「う、」

 20メートルほど先に、河原が見えた。

 瞬間、聖は、息が止まった。

 

カーキ色のテントは、半分川に浸かって今にも崩れ落ちそう。

 側でシロが吠えている。


 それらが視界に入ったのは、暫く後だ。

 

 最初に目に入ったのは、カラスの群れ。

静かに、数カ所に群がっている。

下には死体があった。

 

 一人……二人…三人まで目で追う。

 そこで、一度視線を反らした。

深呼吸する。

冷静な思考可能か自問自答。

女の人が2人、子どもが1人……。

 女の人2人の間に、人のカタチで無い、赤い、肉の塊が……。

カラスの力では、

とてもあんな風には解体できない。

バラバラ死体、なのか?

ゆっくりと、近づく。

カラスは、ちょっと聖を見たけど

逃げはしない。

一番大きなカラスが短くカアと鳴く。

(なんだ、お前か)

とでも言ったように。

 

 バラバラ死体は男のようだった。

頭が一つ見える。

足が三本、……見えている。 


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