"クラップス"
『ーーここで臨時ニュースです!!
本日、ガラタ帝国成立を祝う"オモチャ記念日"に、この国の帝王、ガラーグ皇帝から重大な発表があります!!』
僕はテレビに目を向けた。
歓声の中、1人の男が登場した。
この帝国を治めている皇帝キビル・ガラーグ。
帝国と言うほどあって、ガラタ帝国はかなり栄えている。技術も発達しているし、都も美しい。かなり裕福な帝国だ。
…でも僕らが住んでいるのは、その帝国のはずれの小さな村。何年か前、皇帝が領土を広げるために、帝国の周りの村々はガラタ帝国に支配されるようになったらしい。
『やぁ、諸君。』
偉そうに皇帝が口を開く。
『ガラタ帝国のエリート達よ!!』
このガラタ帝国には、条件を満たした人間だけが暮らせるという、少し特別なルールがある。
と、いうのも、僕たちは生まれて来るときに、1人ひとつオモチャを持って生まれる。一緒に生まれてきたそのオモチャを捨てることが出来た人間だけが、帝国での生活を許され、"エリート"と呼ばれる。
僕みたいに、生まれてから10年が経ってもそのオモチャを捨てられない人間は"クラップス"と、呼ばれ、帝国に入ることすらも許されない。
それどころか、村から出ることも出来ない。
『今日はこの国が成立した祝福に満ち溢れる日!この私、ガラーグと、四賢人の力で、この国は常に進化し続けてきた!!』
僕もあまり知らないけど、四賢人ってのは、エリートの中でさらに選ばれた人達のことを言うみたいで、特化した才能をそれぞれに持っているらしい。
凄いよなぁ。羨ましいよ。
『そこでだ!四賢人に相応しい新たなる才能を持つものを見つけるべく、この私の城でエリート試験を行う!もちろん、誰でも受験可能だ。』
エリート試験かぁ。僕も帝国に入れれば。
落ち込んだ次の瞬間、驚愕する一言が僕の耳に飛び込んできた。
『そして更に、今日から三日間の間のみ、いつまでも条件を満たすことのできない"クラップス"たちの、入国を許可する!!君達にも可能性はある!』
「えぇー!?」
恐らく僕以外にも、この中継を見ていた人が居たんだろう。あちらこちらでそんな声が聞こえた。
もちろん僕も口にしてしまった。
とにかく、こんな許しが出るなんてじっとして居られるはずもない!
早く準備をして入国しよう。
ピンポーン!ピンポンピンポンピンポン…
このうるさいチャイムは…
「ライト〜!!今のニュース見た!?」
幼馴染の女の子、サナエ。僕はナエと呼んでいる。
彼女も僕と同じ、オモチャを捨てられない"クラップス"だ。
「見たも何も、テレビつけてたら急に臨時ニュースが入ったんだもん。びっくりしちゃったよ。けど、凄いよな!三日間の間なら俺たちも入国できるんだってさ!」
「もし四賢人に選ばれたら、美味しいものもいっぱい食べられる豪華な暮らしが待ってるんだよ!」
「ははっ、ナエは昔から変わらないなぁ」
「えへへ!…ねえね、一緒に帝国行こうよ!」
「あぁ、もちろん!」
僕は二つ返事で了承した。
「やったぁ!決まりねっ。」
満面の笑みで僕の腕を掴む。可愛いなぁ。
けど、僕の好意に気づいてくれないのも昔から変わらないや。
「でもさ、僕たちのこの村からどうやって帝国へ行けばいいかなんて、一度も行ったことないから分からないよ…」
「ライトは馬鹿だなぁ!」
「へっ?」
「あたしたちの村にさ、大きな招き猫があるでしょう?」
「あぁ、あのガラタ帝国の領土になった時に置かれたオブジェみたいなやつ?」
「そう!んで、その右腕がレバーになっててね、それを引くと招き猫自体がエレベーターみたいになって、村の出口、帝国の東門に辿り着くようになってるの!」
「…指示語ばっかりで分かりにくいけど、要は招き猫に入れば東門までひとっ飛びってことか。」
「飛ぶかどうかは知らないけどね!普段は監視している人がいるから入れないけど、今日は入れるはず!」
僕たち2人は子供のようにはしゃぎながら村の招き猫のオブジェまで走った。
誰しもが憧れて帝国に行きたがって人だかりができているかと思ったら、帝国への恐怖や、現状への満足から、村から出ない人が多いらしく僕たちの他には誰も居なかった。
「これがレバーになってるのかな…?」
「ちょ、ちょっと待って!本当にあってるのかな?僕たち以外に人はいないし、そもそもこんな招き猫が…」
「よいしょぉ!!」
ガチャッ。
「人の話を聞けよ!」
招き猫のお腹がドアのように開き、その中には、恐らくここに人が乗るであろうスペースもあった。
「ほら、大正解!」
「…本当だ。」
僕はナエに手を引かれ、そいつに乗りこんだ。
招き猫だったはずのそれはガタガタと音を立て、何処かへ向かっている様子だった。
扉が閉まっているため、中からは外の様子は伺えず、飛んでいるのか、潜っているのか、はたまたワープしているのか、状況は分からなかった。
「わくわくするねぇ!」
「そうだな!けど、そう期待通りに行くかなぁ。」
「行ってみないと分からないでしょ!」
ありきたりな会話の途中で、さっきのガタガタ音が止んだ。
「着いた…のかな?」
「…どうなんだろう?」
僕たちが数秒戸惑っていると、扉が開き、目の前には視界いっぱいの立派な門があった。
「うっわぁぁ、でっかい門!!」
「この門1つで何日分ご飯が食べられるんだろう…」
「そればっかりかよ!…っていうか、この門、閉まってない?」
「あれ…本当だ…」
そう言うとナエは、強引に門を開こうとした。
同時に知らない怒鳴り声が聞こえた。
「ちょーーーっと待ったぁぁ!!!」