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6 ハインツさんとの模擬戦

 ハインツさんに連れられ、広い庭に出る。

 庭は一面に芝生が敷き詰められ、中央部には池やらベンチやらが設置されていてちょっとした公園みたいだ。


 そして庭の端には背の高い植え込みが壁のように張り巡らされていて、外から覗き見ることができないようになっている。


 その庭で俺とハインツさんは十メートルほど離れて向かい合う。お互いの手には庭に着いたときにメイドさんから渡された、長さ一メートルぐらいの木剣。


 ちょっと待ってなにこれ聞いてない! こんな軽く振っただけで折れそうなしょぼい獲物じゃ気持ちよくなれない!


 そんな俺の内心の不満を知ってか知らずか、朗らかな笑みを浮かべるハインツさん。


「それじゃあルール確認だ。お互いに頭部などの危険部位への攻撃は禁止で、先に有効打を一撃当てた方の勝ち。君には物足りないかもしれないけど、模擬戦で大怪我しましたとかさすがに馬鹿らしいし勘弁して欲しい」


 そう言うとハインツさんは木剣を正眼に構え、その体がぼんやりと光に包まれる。おそらく、魔力による身体強化だろう。


 俺は構えず、右手に剣を握ったまま自然体で立つ。

 そのまま戦闘モードを起動し、開始の合図を待っているとハインツさんが口を開く。


「恐ろしいね。普通、強者というものはそれ相応の雰囲気というか、そんな感じのものを纏っているのだが……君からは何も感じない。恐ろしいほどに何も、ね」


 雰囲気、ねえ。正直よくわからないな。まあ、俺は生身の人間じゃないから、たぶんそこらへんから来る差だろう。

 某野菜人なあの漫画でも人造人間には気配がないとかあったしね。


「それでは、始め!」


 執事さんの開始の声が響くと同時に大きく踏み込み、その勢いのまま片手で袈裟斬りを叩き込む。

 近接戦闘特化型の俺にとって、十メートル程度の距離など無いも同然だ。普通ならこれで終わるが、どうかな?


「……ッ!」


 流石と言うべきか、ハインツさんは俺から見て右側へ軽く跳び回避。俺の側面に回りこみ、剣を振りかぶろうとして――後ろに飛びのいた。


 一瞬前にハインツさんがいたそこを俺の木剣が通過する。へえ、今のを回避するか。流石だな。


「速いね!」


 着地と同時にそう言いながら突撃し、俺に上段から斬りかかるハインツさん。その一撃を木剣で迎撃し、鍔迫り合いの形になる。


「へえ、なかなかのパワーじゃないか!」


「ぬうう……!」


 片手で木剣を握る俺に対し、ハインツさんは両手持ち。しかし俺の方が押している。


 当然だ、魔力で強化したところで所詮は人間。単純なパワーでは兵器である俺に比ぶべくもない。

 ……というか、仮にも兵器である俺が生身の人間に押し負けたらそっちのほうが問題だろう。


 むしろ全力ではないとはいえ、俺相手に持ちこたえられていると言うだけで相当すごい。相手が並のドラゴンやトロールなら単純なパワー勝負でも勝てるんじゃないだろうか、このオヤジは。


