表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/40

8 閑話-その頃のアレス

 ティアとハインツの模擬戦がティアの勝利に終わり、解散となった後。ティアが採寸を行っている間、自室に戻り着替えを済ませたアレスはベッドに腰掛けて今日一日の出来事を振り返っていた。


 ティアを封印から解き放ち、説得して手元に引き込み、信用も得ることができた。結果だけ見れば上出来だ。文句のつけようがない。


 ただ、ティアを説得する際に嘘をついてしまったのが心残りといえば心残りか。


 まず、自分はティアに「エルフは滅んだ」と教えたが、あれは嘘だ。ほんの僅かではあるが、エルフの生き残りは存在する。


 運良くガルム帝国の魔の手から逃れることのできた少数のエルフたちは、地下に隠れ里を作ることで誰にも知られることなく今日までひっそりと生きてきた。

 ガルム帝国が滅んだ後も、人間の恐ろしさを嫌というほど思い知った彼らは決して表に出てこなかった。


 いつまた第二のガルム帝国が現れるか知れたものではないし、戦争で全てを失った彼らは人間や争いに対して激しい忌避感を抱くようになっていたからだ。


 ならどうして自分が表舞台に出てこない彼らを知っているかというと、これもまた未来で出会ったからだ。


 妹を失った事で暴走したティアに襲われ、瀕死の重傷を負った自分。そんな自分の前に現れたのが、彼らエルフだった。


 彼らは自分を救ってくれたばかりか、ティアとの戦いに挑む自分を最大限にサポートしてくれた。

 一族に伝わる伝説の武具、精霊の加護、エリクサーなどの非常に貴重なアイテムなどを与えてくれたばかりか、彼ら自身も戦場に立って戦ってくれた。


 理不尽なまでの性能を誇るティアと戦えたのは彼らの協力があってこそだった。


 特に、ティア対策にと開発された特殊な魔導砲がなければ、自分達はティアと戦うという事すら出来なかったであろう。何しろ、自らに改造を施した後の彼女は超高速で空を飛ぶことが出来たのだから。


 ただ空を飛ぶだけならば魔法で地面に叩き落せばいいのだが、ティアにはあらゆる魔力を問答無用で消滅させる領域を展開できるという、非常に理不尽な機能が備わっている。

 しかし、あくまでこの領域は“魔力を消し去る”だけであり、魔力を利用して引き起こされた物理現象までは消し去れないのだ。


 彼らの用意した魔導砲は、アダマンタイトという非常に硬度の高い魔法金属で作られた弾丸を魔力で極限まで加速して射出するというもの。


 これならば、ティアの展開する魔力を消去する領域を突破して彼女に大ダメージを与えられる。

 この魔導砲のおかげで、空を自由に飛びまわる彼女を地上へと叩き落せたのだ。


 何故、争いを嫌う彼らが人間である自分にそこまで協力してくれたかというと、これはやはりティアの存在だろう。


 かつて自分達の全てを奪った張本人が人類滅ぼすべしと大暴れしているという状況は、全てを奪われた彼らだからこそ無視できないものだったらしい。


「出来れば今回でも仲良くしたいんだけど、まあ無理だよね」


 未来で協力してくれたとはいえ、それはティアという怨敵を前にしていたからだ。平和な今、自分がのこのこと「仲良くしましょう!」と近づいたところで拒絶されて終わりだろう。


 まあ、彼らは外界に微塵も興味を抱いてないので、放っておかれるのが一番嬉しいのだろうが。


 これがティアについてしまった一つ目の嘘だ。でもこの嘘は別にいいだろう。


 教えたらティアは嬉々としてエルフを滅ぼしに行くだろうから、教えなくて当然だ。

 実際、質問された際にもし生き残りがいたらどうするのかと聞いてみたら「勿論滅ぼす」と笑顔で言われてしまったし。


 問題はもうひとつの嘘のほうだ。


 自分はティアに「仲間がティアの妹と出会い、相打ちになった」と伝えたが、事実は異なる。

 何故なら、ティアの妹を。フェルニゲシュを殺したのは……自分なのだから。


「でも本当のことを言ったら間違いなく殺されるしなあ……」


 妹を溺愛しているティアに、出会ったばかりで好感度がゼロの自分がそんなことを言えば確実に死んでしまう。言いたくても言えなかったのだ。


 それに、あれは罠にはめられただけであり、自分にティアの妹を殺すつもりなど全くなかったのだから。






 クーデターを起こして新生ルドラ王国の支配者となった元第二王子のカークス。


 カークスは、ティアが妹ばかりに執着して自分に心を開いてくれないことに業を煮やしていた。それだけならまだ耐えられたのだろうが、カークスを差し置いて、本来なら敵であるはずのアレスがティアと絆を深めたことでカークスの怒りは爆発した。


