39 vs自動兵器 そのに
へし折れて飛んでいく硬鞭を見て俺は内心で激しく焦る。
不味い! これは非常に不味い!
完全にこの一撃で仕留めるつもりだったので、俺は硬鞭を思いっきり振り切った状態だ。
そして、対するグリーズは俺の一撃を受けて頭部が少し凹んではいるものの、大してダメージを受けた様子ではなかった。少なくとも行動停止には程遠いだろう。
つまり、結果として。俺はよりにもよって、グリーズの目の前で大きな隙を晒してしまう羽目になったわけだ。
「くっ……! ってわわ! や、やだ!」
そして、その隙を見逃してくれるほどグリーズは甘くない。グリーズは右手に握る剣を素早く手放し、その大きな右手で俺の右腕を捕らえた。そして右手と同様に左手の盾も手放し、開いた左手でそのまま俺の左腕も捕らえる。
し、しまった。ちょ、こら! 待った、今のなし! もう一回! もう一回!
両腕を捕らわれた状態でグリーズに高く持ち上げられ、強制的にバンザイの形を取らされて両足がブラブラと宙を舞う。やだ、これ、情けない! カッコわるい!
「ティア!」
「ティアさん!」
俺がグリーズに捕らわれたのを見て、ポーラとヘンリーが悲鳴を上げる。
ちょっと待って! 見ないで! 恥ずかしい俺を見ないでくれ!
「このぉ! こらっ、離せぇっ!」
叫びながら腕に力を込めたり体を揺すって抵抗してみるも、俺の腕を握るグリーズの手はびくともしない。
や、ヤバいこれ! かなりヤバい! 人目があるからってちょっと手を抜きすぎたかも!
「ティ、ティア! ……がぁ!?_」
捕らわれた俺を見てアレスが激しく動揺し、その隙をグリーズに突かれて思い切り蹴り飛ばされて壁へと叩きつけられる。
「アレス!? アレス! アレスぅ!」
「ぐ……くそぅ……」
必死にアレスの名を叫ぶと、悔しそうなアレスの呻き声が聞こえてきた。よかった、生きてる! でもかなりのダメージを受けてるみたいだ……!
「大丈夫! これなら治せるわ!」
そして、更にポーラが駆け寄ってアレスへ回復魔法をかけ、問題ないと声を上げたのを聞いてほっと息を吐く。
「ひっ!」
そんな俺に対し、まるで俺を忘れるなと言わんばかりに俺の腕を捕らえるグリーズの両手に力が込められた。両腕にかなりの圧力がかかったのを感じて俺の顔が引き攣る。
ちょっとこれは洒落にならないぞ! このままじゃ冗談抜きに腕が潰される!
俺の耐久力ならまだしばらくの間は持つけれども、あまり余裕はない。こうなったら手加減とか人間のフリとか言ってられん! 本気出して抜け出さないと……!
……手首を捕まれた状態でどうやって? パワーは俺のほうがちょっと上だけど、そこまで劇的な差があるわけでもないし……。一体どうやってこの状態から抜け出せばいいんだ?
あ、駄目だ、これ。逃げられない。
絶望的な状況を理解してしまい、あまりの情けなさと悔しさにじわりと目の縁に涙が浮かんでくる。
本来なら余裕で勝てる相手だというのに、見下して、油断して、手を抜いた結果がこれか。ああ、情けないなあ。こんな姿、とてもではないが研究所のみんなには見せられない。
「や、やだ! 離せぇ! 離せってよぉ!」
「くっそぉー!」
「ティアさんを離せぇ!」
「援護するわ! プロテクション!」
大声で叫びながら涙目で必死に足をジタバタさせる俺を見て、アーノルドとそしてその部下である二人の騎士が俺を解放しようと必死にグリーズへと飛びかかる。そして、ポーラは補助魔法を唱えその全員を援護する。しかし――。
「ガァ!」
「グェア!」
アーノルドの部下である二人の騎士がグリーズに一人は蹴り飛ばされ、もう一人は踏みつけられて悲鳴を上げる。
蹴られた一人は壁に叩きつけられ、血を吐いてから動かない。恐らく死んだのだろう。胴体を踏みつけられたもう一人は考えるまでもなく即死だ。
「おのれぇ!」
目の前で部下を殺されたアーノルドが叫び、騎士を踏みつけたままのグリーズの左足を全力で斬りつけるが。が……。
「グッ……なんて硬さだ!」
斬りつけた剣のほうがへし折れ、反撃の蹴りを食らいそうになったので慌てて距離を取る。そして、グリーズがそれを追いかける。
アーノルドはそのままグリーズの蹴りや踏み付け攻撃をギリギリのところでかわし続けていたが、徐々に追い詰められていく。
そして、疲労からかアーノルドの動きが少し鈍くなった瞬間、グリーズの前蹴りがアーノルドへ直撃してしまった。
「ぐあっ! ……がぁ!?」
蹴りが直撃する直前。アーノルドはとっさに防御体制を取ると同時に、その威力を殺そうと背後へ飛びのいたようだが……当然ながらそれだけでグリーズの蹴りを防げるわけもなく、勢いよく背中から壁へ激突した。それを見てポーラが悲鳴を上げる。
「アーノルドさん!」
しかし、やはり隊長というだけあって一般騎士である先の二人よりも強いのか、大ダメージを負って意識こそ失ったものの死んではいないようだ。がくりと頭を下ろして動く様子を見せないが、その体はほんの少しだけ動いている。
そして、アーノルドとその部下二人がやられている間もグリーズは俺の腕を握りつぶさんとその両手に力を込め続けていた。
「離せ……よぉ! この! んぅう……!」
一応、必死に抵抗を続けてはいるものの、俺はもう内心では諦めていた。
アレスは壁際でポーラから治療中。ヘンリーは戦闘では役立たず。アーノルドたちの攻撃も無意味に終了。
ああ、これは駄目だな。一応、識別信号を発信してみる手も考えはしたが……まだヘンリーがこちらを見ているのでそれはできない。
というかタイミングを失ってしまった感じだ。捕まった俺を助けようとして二人の騎士が死んでいるというのに、今さら識別信号をONにしてそれで抜け出したら……。
うん、なんていうか色々と台無しだ。最高に情けない上に最高にカッコ悪い。さすがの俺でも、ちょっとその選択肢は取れないかなーって。
まあいい、仕方ないから両腕はくれてやるか。俺には人間と違って失血死とかそういうのもないしな。
両腕の圧壊となればそれなりに時間は食うだろうが、自動修復機能で対処可能だ。パーツさえ残っているのならば問題なく直る。
とりあず腕はくれてやるとして、問題はその後だ。
腕が潰れたら、潰れた腕を自分で引き千切って飛び降りる。んで、今度こそ本気の本気で壊れるまでひたすら蹴りまわして破壊する。……こんなところか。
作戦とも言えないような雑な作戦だが、基礎スペックでは俺のほうが上回ってるんだから真面目にやれば勝てるはずだ。両腕が破壊されたとしても、その結果は変わらない。
それにしても、まさか仮にもガルム最強の兵器様が、いくら主力機とはいえ量産型の無人兵器に両腕を持ってかれるとはなあ。油断慢心、ダメぜったいだな。今後は気をつけよう、反省反省。
両腕に関しては授業料として諦めるしかなさそうだ。授業料にしては少々高くついたが、仕方ない。
俺が内心で腕を捨てる覚悟を決め、グリーズを睨みつけた瞬間――。
「ちょ、アレス! まだ治療ちゅ――!」
「ティアに……手を出すなぁ!」
赤い閃光が、俺の右腕を掴むグリーズの手を斬り落とした。




