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9 アレスとの話し合い

 部屋に入ってきたアレスに椅子を勧め、俺も椅子に座って机に頬杖をつく。

 さて、何から話そうか。とりあえず面倒を見てくれることへのお礼からかな?


 そう思って口を開こうとするのだが、アレスの方が俺より少し早く口を開いたので口を閉じる。


「部屋は気に入ってくれたかな? 父さんも言ってたけど、足りないものがあれば用意するから気軽に言ってほしい。ああ、あとこれも父さんからの伝言なんだけど、『遠慮は要らない、ここを自宅だと思ってくつろいでくれたまえ』だって」


「あ、うん、えっと……ありがとう。住まわさせてもらうだけでありがたいのに、こんな豪華な部屋で驚いたよ。本当に、いいのか?」


「うん。僕もティアには気楽に過ごしてもらえたらと思ってるし。それで、何か欲しいものとかはないのかな?」


「うーん。なら、本とか暇を潰せるものが欲しいかな? 冒険譚とかそんな感じの気軽なやつ。あ、あと、多分俺って読み書きができないだろうから、できればアレスに教えてもらいたいんだけど……ダメかな?」


 ここでいきなりお願いをするというのは気が引けるが、やはり暇つぶしの道具が欲しいので素直に頼むことにする。あとついでに読み書きの練習も。


 しかし、やっぱいきなり要求するのは図々しすぎたかなと不安に思い、アレスの顔色を伺う。


「ああ! そういえばそうだったね。未来では普通に読んだり書いたりしてたからつい勘違いしてたよ。わかった、責任をもって教えるよ。本に関しても大丈夫。後で持ってきてもらうから。それで、食事やお風呂に関しての事なんだけど……」


 笑顔であっさりと了承してくれるアレスにほっと一息。

 それにしても食事の問題もあったか。この体は飲食不要、というかしたくてもできないのだが、だからといって飲まず食わずでは使用人に不審がられてしまうしな。


「とりあえず、ティアはかなりの小食だって事にしておいた。家にいるときは、ティアの分は僕と父さんで分けて食べるから。食事中は人払いしておけばいいしね。お風呂は夕食後で、準備ができたらメイドが教えてくれるから」


「悪いね、助かる。……なんか助けてもらってばかりでアレだしさ、手伝えることとかないかな? あいにく、魔物の討伐とか、そういう戦闘系ぐらいしか手伝えないけど」


「別に気にしなくてもいいんだけどなあ……まあいいや。それなら丁度いい依頼があるよ。ウェルデ村って村の近くにトロールの集団が住み着いてね、なんとかしてくれって依頼が来てるんだ」


 トロールねえ。俺の知っているトロールと同じなら、物理特化で得物は棍棒と、実は俺と相性が悪い相手だったりするんだよな。

 まあ、あくまでそういうタイプの敵とは相性が悪いですよってだけで、実際には基礎スペックの差が凄いから圧勝なんだけどさ。


 ちなみにどうでもいいことだが、魔物を絶滅させるのは不可能だとか言われてたりする。


 いや、理論上はできるのだがコストがかかりすぎて現実的じゃないと言うべきか。


 既存の生物が魔力を取り込みすぎて変質して魔物になったものもいれば、純粋に突然変異で生まれたものもいるし、そいつらが交配したり捕食しあったりした結果、さらに変なものが生まれたりと種類が多いからなあ。


 ガルムですら根絶は諦めて「もう俺らのテリトリーに入ってきたやつだけ殺せばいいよね」という結論に至ったぐらいだし。


 まあ、なんにせよとりあえずタダ飯食らいは回避できそうだな! それにしても食事不要なのにタダ飯食らいとはこれいかに。


 できそうな仕事を前にテンションを上げる俺を見てアレスが苦笑する。


「ティアには、騎士学校に入る前に適当な実績を上げてもらおうと思ってたから、そっちの意味でも丁度よくてね。出発は明後日ぐらいかな?」


 あー、そういえば学校行くって約束したなあ。騎士学校って言うぐらいだし剣の鍛錬とか礼儀作法の勉強とかするのかね?


 ……うわあ、面倒くさそうだ。というか手加減とかもしなきゃいけないだろうしマジ面倒くさそう。付き人とか使用人とかそっち系枠でついてきたかった。


「ちなみに騎士学校だけど、ティアはグランヴィル家がスカウトした凄腕の傭兵で、騎士としての礼儀作法を身につける為に入学するって筋書きさ。向こうでは僕がサポートするけど、できれば学生を演じてくれたら嬉しいなあって。……頼めるかな?」


 頬を掻き、アハハと苦笑しながらそう言うアレス。

 まあ、潜入任務みたいなもんだろ? 上手く演技するさ。やったことないけど多分なんとかなるだろ。


 頷く俺を見てアレスはほっと一息つく。


「学校は今は長期休暇中で、休みの残りはあと三週間ちょっと。だから、それまでは適当に討伐に出て実績を上げてもらうことになると思うよ。実績があったほうが凄腕の傭兵って設定に説得力が増すし、それがなくても実力重視の学校だから実績を上げておけばいろいろと便利だしね」