「ぬおおおおお!」


 ハインツさんが叫ぶとともに纏っているオーラが爆発的に増加し、俺の木剣を弾いて鍔迫り合いを終わらせた。


 お互いに軽くバックステップをし、体制を整える。

 ぜえぜえと息を荒げるハインツさんに対し、こっちは息切れひとつ無い――まあ、俺はそもそも呼吸とかしてないんだから当たり前なんだが。


 俺がアンドロイドだということや、未来での俺の実力を知っているアレスは特に驚いていないが、審判役の執事さんはそれを知らないので唖然としている。

 こちらに向けられる驚愕の目線が心地よい。ふふふ、驚いたか。これがガルムの力だよ爺さん。


「馬鹿な……ハインツ様が……」


「流石だね。普通の人間なら最初の一撃で沈んでるよ? ハインツさんもわりと人間辞めてるねー」


 執事さんの呆然とした呟きに合わせて俺も口を開く。

 いやあ、手加減してるとはいえ、まさかここまで食いついてくるとは思ってなかった。この強さは予想以上だ。


 まあ、本気ではないのはハインツさんの方もだろうけど。なんとなく、まだ力を隠してる感じがするし……あと、装備的な意味でもか。


 貴族な上に剣聖だとかいう大層な二つ名持ちなんだ、相当いい装備を持っているに違いない。

 装備すると筋力が上がったり、体力が自動回復する鎧とか指輪とかは、俺の時代では前衛を務める者の鉄板装備だった。


 この時代の装備品がどの程度かは知らないが、たぶん似たようなものは持っているだろう。そういう強力な装備品を大量に持ってこられると流石の俺でもそれなりに苦戦するかもしれない。


「いやあお見事。アレスから強いとは聞いてはいたが……まさかこれほどとは」


「まあね。ところで、様子見は終わった?」


「……ああ。正直、君を舐めていたよ。申し訳ない。……お詫びと言ってはなんだが、ここからは全力で相手をしよう」


 そう言い終わると同時にハインツさんの纏う魔力のオーラが激しくなり、さらに蒼く染まっていく。なるほど、それで蒼の剣聖という訳ね。


「はああああ!」


 ハインツさんが木剣を構え、こちらに突っ込んでくる。そのスピードは先ほどまでの比ではない。


 上段、中段、中段、上段、連続で放たれる攻撃を、こちらも相殺する軌道で木剣を振るい弾き返す。


 木剣がぶつかり合うたびに相当な衝撃が返ってくる。スピードだけじゃなくパワーの方もかなり上がっているようだ。


「さっきとは桁違いだ! 凄いね!」


 お返しにと踏み込みつつ、胴体目掛けで突きを放つ。全力、とはいかないがそれなりに力を込めた一撃だ。まあこれで決まりだろう。


「なんのぉ!」


 しかし、横から木剣を叩き込まれ起動を逸らされ、突きはハインツさんの右肩を掠めるのみに終わった。


 今のを凌ぐか。前言撤回、割とじゃなくて本気で人間やめてるわこの人。


 そのまま体をひねり横薙ぎを繰り出すも木剣で防がれるが、関係ない。そのまま力任せに押し切る。

 ハインツさんは抵抗せず、押される勢いを利用して大きく後ろに飛ぶ。


「ちょっと馬鹿力すぎないかな! もうちょっと手加減してもいいんだよ!」


「いやあ、こう見えても負けず嫌いで、ね!」


 文句を言い終わると同時にハインツさんが距離を詰め、上段斬り……と見せかけて横薙ぎを放ってくるので迎撃する。


 悪いけど、反応速度には自身があるんだ。俺に生半可なフェイントは効かないぞ?


 そのまま打ち合うこと十数合。目線はハインツさんに固定したまま、服の袖の部分に仕込まれたサブカメラで木剣を確認する。うーむ、そろそろ木剣の耐久力がピンチみたいなのだが……困った。非常に困った。


 こういう、貧弱な武器を使っての模擬戦は経験したことがないのでどう攻めればいいかわからない。一応、ガルム時代に何度か武器の耐久力が危ない場面に遭遇したことはあるが、そういう時は素直に予備武装に持ち替えていたしな……。


 剣を放り投げて素手で制圧するのはルール的に不味いだろうし、マジでどうしようか。武器破壊を狙おうにも、そこまでの隙は流石にないしなあ。


 俺が少し悩んでいると、ハインツさんが突如手を上げる。


「まいった、私の負けだ! ハハハ、剣が折れてしまったよ」


 ハインツさんが木剣を横向きに持ち、軽く上下に揺すると木剣が中央辺りから折れて庭に落ちる。


 ……むう、できれば一撃入れて勝ちたかったんだけどなあ。ちょっと遊びすぎたか? でも、だからといって本気出すのはちょっと大人気ないしなー。


 少々モヤモヤした気分を抱えつつも、とりあえず勝ちらしいので俺も大人しく木剣を下げることにした。

戦闘シーン難しいでござる。

非力な私を許してくれ......

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