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恋する騎士  作者: 桜ありま
第一章 メテルの収穫祭で
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02




「うわぁ、やっぱり人が多いね!」



 馬車が入る通路までは、フレデリカの家の馬車で送ってきてもらったけれど。コランド城へ一直線に続く赤茶けたレンガで敷き詰められた大通りは、いつもの倍以上の人で溢れかえっていた。

 馬車も通行禁止にされ、普段は歩道になっている場所に様々な露天が開かれている。それを見るための人だかりで道が塞がれて、ますます混雑しているように見えた。


 豊穣の女神メテルをたたえる祭りだけあってなのだろうか、食べ物関係の屋台が多く、香辛料のいい香りがする。

 街中に溢れる国旗と、女神メテルのシンボルカラー、オレンジ色の様々なオーナメントが、町をお祭り一色に染め上げていた。

 あまり人のいない田舎の村カヒューから出てきたリーヴィにとっては、普段の通りの人の多さでも目を見張っていたが、今日のこれは圧倒されるほどの人、人、人。ぶつからないように歩くだけで精一杯だった。反対にフレデリカは慣れたように人ごみをすいすいと掻き分けていく。



 もうちょっと……歩く練習でもしないとかも。



 一通り程、屋台をフレデリカと見ていたのだが、なれないドレス姿とヒールの靴に、既におぼつかない足取りになっていた。

 周りで異変が起きていないか気を配っていたフレデリカが、心配そうな目で尋ねる。


「どうする? 他になにか見たいものでもあるだろうか?」

「えーっとね、メテル様の神輿は絶対っ……見たいかな」


 違う国の服装だろうか?

 見慣れない服装に気を取られて、人にぶつかりそうになる。

 瞬間にフレデリカに腕を引っ張られ事なきを得た。


「ご、ごめん」


 やっぱり騎士服の方がよかったかも。

 フレデリカに迷惑かけちゃう。


 リーヴィは初めこそドレス姿に浮かれていたが。この人混みの中では人を避けるのも一苦労な上、スカートが足に絡まりさらに歩く事さえも困難になる。やっぱり動きにくいので、時間が経つにつれ騎士団服に着替えたいという気がしてきた。

 それに、回っている屋台の客引きから「恋人同士?」という問いかけをよくされた。

 それを二人で否定するのも一苦労だ。


「メテル様の神輿が始まるまでにはもう少し時間がある、どこかで座ろうか?」

「うん、あ、じゃあ。あのジュースの店で、カラムのジュース買おうよ」

「ああ」


 カラムとはオレンジよりももっと赤に近い色をした果物。

 皮はジャムや、 お酒に漬けて風味を移したり、果汁は酸味があって栄養満点で、冷やすと疲れが取れる効能があると言う。

 豊穣の女神メテルは、豊かな実りの象徴としてこの実を持ち、葉で作った冠をかぶっている姿で、絵や銅像で表現されていた。


 目指すジュースの露天は、カラム色の垂れ幕がついていて直ぐに分かる。

 そこまで目指すうちに、見たこともない小物屋さんがあって、リーヴィはつい目を向けてしまった。



 ……あれ?



 フレデリカの姿が消えた。

 今まで少し斜め前を歩いていた筈なのに……。


 リーヴィは、思い切り背伸びして、カラムジュースを売っている屋台の方を見てみた。

 平均女性より少し背が高い追加でヒールの高さ……といえども、やっぱり人ごみにまぎれると自分の背が小さくかんじる。屋台の方には、フレデリカの目立つ銀髪は見つからなかった。でも、ただ見えないだけなのかもしれない。

 やっとの思いで、人ごみを掻き分け屋台の前に来てみても、やっぱりフレデリカの姿はなかった。



 どうしよう、はぐれた?



 凄い人ごみとはいえど、目的地は同じだったはずなのに。

 リーヴィは屋台の周りをぐるぐると回ってみる事にしたけれど、いっこうにフレデリカの姿は現れない。


 もしかして、さっき話していた場所に探しにもどったのだろうか?


 リーヴィは元来た道を遡ろうとして、また人の流れに戻る。

 しかし、元来た場所をたどる道だと思っていたのとは反対の道に向かっている事に、かなり進んでしまった後に見たことのない景色になったことで気がついた。

 またこの流れに逆らって、戻るのは大変だ。

 リーヴィは、脱力する。

 その途端に、足が靴擦れで痛くなっている事にも気がつく。


 やっぱり、あの屋台の前で待っているんだった。


 冷静に考えれば迷子になることなんて、子供じゃないのだからあまりたいした事はない。

 探して居ればいつかは見つかるのだ。


 しかし、リーヴィにとってはこの場所はなれない場所。

 周りの活気のある人々を見ると、一人取り残されたようで心細くなっていた。

 人の流れに逆らって立ち止まっている事に疲れたリーヴィは、少し休もうと思って人の少ない小さい路地の店先にもたれ掛かる。

 お店は祭りのためか「休業中」の札が掛かってあった。


 どうしよう、また歩き回ると行き違う可能性が……。

 でもこんな所にいるなんて、フレデリカも思わないだろうし。


 やっぱり、なれないことなんてするんじゃなかったのかもしれない。


 足の痛さが少し引いたら、やっぱりさっきの屋台の場所に行ってみようと思ったリーヴィは、ため息をつきながら下を向く。



「どうかされましたか?」


 すると自分の頭上から話しかけられて、リーヴィは顔を上げた。

 言葉は丁寧だが少し鋭い声音。

 声の主の姿が目に映った瞬間、固まる。


 人混みの熱気で高揚していたはずのリーヴィは、とたんに温度が下がったような気がした。



 ……そこに立っていたのは、背の高い男だった。



 薄く緑がかった白金(プラチナ)(ブロンド)に、冷たく透き通った泉のような翡翠の瞳。

 その色彩に一瞬浮かんだのは、白銀の雪。

 整いすぎた涼しげな顔立ちは、無表情。だがどこか不機嫌そうで厳しく、まるで命の終わりを冷酷に告げる、冬の精霊ベティスカのように、人という存在を超えた怖い印象を相手に与える。

 そんな彼を人間だと証明するのは、灰色のマントの隙間から覗くリーヴィも見慣れた騎士団服。しかし男が着ているのは、緑ではなく、白を基調としたひじりの騎士の団服。それに襟と袖口に、位を表す刺繍は銀糸……副団長だ。


 しかしリーヴィは、それだけで固まったのではない。

 その人物を知っていたからだ。




 サ、サルキオス様!?





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