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恋する騎士  作者: 桜ありま
第三章 二度ある事は、三度目の
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15-Ⅱ

 


「何故、下がるのです?」


 まるで海老が後退するかのようなおかしなリーヴィの姿に、サルキオス様は不可解に思ったのだろう。詰問するような鋭い声音に変わった。

 距離があっても鋭い声ははっきりと聞こえてくる。

 リーヴィは段々と顔がほてった。


 ――忘れてた!!


 今のリーヴィの姿は……というと、肥料作り用の作業着だ。

 勢いでこのまま色々と謝ってしまおうかと思ったけれど。どう考えても、「あの事」を謝罪する恰好じゃないし、そこはかとなく臭うと思う。

 今のリーヴィの状態は、謝罪するには失礼にあたりそうな姿だった。


「すみません。私は今、近づいたら……!」


 恥ずかしさの所為か、リーヴィは声が消え入りそうになる。

 立っているだけでも凛と騎士服を着こなしている相手に、こんな作業着姿をあまり見られたくないと思ってしまうのは仕方のない事だった。対する相手はやっと、リーヴィの複雑な状況と心境に思い当たったらしい。


「私だって、新人の頃はそのような作業をしていましたよ」


 ええっ? 新人の義務にはちがいないけど。

 ――作業着姿の……そ、想像が出来ない。


「え、サルキオス副団長がですか!?」

「ええ、新人の通常隊務ですから。今日はご苦労ですね」

「い、いえ」


 当たり前の事だから気にするな、と言いたいのだろう。

 何のてらいもなく返事をされると、リーヴィはサルキオス様は黙々と作業していたのだろうなと腑に落ちる。

 真面目な人だから、確実に手を抜かずに彼はやる。祭りの時、パナスに髪の毛を引っ張られても表情を変えなかったように淡々と。腑に落ちたが想像するとやっぱり異様な光景に、ちょっと和んだ。


 けれど、今近づかれる事とは別問題だった。


 じりじりと距離を取るリーヴィに後ろに迫った植え込みが押しとどめる。やっとサルキオス様は空気を読んだらしく、近づいて会話する事をあきらめたらしい。ブーツのたてる硬質な足音が止まった。


「あ、あの。手のお怪我は大丈夫だったでしょうか?」


 「あの事」は今の状況で言い出せなくなってしまったが、「緑の騎士リーヴィ=ベルツ」として前回の失敗を謝ることにしたリーヴィ。


「ええ、あの節は有難うございました」

「いいえ、お礼とお詫びを言うのはこちらの方ですっ……!!」

 まさかお礼を、言われると思ってはなかったリーヴィはあわてた。

「貴女の方は大丈夫でしたか?」

「はい、お陰さまでなんとか」

 そう言いながら思い出して、サルキオス様が庇ってくれた額がかっとなる。

「……あの塗布薬は効きました。団の緑師に聞きましたが、貴女の指示した調合なのですね。どちらの調合でしょうか?」

「私の母は緑師で、その調合を見よう見まねで、ですね」

「緑師も褒めていました」

「ありがとうございますっ!」

「……全く。貴女も災難でしたね。勘違いしたとはいえ申し訳ありません」

「いえ、まさか私もヨネス団長がサルキオス様の真似をしてたなんて思わなくて! 執務室に入ってしまい」

「あの人は……。そんな事までしてたんですか?」


「あ……」


 言ってはいけなかった事だったのだろうかと、リーヴィはその素直さから、ヨネス団長に不利な証言をしてしまったと内心ひやひやしたのに。


「……今の会話は聞かなかったことにしておきます」


 困ったリーヴィの様子が分かったのか、きっぱりと言い切ったサルキオス様の口調と間に不意におかしさがこみあげて、つい噴出してしまった。そして、そんな態度も自然と受け止められている。


 ――あれ、普通に話せ……てる?


 リーヴィはあの祭りの時のように、何の隔たりもなく話せていることに気が付いた。心なしか、楽しげに聞こえる……ような気もする。顔も見ずに声だけ聴いているので、ことさら微妙なニュアンスが感じ取れた。

 今は謝罪するタイミングではないと思ったが、この私的な雰囲気漂う中だったら、リーヴィは「あの話」を切り出せるかもしれないと思ってしまう。

 こんな恰好でもサルキオス様は気にしないと言っているし。

 ――そう、今なら言えそうな気がすると声を掛けようとした瞬時。呆れたような、諦めたような声が聞こえた。


「さすがに、顔をあげて話しませんか?」

「す、すみまっ……!」

「もう、謝罪は結構です。それに、貴女の顔を見てみたい」

「へ?」


 ――私の……顔?

 サルキオスの思いがけない言葉に、ギクリとした瞬間。



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