 カークスはティアの妹への執着とアレスへの情を同時に断ち切ろうと、彼女の妹が封印されている遺跡についての情報をティアに知らせないまま反乱軍に流したのだ。


 当然、ティアの事情を知っているアレスはティアの妹を確保しようと動いた。信頼できる仲間を引き連れて遺跡の探索を開始したアレス。


 遺跡の防衛装置や、警備兵として配置されていた無人兵器に苦戦するものの、なんとかティアの妹であるフェルニゲシュを見つけて封印から解き放ったときに事件は起こった。


 当時のアレスの親友であり、反乱軍のエースでもあったグレンデルという青年が、突如として再起動中のフェルニゲシュへと攻撃を加えたのだった。


 実はグレンデルはカークスの部下であり、その攻撃も反乱軍とフェルニゲシュを完全に敵対させるためにカークスによって指示されたものであったのだ。


 元々、封印されたことで人間を憎んでいたフェルニゲシュは攻撃を受けたことで激昂。反乱軍のメンバーを次々と始末していった。


 アレスはフェルニゲシュを必死に説得するも、彼女はアレスの発言に静まるどころか逆に怒り狂うばかり。その間にも反乱軍の損害は加速度的に増えていく。


 アレスの誤算は、ティアと同様に彼女の妹たちにも感情を制御するシステムが組み込まれていると信じていたことだ。


 彼女たちは常に冷静で、純粋な損得勘定で行動する。怒っているように見えてもそれは状況を有利に運ぶための演技のはず。だから冷静に事情を説明すればわかりあえる、と説得の道をとったこと。それがアレスの犯したミスだ。


 当時のアレスは知らないことだったが、感情制御システムとは戦闘に不向きな性格をしていたティアを強制的に兵器として戦わせるために後から付け加えられたものだったのだ。


 当然、元から戦闘向きの性格になるよう調整されて生み出されたティアの妹たちには搭載されていない。

 無駄であるし、それ以前に感情を強制的に抑え込むこのシステムは人格面にどのような悪影響があるか知れたものではないからだ。


 アレスの不幸はそれだけではない。運の悪いことに、よりにもよって相手が三姉妹の仲で一番好戦的かつ残虐なフェルニゲシュだったのもそうだ。もしこれが次女のレヴィアタンが相手だったのならまだ話が通じた可能性もあったのだが。


 これらの不運が重なり、反乱軍はアレスを残して全滅。アレスも生き残る為に必死に抵抗し……その結果、フェルニゲシュを破壊してしまった。


 本来ならばフェルニゲシュはティアと同格のスペックを持つ相手であり、アレスが敵う相手ではない。


 しかし、戦場が室内であったためにフェルニゲシュが自慢の機動力を発揮できなかったこと。完全に無防備な再起動中にグレンデルの不意打ちを受けたことでダメージを受けていたこと。さまざまな幸運が重なった結果、なんとかアレスは勝つことができたのだ。


 しかし、これが原因でティアは発狂。自分から妹を奪った人類を憎み、根絶やしにせんと行動を開始する。


 アレスも襲われて瀕死の重傷を負う羽目になるのだが……幸運な事に、襲われた場所がたまたまエルフの隠れ里の近くであり、エルフに拾われて九死に一生を得ることになる。


 ちなみにこの騒動の引き金を引いたグレンデルはフェルニゲシュへ攻撃を加えると同時に全力で逃走し、無事逃げおおせていたりする。


 しかし因果応報というべきか、暴走したティアの手でカークスとともにルドラ王都ごと焼き払われる羽目になるのだが。






「とりあえず、目的は無事に果たせたんだからよしとしよう。次はティアの好感度を稼がないと」


 アレスが自分に言い聞かせるように口を開く。

 無事にティアを確保することができたた今、未来で起こる問題のほぼ全てが解決したと考えていいだろう。


 何せ、未来で起きる争乱はティアが元凶なのだから。ティアさえ抑えておけば回避できるはずだ。


 未来でティアに惚れていたカークスがどう動くかは少し気になるが、カークスは横恋慕をするような男ではないし問題はないだろう。


 そう。不愉快だが、未来ではカークスが先であり自分は後、という形だった。だからこそ、カークスは惚れた女を盗られたと激昂したわけだ。


 しかし、今は逆だ。自分が先にティアと出会い、さらに信頼を得た。つまり自分とティアがどれだけよろしくやろうが、誰にも咎める権利はない。


 なら、自分がすべきことは一つだ。ティアをひたすら甘やかす。それだけだ。


 今のティアは信じていた国に裏切られた上に、唯一信じられる家族は封印されてどこにいるかわからない、と精神的にとても不安定な状態だ。


 ゆえに、今のティアはかなりちょろい。ほんの少し優しい態度を取るだけで、簡単に最高レベルの信頼を得られる。


 少々ずるいような気もしなくはないが、ティア本人も未来で「卑怯だろうがなんだろうが勝てばいい」と言っていたし。うむ、自分はティアの教えに従うだけだ。別にやましいことなどない。


「そろそろティアも部屋に案内された頃だろうけど……少し待つべきかな」


 今すぐ部屋に行くより、もう少し待って、ティアが不安な思いを抱いてから行った方が好感度が稼げるはず。現在のティアは封印開放初日という事もあって、史上最高と言ってもいいほどに弱っている。きっと、一人でいるということに耐えられないだろう。


 そう考えたアレスは、そのまましばらく自室で時間を潰してからティアの部屋へ行くのであった。






「ティア、今いいかい?」


「うん! いいよ!」


 アレスがノックをして部屋の中にいるティアに声をかけると、待ってましたといわんばかりの喜びに満ちた声が返ってきた。


 がちゃりと部屋の扉を開けると、満面の笑みを浮かべたティアが顔を見せる。


 もし彼女に尻尾がついていれば、喜びのあまりブンブン振っているであろう。そのぐらいの喜び具合だ。


 そのあまりの喜びように、少し不安にさせすぎちゃったかなとアレスは軽い罪悪感を抱くのであった。

この世界のエルフにとって銀髪は悪魔の象徴みたいな扱いをされていたりされていなかったり。

ところで幕間と閑話ってどっち使ったほうがいいんだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