「なるほどね。ところで、悪魔の襲来ってのはいつ頃になるかわかる?」


「悪魔の襲来は今から一年半後ぐらい。一応、学校は四年制だけど、悪魔さえ討伐しちゃえば目標達成だからね。領民が不安がってて戦力が欲しいーとか適当に理由をつけて呼び戻してもいいし、ティアが学校を気に入って残りたいって言うのなら残ってもいいし。ちなみに、僕は二年生でちゃんと卒業する予定だよ」


 一年半かあ。一年半も妹たちを探しにいけないのはかなり痛い。痛いが、ハインツさんの協力を得る為だ、仕方ないか。


 ハインツさんの協力を得られれば俺一人で探すのよりもよっぽど効率的なはず。だからこれは家族をほったらかして遊んでいるわけじゃないのだ。


 そう内心で妹たちに言い訳する俺であった。え? 卒業? するわけないじゃん。






「ちょっと話戻すけどさ、今のトロールってどんな感じ? 俺の時代だと典型的な脳筋だったけど。巨体で力はあるけど頭が弱いって感じな」


 まさかの超進化を経てスマートで魔法を使いこなすインテリ種族になってたりしたら爆笑ものなんだが。


「そうだねえ、ティアの時代と一緒だと思うよ。緑色の肌に巨体で力持ち、武器として主に棍棒を使う。まあ、それでも一応は中級冒険者や騎士団が出向く必要がある程度には強敵さ」


 ああ、そういやいるんだっけ冒険者。いざとなったらそっちになって妹たちを探すって手もあるか。

 まあ、アレスたちに見捨てられたらの最後の手段だけど。そうならないよう頑張りたいものだ。


「明後日出発だよね、何人でいくの? 集合場所とかあるの?」


「僕とティア、あと護衛に三人ほどかな。僕とティアだけでも余裕なんだけど、それだと領主の威厳というか、そういうのがあってね。場所は僕が案内するよ」


 まあ、確かに一人で討伐に出向くとかなんか見た目が寂しいしな。アレスってなんか優しげな雰囲気というか、威圧感振り撒くタイプじゃないしなおさら。


 そういえば、アレスが剣を振るうとこはまだ見てないな。まあ、未来で俺と相打ちになったって事だし、相当強いんだろうけど。


 実際にはどのくらい強いんだろう? なんとなくだが、ハインツさんより強い気はするけど。


 ふむ、気になったら聞いてみるのが一番か。


「ねえねえ、アレスってどのくらいの強さ? 結構強そうな感じはするけどさ」


「自分で言うのは恥ずかしいけど、一応、同年代ではかなり上のほうだとは思うよ。まあ、これでも未来では鍛えてたし、その記憶とかがあるわけだからね。……ちょっとズルしてるみたいで、あまり威張れることじゃないけど」


 控えめなアレスが自分でかなり上のほうって言うことは、実際には相当上のほうに違いない。

 それにしても生真面目君だなコイツは。自分の記憶なわけだしズルもなにもないと思うんだが。


 だけどまあ、元日本人として言わせてもらうのならば、その謙虚な態度は実にすばらしいと思う。


 個人的には見ていてて気持ちよくなるイケイケ勇者タイプの方が好きだが、こういう礼儀正しい謙虚なタイプも悪くないな、うんうん。


 一人で勝手に頷いている俺を見て、アレスが不思議がっていたので咳払いして誤魔化す。


「ハインツさんが使ってたやつあるじゃん、青いオーラ纏うやつ。あれってアレスも使えるの?」


「まあ、一応、使えることは使えるけど……あれっていわゆるうちの奥義だからさ、まだ未熟ってことになってる今の僕が人前で使うとまずいことになるんだよね。ただの身体強化なら問題ないんだけど」


 なるほど、あの魔法はアレスの一族しか使えないのか。ならいざという時にも困らなさそうだな。ちょっと安心。


「ちなみに、あれは使用者によって纏うオーラの色が替わってね。僕が使った場合は赤色だよ」


「へー、そうなの。じゃあさ、ハインツさんとアレスってどっちが強い? やっぱアレス? 何しろ未来でこの俺と相打ちになったとか言ってたんだし!」


「え? いやまあ普通に父さんだけど? だってほら、今の僕は過去に戻ったせいで一から鍛え直しなわけだし。あと、父さんも僕の話を聞いてから鍛錬を再開したから……流石にしばらくの間は追いつけないかなあ」


 アレスがたははと笑いながら頭を掻く。

 ふーん、今はハインツさんのほうが強いのか。理由もまあそれっぽくて納得できるものではある。


 ……でもなんか嘘くさいんだよなあ。雰囲気的に余裕があるというかなんというか、まだ力を隠してる気がするんだよな。


 そんな俺の疑惑の目に気づいたか、アレスが追加で説明をしてくれた。


「いや、本当だよ? 確かに未来で得た知識はそのままだから、僕なりに改良した強化魔法を使えば父さんを超えることもできるけど……あいにくと体の方が持たないんだよね」


 やっぱ超えられるじゃないか。余裕の態度はそこからか。じゃあアレスは実質この国の最上位クラスか、やるじゃん。


 俺も鼻が高いぜ。いや、別に何もしてないけどさ。


 その後も俺とアレスの会話は続く。「母親の姿が見えないけどどこ?」と聞いて「僕が子供のころに病気で死んだんだ」と返ってきたときにはガチで焦ったが、なんとかそれ以外は地雷を踏まずに済んだ。

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