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お雇い令嬢は恋多き王太子との婚約を望む  作者: 畑中希月
第五章 二人で歩む道のり

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最終話 新しい命

 二人目を授かったことをロスヴィータが告げた時、シュツェルツは灰色がかった青い瞳を目いっぱい見張った。


「──本当……なのかい?」


 ロスヴィータは、はにかみながら、まだ膨らんでいないお腹に触れる。


「はい。今、大体二か月くらいだと、ロゼッテ博士が」


 アウリールは相変わらずシュツェルツの侍医をする傍ら、秘書長官という要職も務めている。医師としても心から信頼できるので、何か身体に不調が起きた時は、ロスヴィータもお世話になりっぱなしだ。

 シュツェルツが感慨深げに言う。


「そうかあ……ディーケを授かった時も思ったけど、不思議だよね」


「え?」


「だってそうだろう? その子を授かったのは、わたしたちが望んだ結果だけど、赤ん坊の命は突然現れるように宿るんだから。つい昨日までは、一組の男と女しかいなかったのにね。それって、奇跡みたいなものだろう? そうして生まれ出た生命が成長していくんだから、本当に不思議なことだと思うよ」


「考えてみれば、さようでございますね」


「会える日が今から楽しみだよ」


 シュツェルツはお腹の子に語りかけるように話しつつ、愛しげにロスヴィータの腹部を眺めた。

 ほほえましくて、そしてとても幸福で、ロスヴィータは目を細める。


「ふたりめって、なあに?」


 居間の長椅子に座り、テーブルで絵を描いていた今年で四歳になる長女のディーケが、可愛らしくちょこんと小首を傾げる。


 両親譲りの黒髪と、深い色合いの碧眼を持つディーケは、誰もが相好を崩さずにはいられない、愛らしい子だ。ロスヴィータにもシュツェルツにも似ていると言われるが、アウリールなどは我が子以上にディーケのことを可愛がってくれる。

 左隣に座っていたロスヴィータは、娘の小さな頭を撫でた。


「ディーケはお姉さまになるのよ」


「ほんとう!? いつ?」


「十月頃には生まれるわ。あっという間よ」


「ディーケ、はやくおねえさまになりたい!」


 従兄弟たちと遊ぶことの多いディーケは、常日頃から兄弟に憧れていた。喜びのあまり、うずうずしているディーケの頭に、右隣に腰かけるシュツェルツがぽんと手を置く。


「よかったね、ディーケ。弟にしろ妹にしろ、下の子を大切にしてあげなさい」


「おとうさま、どっちがうまれるの?」


「それは、分からないな。どちらにせよ、可愛い我が子だ。ね?」


 シュツェルツが優しい眼差しを送ってくる。

 マレの議会では、先頃、女王の即位及び、身分を問わず女性の相続権を認める法案が可決された。国王に即位する前から、シュツェルツが力を入れていた法案が、ようやく日の目を見たのだ。


 生まれてくる子が王女である場合、次の王位を継ぐのはディーケということになる。

 この国で最初の女王だから、ディーケは辛い思いをすることもあるかもしれない。でも、自分とシュツェルツの子であるディーケなら、必ずどんな困難も乗り越えていける──そうロスヴィータは信じている。


 結婚後、十三歳の誕生日に告げられた占いの結果について話した時、シュツェルツはほほえんでこう言った。


 ──わたしは王子を産んで欲しくて、君と結婚したわけではないよ。


 本当に、その通りだった。シュツェルツには傷つけられることもあったけれど、彼はいつでも、深く自分を愛してくれている。


 シュツェルツは、ロスヴィータとディーケを同時に抱き締めた。


「君たちがいてくれて、わたしは今が一番幸せだよ。……ありがとう」


「それはわたくしの台詞でございます」


 シュツェルツと結婚して約五年。今ならはっきりと思える。


 このお方と結婚してよかった、と。


 この先、どんな苦労が待ち受けていようとも、シュツェルツと一緒なら、恐れることはない。

 ロスヴィータはシュツェルツの温もりを感じながら、彼の背に手を回し、ディーケごと抱き締め返した。


「……おとうさま、おかあさま、くるしい」


 ディーケの言葉に、ロスヴィータとシュツェルツは腕の力を緩めながら、顔を見合わせて笑った。



『お雇い令嬢は恋多き王太子との婚約を望む』──完

ブックマークや評価、ありがとうございます。

本編はこれで終了ですが、このあとに番外編を一話投稿して、連載を終えたいと思います。

よろしければ、お付き合いいただけると幸いです。

本編ではあまり描かれなかった、ロスヴィータとシュツェルツの出会いのお話です。

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